第三話
アリアナはシェリル達のサポートもあり、何とかミルティナの機嫌を損なわずに過ごすことができていた。
ミルティナのいない隙に交わされた会話は、アリアナが憧れ求めていたものだった。
「長期休暇に入ったら、領地へ遊びにいらっしゃいませんか?」
「よろしいのですか?」
「ええ!是非いらして!」
「嬉しいです。喜んでお邪魔いたしますわ!」
ほんの一瞬の短い会話を何度も何度も積み重ね、アリアナは夢にまで見た友人を手に入れた。
休みの日に出掛けてミルティナに遭遇すれば何かされるかもしれないと、外で会うことはなかったが、
学園で話せない分、手紙のやりとりをするようになった。
好きな本や好きなスィーツ。趣味や毎日の過し方、思い出など。もちろんミルティナの悪口も。
毎日のように手紙へ書き綴った。
時に給仕をしたり、荷物を持ったり、ミルティナの言葉を肯定してさえいれば、学園生活は平穏であった。
しかし、その平穏が壊された。
クラスにクルサード王国のフェルナン王太子殿下が来たのだ。
「フェル!」
「やぁ、ミルティナ。迎えに来たよ。母上が商人を呼んだから一緒にどうぞって伝言だ。
新しいドレスを欲しがっていたよね。僕もプレゼントしたいから一緒に選ぼう。」
クラス全員が立ち上がり、礼をとっている中、嬉しいわ!と、ミルティナはフェルナンの腕に絡みついた。
「……ところで……。
その娘が噂の編入生かい?
綺麗なカーテシーだね。名前は?」
「クルサード王国フェルナン・クルサード王太子殿下にご挨拶申し上げます。……アリアナ・バトンと申します」
「ああ、声も言葉も美しいね。
どうだい、僕の婚約者にならないか?」
突然のことに、頭を下げたままのクラスからざわめきが起こる。
「……。有り難き申し出でございますが、すでに私は婚約しております。王太子殿下の御心にお答えすることはできません」
「相手は子爵か?男爵か?爵位が高くても伯爵が限度だろう。僕は王太子で、いずれはこの国の王となる。婚姻すれば君は王妃になる。地位も名誉も手に入れることができるぞ」
「……彼をお慕いしているので、申し訳ございません」
「……王妃になれるのだぞ」
「……申し訳ございません」
「……。」
「……。」
「……は、ははははは!そりゃそうだ!すまないね、冗談だよ。みんな遅くなったが顔を上げてくれ」
許可が出たので、アリアナ達はゆっくりと頭を上げる。
金髪の長い髪を後ろで束ね、ミルティナに似た顔立ちに同じ茶色の瞳のフェルナン王太子殿下が、面白そうにこちらを見ていた。
「ほう……。噂以上の美しさじゃないか。冗談ではなく本気になりそうだ。どうだもう一度…考えてみな「フェル!おば様を待たせたらいけないわ!行きましょう!」
ミルティナはフェルナンの言葉に被せて、更に腕ぎゅっとしがみつく。
「あははは、そうだね。ではまた。皆もまた会おう」
ミルティナはフェルナンの肩越しにギッと睨みつけて教室から出ていった。
次の日からは言わずとしれたもの。
給仕はすべてアリアナがやり、スプーンやフォークを頻繁に床に落とし拾わされる。
荷物は一人で運ばされ、その荷物には重りが入っていた。
「いい気になるなと言ってあったわよね」と言われる度に足を踏まれる。
「たかが子爵風情が」と椅子を蹴られる。
そちらこそ同じ子爵令嬢なのだが、という理屈はミルティナに通用しない。
息ができるのは、授業時間とフェルナンに会いにいく時だけだった。
一月ほどそんな状態で過ごしていたアリアナのもとに一通の手紙が届いた。
読んでいただき、ありがとうございました。
2話目は22時にアップします。




