交差する光と闇
王都の空が、白に染まる。
暴走したセラフィスの光が、制御を失い膨張していく。
地面が浮き上がり、石造りの建物が音もなく崩れ落ちる。
純度100%の光。
それはもう“勇者の力”ではない。
災害だ。
王が空から叫ぶ。
「制御を戻せ、セラフィス!」
だが返事はない。
セラフィスの瞳は無機質に光るだけ。
「浄化継続」
光が収束する。
王都中心、完全消滅規模。
ノアが叫ぶ。
「あと十秒で臨界です!」
ガルドが立ち上がる。
だが足が震えている。
あの出力は、人間が止められる領域ではない。
その時。
レオンが前に出る。
黒い魔力が、地面を焦がす。
リュカの横に立つ。
距離は、肩一つ分。
だが、近い。
「……一時休戦だ」
低い声。
リュカは息を飲む。
「助けるの?」
「勘違いするな」
レオンの視線はセラフィスへ。
「暴走は嫌いだ」
「選別も、制御も、どっちもな」
闇が膨れ上がる。
リュカが聖剣を握る。
光が応える。
二人の魔力が、ぶつかり合い――
弾かれない。
混ざる。
黒と暖色の光が、絡み合う。
ノアが驚愕する。
「干渉が……安定している?」
ガルドが笑う。
「相性悪くねぇのかよ」
レオンが呟く。
「最悪だ」
リュカが言い返す。
「こっちも」
だが、目は同じ方向。
セラフィス。
「合わせろ」
レオンが言う。
「俺が出力を削る」
「お前は、核を揺らせ」
リュカは頷く。
迷いはない。
「いくよ!」
二人が同時に踏み込む。
セラフィスが反応。
「不純干渉、排除」
光線が放たれる。
レオンが前へ。
「ダークネス・スラッシュ!」
闇が光線を裂く。
だが完全には消えない。
焼ける。
腕が焦げる。
それでも踏み止まる。
リュカが跳ぶ。
「ライトニング・スラッシュ!」
暖色の閃光がセラフィスへ。
直撃。
セラフィスの体が揺れる。
「……解析不能」
だが光圧が跳ね上がる。
反撃。
巨大な光波。
二人まとめて吹き飛ばされる。
瓦礫の中。
レオンが立ち上がる。
血が流れている。
リュカも立つ。
息が荒い。
それでも、笑う。
「まだいける」
レオンがわずかに呆れる。
「無茶だな」
「そっちこそ」
二人が再び並ぶ。
今度は、距離がない。
闇と光が、意図的に絡む。
セラフィスの瞳が揺らぐ。
「……干渉率上昇」
レオンが低く言う。
「純度100%は、混ざらない」
「だから割れる」
リュカが叫ぶ。
「私は揺れる!」
「迷う!」
「でも、それが人間だ!!」
聖剣が爆発的に輝く。
黒い魔力がそれを包み、輪郭を作る。
光が暴走せず、形を持つ。
セラフィスの胸部に、核が見える。
純白の結晶。
「今だ!」
レオンが闇で拘束する。
セラフィスの動きが止まる。
リュカが全力で踏み込む。
「――ライトニング・スラッシュ・ブレイカー!!」
光が核に叩き込まれる。
闇が外殻を押さえる。
衝撃。
爆発。
白い閃光が王都を包む。
静寂。
光が消える。
煙が晴れる。
セラフィスは、地面に横たわっている。
瞳は閉じている。
光は、安定している。
暴走は止まった。
王が空から睨む。
「……混濁が、純度を超えたというのか」
レオンが剣を下ろす。
「違う」
「割れただけだ」
リュカがセラフィスのそばに膝をつく。
彼の胸に手を置く。
鼓動はある。
かすかに。
その瞬間。
セラフィスの瞳が、ほんの少しだけ開く。
感情が、微かに灯る。
「……揺れる……光……」
小さな声。
リュカが微笑む。
「それでいいんだよ」
遠くで。
魔王が玉座から立ち上がる。
「ほう」
闇と光が混ざった。
選別でも支配でもない。
第三の在り方。
世界の均衡が、変わり始めている。
レオンが背を向ける。
「次は敵だ」
そう言って歩き出す。
だが。
ほんの一瞬。
振り返る。
「死ぬなよ」
消える。
リュカは空を見上げる。
王の視線。
魔王の影。
そして、揺れる光。




