第二話
クルサード王国の王リカルド国王は学生時代、当時子爵令嬢であった現王妃マジェスタと恋に落ちた。
幼き頃からの婚約者、フォスティーヌ・ヒュルケンベルグ公爵令嬢がいるにも関わらず、真実の愛と宣言し、卒業パーティーで婚約を破棄した。
マジェスタは王妃教育を受けることなく、クルサード王国の王妃となった。一説によると、教育は受けたものの形になることはなかったらしい。
溺愛するリカルドは、
「マジェスタの癒しは国の頂きにいる孤独な王に必要なものだ」と反対する大臣達を説き伏せ、側近を味方にマジェスタを王妃に据えた。
マジェスタはひどく庇護欲を誘う令嬢だった。
ミルティナと同じ薄桃の髪に茶色の瞳。小柄であるものの、豊満なスタイル。とびきりの笑顔と美しい涙。リカルドだけでなく、リカルドの側近もマジェスタの虜になった。
異性は純粋で心の綺麗な令嬢だとマジェスタを評したが、同性は、あざといと断言する。異性と同性との態度が違うのだ。
何度、今は夫となった婚約者を窘めたかわからない。
リカルドと同年代の貴族は、今でも仲があまり良くない夫婦が多い。
そんな者が王妃になったのだ。仕事もできず、ただ血税を消費するだけの者が。
ただ綺羅びやかな贅を尽くしたドレスで夜会に出席する。が、他国の行事に行くことはない。大陸共通の帝国語が話せないからだ。
それでもマジェスタは満足している。このクルサード王国で一番の女だから。ある意味、身の程を知っているのだろう。
誰も何も言わない。リカルドはもちろん、学生時代側近だった者は、宰相、騎士団長、財務大臣に昇進している。国の中枢を担う者が、マジェスタの輝かしい姿に惚れ惚れしている。
国の権力は傾き、外交はしない。
そんなことで、国は回るのか……。
回るわけがないだろう。
王城の離れには、側妃フォスティーヌがいた。
仕事のできぬ王妃の代わりに召された元婚約者。
マジェスタに恨まれながらも、リカルドとの間に王女を授かった。だがそれまで。
リカルドが離れに渡ることはなくなり、届けられるのは贈り物ではなく、膨大な書類であった。
幼き頃からの婚約者であったものの、フォスティーヌにリカルドへの愛はない。あったのは公爵令嬢としての矜持。国への愛。
実質、政事はフォスティーヌが住む王城の離れで行われていた。
王族の住む場所を王城、執務が行われる場所を王宮というのなら、離れは間違いなく王宮であった。
しかし、一人では限界がある。子育てしながら国を支えるには、明らかに手が足りない。実家はもちろん、マジェスタに取り込まれていない家から文官や武官を引き入れてはいたが、何しろ国の中枢がアレなのだ。面倒事はひっきりなしに起きる。
フォスティーヌが倒れる手前で助けたのが、子爵夫人ソニア・ハイドフェルドだった。マジェスタの妹であり、ミルティナの母だ。
ハイドフェルド家は爵位こそ子爵であるが、歴史は長く、代々優秀な文官を輩出している。領地では教育に力を入れ、平民でも王宮や高位貴族に雇われている者が多い。
シェリルが語った陞爵の話も長年の国への貢献があるからだ。
今までも陞爵の話は出たが、断わっていた。
今回もすでに断っているだろう。マジェスタがやらかしているのだから。
ソニアとフォスティーヌは学生時代からの友人だ。地味ではないが、物静かで成績優秀なソニアは本来のハイドフェルド家らしい令嬢だった。
マジェスタだけが異質だった。
ハイドフェルド子爵家は、マジェスタとソニアの姉妹のみで、男児はいない。
長子のマジェスタが継ぐ予定だったが、当時の王太子リカルドと婚姻した。そこに子爵家の許諾はなく、一方的に行われたのだ。
子爵家は蚊帳の外だった。もちろん反対はしたが、すでに婚姻届は提出済み。初夜も済ませ、披露宴を待つだけだった。一体いつから話が進んでいたのか……。
マジェスタは王妃になれるような教養はないし、才もない。子爵家さえも危ういほどで、マジェスタが継ぐ際には遠縁から実直な伴侶を見つける予定だった。
ヒュルケンベルグ公爵家に謝罪と多額の慰謝料を払い、ハイドフェルド子爵家は一時落ちぶれていた。
しかし、ソニアの夫アルベルトの領地経営力と、ソニア自身がフォスティーヌの補佐になったことで、何とか持ち直した。
マジェスタは、自分だけが大切で、実家がどうなろうが関係ない。その傲慢さを隠し、異性に擦り寄り今の立場を確立した。
ミルティナの外見は、マジェスタにそっくりだ。
まだ幼い時にソニアはミルティナを王女の遊び相手として王宮に連れて行った。
しかし、目を離した隙にいなくなり、見つけたのは王城の四阿で、姉のマジェスタとその息子のフェルナンとくつろいでいた。
馬が合うとはこういう事か。
それからのミルティナは今までしなかった行動や態度をするようになり、教育も遅れ始めた。
「勉強なんてしなくていいって、おば様が言ったわ!可愛ければ良いって!おば様は王妃様よ。お母様よりずっと偉いわ!だからおば様のほうが正しいのよ!」と言って聞かない。
それどころか、勝手に王城へ行き、帰ってこなくなった。
マジェスタから「ミルティナは私が育てる」と手紙が届き、抗議したものの、ミルティナもそうしたいと言っていると切り捨てられた。
ミルティナは外見だけでなく、中身もそっくりだった。教育の名のあるハイドフェルド家の人間が何たることか……。
我が娘がこんな事になるなんて……。
本日二話目です。
読んでいただき、ありがとうございました。




