#36 機甲竜
深く、どこまでも続く暗闇の迷宮。数万年前に天空の果てより落ちてきた巨大な隕石によって穿たれたという、この途方もない隕石孔の深淵で、我々ザクセン共和国調査軍は進撃を続けていた。
第一階層から始まった戦いは、階層を下るごとに激しさを増し、数多の兵士の命と戦闘機が血生臭い洞窟の岩に呑み込まれてきた。ようやく我々は第十九階層まで到達し、第二十階層の入り口へと差し掛かろうとしていた。
『こちら偵察機。第二十階層への通路前方に、巨大な影を視認……きょ、巨大な、鋼鉄の塊、いや、巨大戦車か……!?』
第十六階層の前線基地にある薄暗い司令部小屋に備え付けられた無電から、その第二十階層に向けて飛び立った偵察機の操縦士からの不可解な報告の声が響き渡る。
エーベルハルト大将はレーマン大佐らとともに、そのノイズ混じりの報告に耳を傾けていた。
「何のことだか分からんぞ、状況をありのまま、正確に報告せよ!」
『竜の形ながら、鋼鉄製の身体の表面に、多数の砲塔を視認! その先の通路を塞ぐように鎮座しています。こんな形の敵は……見たことがありません』
その報告に、テント内の空気が凍りついた。
鋼鉄製の竜の身体に砲塔? これまで遭遇してきたワイバーン級やブレスドラゴン級、不可視の光学迷彩を持つ個体など、確かにこの隕石孔の魔物たちは我々の常識を覆し続けてきた。しかし、多数の砲を備えた竜など、およそ生物の枠を完全に逸脱している。
おまけにそれは、鋼鉄製だというから、ますます生物の粋を脱している。
『砲塔が一斉にこちらへ攻撃を開始! ただちに回避……』
攻撃を知らせる通信の直後、スピーカー越しに聞こえてくる凄まじい爆発音。それを最後に、偵察機からの通信は途絶えた。つまりそれは、偵察機の撃墜を意味していた。
重苦しい静寂が、司令部内の中を支配する。
「通信途絶。おそらくは撃墜されたものと思われます」
「うむ、ただの竜ではないということか。機械と融合した竜……いや、あるいは竜の形をした機械兵器なのかもしれない」
エーベルハルト大将の代理として作戦を指揮するレーマン大佐が、冷徹な声で呟いた。
前回遭遇した強力な個体たちとは明らかに次元が異なる、極めて強力で異質な敵が待ち構えていることは明白だった。無策のまま大部隊を突っ込ませれば、先ほどの偵察機と同じ運命を辿ることになる。
「閣下、威力偵察が必要です」
レーマン大佐は、エーベルハルト大将に進言する。
「敵の攻撃手段や防御力、その特性を見極めなければ、作戦の立てようがありません。かといって大部隊を送り込めば、的になるだけです。防御魔導を展開しつつ機動戦を行える少数の単座機で、敵の懐に飛び込みその実態を調べるべきです」
レーマン大佐の言葉に、大将閣下は深く頷いた。
「その通りだ。敵を知らずして、戦いに勝利することはあり得ない。こういうことは、第二対竜戦闘隊の単座機が得意だろう。すぐに威力偵察を命じよ」
「はっ、了解であります!」
レーマン大佐が、エーベルハルト大将の命を受け司令部とされる丸太小屋から出ていく。一人残された大将閣下は、こう呟く。
「いよいよ、最後の敵だな」
◇◇◇
千二百馬力の星型エンジンが咆哮を上げる。我々、第二対竜戦闘隊の四機の「撃竜」は、前線基地の滑走路を蹴って暗闇の縦穴へと飛び立った。
これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた「一番機」の操縦桿を握りしめる。手のひらに伝わるエンジンの振動が、今の私に不快しか感じない。なんだっていつも、こういう仕事は第二対竜戦闘隊なんだ。
魔力探知機は前方の強大な反応を捉えており、警告音がコックピット内に鳴り響いている。
やがて、第二十階層の入り口へと続く空洞に差し掛かった時、我々はその異様な姿を目の当たりにした。
『……なんてことだ。まさかとは思ったが、偵察機の報告通りの姿だな』
隊長の驚愕の声が無線から漏れる。私もその敵の姿に、思わず息を呑んだ。
そこに鎮座していたのは、もはや翼竜と呼ぶにはふさわしくない、まさしく「要塞」そのものだった。
翼竜のシルエットは保っているものの、その全身は薄黒く鈍い光沢を放つ鋼鉄の装甲板で覆われ尽くしている。さらに恐ろしいのは、その広げた巨大な鋼の翼や、分厚い胴体、そして長い首の至る所に、大型戦車の副砲を思わせるような無数の砲門が突き出していることだった。
その砲身が、一斉にこちらに向き出した。
「敵の砲塔、こちらを指向しています! 攻撃、来ます!」
『防御魔導を展開、二機一組で突入、できる限り接近し、敵の力を知ること。これが今回の目的だ』
私が叫ぶと、隊長が私とファルケンベルク曹長に防御魔導を展開するよう命じる。
「我が魔導の光よ、相反する極光となりて、すべてを拒む盾となれ!」
緑色の障壁が生じる。その二機の後ろにそれぞれ、隊長機とヴァーグナー曹長機が並ぶ。その鋼鉄の竜――「要塞竜」ともいうべき体表にある十数門の砲塔が一斉に火を噴いた。
放たれたのは、これまでの竜が吐き出してきたような炎や光のブレスではない。明確な質量と破壊力を持った、まさしく「砲弾」だった。
赤い曳光を描きながら、無数の砲弾が空気を切り裂いて我々の編隊に殺到する。が、防御魔導が、その鉛玉のような敵の放った砲弾をはじき返す。
『さらに接近する! 隙があれば、七.七ミリを放て!』
シュタイナー大尉の号令と共に、我々はその巨体に突入する。
私は操縦桿を固定しつつ、砲弾の雨を浴び続ける。魔導障壁の表面で、砲弾がすさまじい勢いで破裂する。にしても、正確な射撃だ。おまけに威力も大きい。徹甲弾並みか。散弾式出なかったのはせめてもの幸いだが、あれを一発でも被弾すれば、ジュラルミン製の撃竜など一瞬で木端微塵だろう。
ズーンという凄まじい衝撃音が、弾を受けるたびにコックピット内に響く。全身の骨が軋むほどの反動が私を襲う。障壁の表面で砲弾が砕け散って火花となり散乱し続ける。が、なかなか敵は攻撃の手を緩めない。
攻撃する暇すら与えない。その衝撃の強さは尋常ではない上に、攻撃の頻度が高すぎる。
『くそっ、弾幕が厚すぎる! これでは攻撃することすらできん!』
ファルケンベルク曹長が無線で悪態をつく。彼の機体の周囲でも、絶え間なく砲弾が炸裂し、黒煙が空洞を覆い尽くそうとしていた。
要塞竜は微動だにせず、ただその場に鎮座したまま、全身の砲塔から正確無比な対空砲火を浴びせ続けてくる。それはまるで、我々が不用意に近づくのを待ち構えている巨大な鉄の罠だった。
『急旋回しつつ、反転し退却だ。写真や敵の攻撃に関する情報は十分に取れた。偵察任務としては上々と言えるだろう』
隊長の後退命令に従い、我々は防御魔導を張ったまま、その空域を離脱した。
単独の竜としては、間違いなくこれまでで最悪かつ最強の厄介な相手だ。
命からがら前線基地へと帰投した我々の情報は、すぐさま司令部小屋にもたらされる。作戦会議が開かれていた。
そんな司令部の対応を待ちつつ、第二対竜戦闘隊でもブリーフィングが行われる。
「あの要塞竜の砲撃は、極めて正確で弾幕も濃い。だが、所詮は固定砲台だ。機動力では我々が勝る」
シュタイナー大尉が、現像された写真を前に置きながら語る。
「今度は第二対竜戦闘隊の全機で出撃することになるだろう。四方八方から同時に散開して攻撃を仕掛ければ、奴の砲塔の処理能力を超えるはずだ。一斉に魔導砲を浴びせかけ、あの忌まわしい砲台を破壊する」
「しかし隊長、あの分厚い鋼鉄の装甲に、果たして我々の魔導砲が通用するでしょうか?」
私の懸念に対し、隊長は頷いた。
「そこだ。奴の装甲の強度が未知数である以上、純粋な物理的破壊力も試す必要がある。フィッシャー軍曹、貴官の機体には、例の二百五十キロ爆弾を懸架してもらう」
「つまり、二番機を使うのでありますか?」
「そうだ。他の機体が魔導砲で弾幕を張り、敵の注意を惹きつけている隙に、貴官は上空から急降下爆撃を行い、あの竜の頭部に爆弾を叩き落とせ。物理攻撃がどれほど通用するか、その目で確かめる」
「はっ、了解いたしました!」
かくして、第二次攻撃作戦が発動された。
私の乗る「撃竜」二番機の胴体下部には、その小さな機体には不釣り合いなほど重々しい二百五十キロ爆弾が懸架された。爆装した単座機は離陸滑走距離が伸びるし、操縦も極めて重くなるから苦手なのだが、そうも言ってられない。
それに、私にはこれまでの戦いで何度もその二百五十キロの爆弾を的に叩きこんできた、絶対の自信がある。
そして、いつも通りではあるのだが、司令部からもほぼ同様の命令が届いた。ただ、その中身は曖昧なものだった。
「第二対竜戦闘隊は直ちに出撃し、第二十階層の前に立ちはだかる機甲竜を排除せよ」という、ひと言だけだった。これのどこが作戦? あれだけ時間をかけて、出した結論はこれかよ、と。
まあ、いつものことだ。我々は、自分自身のために戦う。ただ、それだけだ。
補充された双胴竜を含め、我が第二対竜戦闘隊は三十数機の撃竜と双胴竜が大編隊を組み、再び第二十階層の入り口へと向かう。
『目標視認! 全機、散開して包囲陣形をとれ! 攻撃開始!』
司令部より「機甲竜」と名付けられたその機械の塊のような竜の姿を捉えた瞬間、隊長の号令が下った。
我々は一斉に散開し、前後左右、あらゆる角度から要塞竜へと殺到した。
敵も黙ってはいない。全身の砲門が火を噴き、再び空洞を埋め尽くすほどの弾幕が展開された。しかし今回は、目標が分散しているため、一機あたりに集中する砲火は激減している。
よし、狙い通りだ。私は防御魔導を展開したまま、機甲竜に突撃する。
『撃てーっ!」
隊長の号令と共に、ファルケンベルク曹長をはじめとする僚機たちが、要塞竜の装甲に向かって二十ミリ魔導砲を一斉に放った。無数の光の魔弾が、赤い軌跡を描きながら鋼鉄の巨体へと吸い込まれていく。
だが、次の瞬間、信じられない光景が私の目に飛び込んできた。
魔導砲の光弾が機甲竜の体表に命中した途端、まるで鏡に当たったかのように弾き返されたのだ。あれはいつぞや遭遇した、魔力を弾く結界を持つ竜と同じだ。
しかし、機甲竜の表面は無骨な鋼鉄の凹凸や砲塔で覆われており、決して滑らかではない。そのため、弾き返された魔導砲の光弾は、あらぬ方角へと乱反射し、洞窟の岩壁を穿ち、あるいは味方機すれすれを飛び交うという危険極まりない状態を引き起こした。
『馬鹿な! 魔導砲が反射されている! 直撃しても傷一つ付かないぞ!』
『味方に当たる! 攻撃中止!』
無線からパニックに陥った悲鳴が上がる。魔力による攻撃を完全に無効化するどころか、反射してこちらの牙を剥いてくるとは。
『各機、一撃離脱し、すぐに距離をとれ! フィッシャー軍曹、こちらが全力で目を逸らす、その間に爆撃だ!』
「了解! フィッシャー機、降下に入ります!」
私はスロットルを押し込み、天井際の上空から操縦桿を思い切り前に倒しし、効果に転じた。
機体は重い二百五十キロ爆弾を抱えたまま、猛烈な速度で要塞竜の頭上から真っ逆さまに落ちていく。
要塞竜の背面上部にある砲塔がこちらを向き、迎撃の火線が迫ってくる。私は防御魔導を展開し、被弾の衝撃に耐えながら降下を続けた。
風防ガラスの中で、要塞竜の無機質な鋼鉄の頭部が急速に拡大する。
高度五百、三百、二百……。
「今っ!」
私は投下レバーを力強く引いた。
その瞬間、機体がフッと軽くなる。胴体から切り離された二百五十キロ爆弾が、重力に従って要塞竜の頭部目掛けて一直線に落下していく。
私はすぐさま操縦桿を腹に付くほど引き据え、猛烈なGに耐えながら機体を急上昇させた。
直後、要塞竜の頭部で凄まじい大爆発が巻き起こった。
閃光と爆風が空洞全体を震わせ、もうもうと立ち昇る黒煙が巨体を覆い隠す。
私は機体を旋回させながら、煙が晴れるのを注視した。魔石付きの二百五十キロの爆薬の直撃だ。通常の魔物であれば、頭を吹き飛ばされれば生きているはずがない。ましてや今回の相手は、鉄の塊だ。これほどの攻撃ならば、魔導砲ははじき返せても、物理攻撃ははじき返せないだろう。
しかし、煙の中から現れた要塞竜の姿を見て、私は絶望的なため息を漏らした。
確かに爆弾は直撃していた。頭部の一部装甲がひしゃげ、数基の砲塔がもげ落ちて火花を散らしている。だが、それだけだ。表面のごく一部を破壊したに過ぎず、機甲竜は未だに健在であり、残った砲塔が再びこちらに狙いを定めて動いていた。
『爆弾一発では、貫通できず! 物理的な実体弾による破壊効果は確認できましたが、物量が足りません!』
私は無電で隊長に報告した。
魔導砲は反射される。二百五十キロ爆弾ならば、少なくともダメージは与えられた。となれば、この機甲竜には、物理的な実体弾しか効かない相手なのだ。
だが、問題があった。我々の航空隊で、二百五十キロ爆弾を抱えて急降下爆撃できる機体は、私の乗る「改良型撃竜」と同じ仕様の機体が三機しかない。この改良型は、防御魔導を機体前面に展開しながら爆撃機動を行える、強力な魔力を持つ魔導士兼操縦士のみが扱える特殊な機体なのだ。
私と、もう三名の防御魔導が使える魔導士パイロット。たった三機の爆装撃竜がそれぞれ一発ずつ爆弾を落としたとしても、あの巨大な要塞を完全に沈黙させるだけの火力には到底足りない。
『一時後退する! 全機、基地へ帰投せよ!』
またしても我々は、分厚い壁に跳ね返されるようにして撤退を余儀なくされた。
前線基地で、ブリーフィングが行われる。
我々の報告を受けた陸軍機甲大隊のミュラー大尉は、腕を組みながら難しい顔をして作戦地図を睨みつけていた。
「つまり、空からの爆撃だけでは火力が足りず、魔導砲は反射される。ならば、我々陸軍の出番というわけだ。戦車隊の七十五ミリ徹甲弾を奴の装甲にありったけぶち込んでやれば、さすがの要塞竜も沈むだろう」
ミュラー大尉の言葉に、シュタイナー大尉が首を振る。
「だが、問題は敵の砲撃だ。奴はまるで難攻不落の要塞のように、無数の砲弾を雨あられと撃ってくる。遮蔽物のないあの空洞で戦車隊が正面から突っ込めば、あっという間に壊滅するぞ。魔導砲戦車隊でなければ、たどり着く前にやられるのがオチだ」
「その点は抜かりない。良い戦術を、すでに考えてある」
ミュラー大尉は不敵な笑みを浮かべ、腕を組みながらこう答える。
「敵の砲撃が激しいのなら、それを防げばいい。そうなれば、敵の砲弾など恐れるに足らず。そのまま奴の懐まで肉薄し、至近距離から一斉に徹甲弾の雨を降らせてやる!」
「防ぐって、どうやって?」
「いや、たいしたことじゃない。戦車は何も、一人乗りではないからな」
その言葉を聞いた私と隊長は、ようやくその言葉の意味を理解した。
だが、ミュラー大尉はさらに作戦の深部を語った。
「もちろん、地上の我々だけで奴を倒しきれるとは限らん。戦車隊が正面から敵の砲火と注意を完全に引き受ける。その隙に、爆装した改良型撃竜の三機が上空から接近し、敵の急所を狙って爆弾を落とす。どうだ、陸と空の完璧な共同作戦だろう」
これ以上の策はない。後に報告を受けた司令部も、このミュラー大尉の作戦を承認した。直ちに陸空共同作戦の準備が進められる。
私の他にも、他の飛行隊から選抜された二名の魔導士操縦士が呼ばれ、計三機の爆装型撃竜が用意された。
そして、ミュラー大尉率いる十両の四式中戦車は早々に第二十階層へと出発した。
「頼んだぞ、空の英雄たち。地獄の釜の底で、ド派手な花火を打ち上げようじゃないか」
直前にそう言い残したミュラー大尉が、第二十階層の手前で戦車から身を乗り出し、私に向かって敬礼を送る。私も風防ガラスを開けて、力強く敬礼を返した。
陸と空、我々の命を懸けた共同作戦が、まさに今、火蓋を切ろうとしていた。
第二十階層の広大な空洞。
再び姿を現した我々を迎え撃つべく、要塞竜の全身の砲塔が不気味な稼働音を立てて指向する。
まず狙われたのは、地上を地響きを立てながら驀進する通常砲の戦車隊、計十両だった。
ズンッ、ズンッと機甲竜から放たれた砲弾が、戦車隊の周囲に着弾し、凄まじい土煙と爆炎を巻き起こす。その中の何発かが、戦車に命中する。
だが、煙の中から現れた十両の戦車は、傷一つ負うことなく突き進んでいた。
そう、その前には緑色の魔法陣、すなわち防御魔導が張られていた。
考えてみれば、通常砲戦車と言えども、防御魔導が使える魔導士が乗り込めば、防御魔導が使える。魔導士は魔導砲戦車、この先入観が、これほど簡単なことに気付かせなかった。なんでもっと早く思いつかなかったのだろう。
『防御魔法、展開維持! 魔力出力最大!』
『戦車隊、怯むな! 全速前進!』
戦車に同乗した魔導士たちが、ありったけの魔力を振り絞って分厚い防御障壁を展開しているのだ。砲弾が戦車に直撃しても、その手前にある見えない盾によって火花を散らして弾き返されている。
砲身を持つ敵の猛攻をことごとく弾き返し、ミュラー大尉の戦車隊は要塞竜の眼前へと肉薄していく。
敵の注意が完全に地上に釘付けになったその隙を突き、私たち三機の爆装した改良型撃竜が上空から迫っていた。
『フィッシャー軍曹、各機、突入態勢に入れ!』
「了解! 防御魔導、展開!」
我々三機は、機首前方に強力な防御魔導の障壁を張ったまま、猛烈な勢いで急降下を開始した。
要塞竜の上部の砲塔が我々に気づき、迎撃の火線を向けてくる。だが、戦車隊への攻撃で砲火が分散しているため、爆撃する隙は与えられている。
私は降下しながら、機甲竜の巨大な背中を鋭い視線で観察していた。
前回の爆撃で分かった。ただ闇雲に装甲の厚い部分に爆弾を落としても致命傷にはならない。どこかに、この怪物の「弱点」があるはずだ。そして、それらしきものを見つけた。
「……あれは?」
そう、風防ガラス越し私はが見たものは、「スリット」だった。
機甲竜の背中や首の付け根の装甲板の合間に、ところどころ細長いスリット状の穴が並んでいる箇所がある。そこから青白い蒸気のようなものが噴き出している。
おそらく、あれだけ無数の砲を連射し、巨大な巨体を動かすための熱を逃がすための「冷却用の穴」なのだろう。
裏を返せば、あのスリット部分の装甲は薄く、爆撃でも十分、貫通できる可能性があることを示している。
「各機に通達! 敵の背中と首の付け根にある、蒸気を噴いているスリット穴、おそらく装甲の薄い部分! あそこに攻撃を集中させます!」
『了解、スリット穴に照準!』
我々三機は、猛烈な対空砲火と防御魔導の衝突による凄まじい衝撃に耐えながら、要塞竜の背中すれすれまで降下した。
「投下っ!」
私は投下レバーを引いた。同時に、僚機の二機も爆弾を投下する。
三発の二百五十キロ爆弾は、見事に要塞竜の装甲の隙間にある冷却用スリットへと吸い込まれていった。
投下と同時に、私は機体を横に滑らせながら急上昇し、防御魔導を駆使しつつどうにか離脱軌道に乗った。
攻撃を避けつつ、私はその爆弾の行く末を見守る。それはスリット穴に命中し、貫通した。三か所の火柱が上がる。
『今だ! 全車、徹甲弾、てーっ!!』
その火柱を合図に、地上まで肉薄していたミュラー大尉の戦車十両が一斉に七十五ミリ戦車砲の火を噴いた。
至近距離から放たれた十発の徹甲弾が、機甲竜の分厚い前面装甲を深く穿ち、亀裂を走らせる。
そして次の瞬間、遅延信管が設定されていた徹甲弾が、機甲竜の身体の奥深く、内部で大爆発を起こした。
ズズーンという、空洞全体が崩落するのではないかというほどの強烈な轟音が、空洞の壁で反射しつつ轟いた。
上空からの弱点部への爆撃と、前面からの徹甲弾の衝撃。この二段構えのその異色の竜は、生物のように血や肉片を飛ばすことはなかった。まさしく、巨大な機械が限界を迎えて自壊するが如く、バリバリとけたたましく金属が裂ける音を上げながら、バラバラの鉄の塊となって四方八方へと吹き飛んだのだ。
空から降ってくる巨大な鋼鉄の破片を避けながら、私は旋回してその光景を見下ろした。
難攻不落と思われた機甲竜は、完全に沈黙し、ただの燃え盛る鉄屑の山と化していた。
『目標の破壊を確認! 作戦終了!』
ミュラー大尉の戦闘終結を伝える声が無線に響き、空と陸の兵士たちから割れんばかりの歓声が沸き起こった。
その正体が何であれ、我々は力を合わせて不可能を可能にし、第二十階層へと続く道を切り開いたのだ。
私は深く息を吐き、安堵に包まれながら機体を水平飛行に戻そうとした。
だが、その時だった。
要塞竜の残骸の奥、今までその巨体によって隠されていた空洞の最奥部の景色が、私の目に飛び込んできた。私は思わず操縦桿を握る手に力を込め、目を見開いた。
「……嘘、でしょう?」
そこに広がっていたのは、自然の洞窟などではなかった。
床も、壁も、天井も、すべてが滑らかで継ぎ目のない、未知の金属で構成された広大なドーム状の空間。
そして、その空間の中央に鎮座していたのは、途方もなく巨大な、青く光る機械だった。
それは、複雑な幾何学模様を空中に投影し、冷たくひんやりとした魔力の波動を静かに放っている。
そう、見間違えるはずがない。
私がかつてうなされた夢の中、そしてあの強大なクリスタル・ドラゴンと対峙した際に見せられた幻想の中で、目にしてきたまさに「あの機械」そのものだった。
全身の血の気が引き、同時に、雷に打たれたような圧倒的な確信が私の脳裏を貫いた。
数万年前の隕石孔の奥深くにある、無数の竜。そして最後に現れた、要塞のような機械の魔物。
すべては、この中央の青く光る巨大な機械を守るためだけに配置された、防衛機構に過ぎなかったのだ。
「ここが……終点か」
私は震える唇で、誰にともなく呟いた。
果てしない戦いの末、多くの仲間の命を犠牲にして、我々はついにこの迷宮の心臓部へと辿り着いた。
だが、この青く光る機械の正体は何なのか? まさかエーベルハルト大将ら軍の上層部は、これの存在を知ってこの無謀なまでの戦いを続けてきたのか。
真実の扉が、今、私の目の前で開かれようとしていた。
私は操縦桿を固く握り直し、青き終点を見届けつつ、ゆっくりと機体を進めていった。




