第一話
クルサード王国貴族学園の最終学年に、
アリアナ・バトン子爵令嬢が編入した。
真っ直ぐに流れるようなシルバーブロンドの髪に、深く青い瞳、白い肌のアリアナは美しく、クラス生徒全員が目を奪われた。
長い間病弱で領地にこもっていたが、
体調が安定したため、学園に通うことになったらしい。
「残り一年しかございませんが、よろしくお願い致します」
その様は質の高いカーテシーだったため、病弱な娘を思って、両親が良い家庭教師をつけたのだろうと推察した。
チャイムが鳴り授業が終わるたび、男子生徒はアリアナの美しさに吸い寄せられるように席を取り囲む。
質問されれば、穏やかに笑みを崩さず答えるアリアナ。仕草が丁寧で無駄がない。
「家庭教師が優秀な方だったのです」
本当に子爵令嬢なのかという問いにそう答えると、
「褒めていただけて嬉しいです。ありがとうございます」と締める。
「学園を案内するよ」
「分からないことがあったら僕に聞いて」
「ちょっと!編入生が困ってるじゃない!そういう事は女子がするべきでしょ!相手は女の子なんだから!」
一人の女子生徒が、男子生徒をかき分けて怒鳴る。
アリアナも質問攻めに疲れを感じてきた時だったので、ホッとした。
「……ミ、ミルティナ様」
「い、いいじゃないですか、男子でも……」
「うるさい!ねぇ、あなた。私はハイドフェルド子爵家長女ミルティナよ。よろしくね。
ランチはどうする?食堂に行くなら案内するわよ」
「アリアナ・バトンですわ。ありがとうございます。皆様はいつもどうなさっているのかしら」
「もちろん食堂よ。美味しいのよ!ああ、私のことは名前で呼んでね!」
「では、ミルティナ様、お願いしますわ。私もアリアナとお呼びください」
「わかったわ、アリアナね!じゃあ、みんな行くわよ!」
このクラスのリーダーはミルティナらしい。
クラスの女子を引き連れて颯爽と食堂に向かう。
学園のクラスは爵位で分かれており、子爵令嬢のアリアナが編入したのはもちろん下位貴族のクラスだ。
「校舎も食堂も高位貴族と違うから気楽なのよ。肩苦しいことはないから安心してね。」
ミルティナ達が食堂につくと、明らかに他とは違う席が用意されており、ミルティナは当たり前のようにそこへ向かった。他の女子生徒は、近くの普通の席に座る。
「どうぞ、座って」
「あ、ありがとうございます。あの……」
「ああ、気にしないで。いつもこうなのよ。
実は、私の母の姉が王妃様でね、私はとてもおば様に可愛がられているの。
みんなも知っているから、特別扱いをされるのよね。私は遠慮してるんだけど……。
仕方ないわよね。あまりに溺愛されてるもの。だから私なかなか家に帰れなくて王城に部屋があるくらいなのよ。
本来なら王太子殿下と同じ、高位貴族のクラスが相応しいのだろうけど、母が姉の代わりに継いだのは子爵家。仕方ないわ。」
「……そうなのですね」
どうぞ食べて。と、クラスメイトが運んできたランチを勧める。
「明日からランチはあそこから自分で受け取ってね。今日は特別。
ああ、そこのあなた。教室まで連れて行ってあげて。私はいつも通り、フェルナン王太子殿下に挨拶に行くわ。
そういう事だから、
……あまりいい気にならないことね」
行くわよ。と言って、ミルティナは2〜3人を連れて食堂から出ていった。
「……驚いたでしょ……」
「え、ええ」
教室に連れて行くようミルティナに指示されたのは、シェリル・アロンソ男爵令嬢。
「あの方には誰も逆らえないの……」
「……そうなのですね。王太子殿下に挨拶なさるそうですが、その……、高位貴族の方々は何もおっしゃらないの?」
シェリルは頭を横に振る。
「もちろん苦言を呈される方もいらっしゃるわ。
でも、ミルティナ様は、王太子殿下の従兄妹ですし、王妃陛下も王太子殿下も、それはそれは溺愛なさっているの。
将来は王妃陛下の養子として、ルクレール帝国の皇太子妃になると自慢げに吹聴していたわ。
ルクレール帝国は、この国の宗主国。数あるうちのただの属国が選ばれるわけないのに……」
それにね、とシェリルは話を続ける。
「王妃陛下のご実家のハイドフェルド子爵家は近々陞爵されるそうよ。学園内どころか、王国内でも力を持つわ。
あの方に逆らえば、家ごと潰されるかもしれない。
あなたも気をつけてね」
「わかりましたわ。ありがとうございます」
でも羨ましいわ。あなたは一年だけ我慢すればいいのだもの。私達はもう五年も我慢しているのよ。とシェリルはため息をつきながら教室までアリアナを連れて行った。
アリアナも、やっと通えた学園でこんなことになるなんて……と、シェリルと同じようにため息をついた。
それからはミルティナを刺激しないよう行動した。
初日にアリアナの席を囲った男子生徒達は近づかなくなった。きっとミルティナから抗議が入ったのだろう。アリアナとは目も合わさない。
それはミルティナも同じで、アリアナをその他大勢として扱った。名前さえ呼ばない。
アリアナもクラスの女子生徒と同じようにミルティナに付きながらも、彼女を冷静に観察していた。
クセのある薄桃の髪と茶色の瞳を持つミルティナは、王妃と王太子のお気に入りを豪語しているものの、淑女教育が身についていない。
食事中は音を立てることもあるし、言葉遣いもそう良くはない。子爵令嬢としては最低ラインで、市井に紛れれば、裕福な平民程度のマナーだった。
とても大陸の覇王ルクレール帝国の皇太子妃など務まるわけがないが、本人は自信満々だ。
アリアナにとって、学園生活は憧れだった。
友人と楽しくおしゃべりをする。
誕生日にはプレゼントを贈り合う。
茶会を開き、互いの家を行き来する。
アリアナが今までできなかったことを、この一年で体験したかった。
初日に教室まで付き添ってくれたシェリルを含め何人かとは親しくなったが、それもミルティナがいない場合のみだ。
ミルティナは自分中心の話以外を嫌う。彼女を除外して話すと、虐げられたと王太子に訴えると叱責されるそうだ。
他クラスはどうかというと、見ないふりをしている。貴族の令息令嬢は13歳から学園に通う者がほとんどで、皆がミルティナに煮え湯を飲まされてきた。今のほうがまだマシだと言う。低学年時はひどかったらしい。
癇癪を起こし、ものを投げる。教科書を破る。暴力を振るう。
学園に訴えても、大きな力で潰された。
歳を重ねると共に癇癪は無くなったが、その分狡猾になったらしい。王妃と王太子を後ろ盾に権力の使い放題。クラスメイトを使用人の如く扱っていた。
読んでいただき、ありがとうございました。
一日二話19時と22時にアップする予定です。




