黒き共鳴 ――レオン再臨――
夜の王都は、まだ崩壊の傷を抱えていた。
瓦礫。
焦げた石畳。
再建途中の城壁。
その上に、静かな月光が落ちている。
リュカたちは、王都外縁の警戒任務に出ていた。
光の巡礼は続いている。
だが――
胸がざわつく。
リュカが立ち止まる。
「……来る」
ノアが即座に反応する。
「魔力反応、急上昇。上空――!」
空が歪む。
黒い裂け目。
そこから、ゆっくりと一人の影が降りてくる。
長い外套。
漆黒の剣。
片目に、闇の紋様。
そして――
見間違えるはずがない。
「……レオン?」
風が止まる。
彼は静かに着地する。
顔を上げる。
目は、金ではない。
深い紫。
冷たい。
「久しぶりだな」
声は同じ。
だが、温度がない。
リュカが一歩前に出る。
「戻ってきたんだよね?」
沈黙。
レオンは、わずかに首を傾げる。
「戻る?」
薄く笑う。
「俺は、進んだだけだ」
空気が震える。
魔力の密度が異常。
ガルドが低く構える。
「……違う。あいつじゃねえ」
ノアの声が硬い。
「闇共鳴。しかも完全同調状態……」
レオンが剣を構える。
黒い刃が夜を吸い込む。
「確かめに来た」
「光の勇者の力を」
その瞬間。
消えた。
「右!」
ノアが叫ぶより早い。
轟音。
ガルドが吹き飛ぶ。
石壁を突き破る。
速すぎる。
リュカが踏み込む。
「ライトニング・スラッシュ!」
閃光。
だが。
黒い刃が軽く弾く。
火花。
衝撃。
リュカの体が宙を舞う。
「弱い」
レオンは冷静だった。
怒りもない。
憎しみもない。
ただ、圧倒的。
ガルドが立ち上がる。
「もう一回だ!」
突進。
重撃。
だが黒い衝撃波が炸裂。
地面が抉れる。
ノアが魔法陣を展開。
「拘束術式――!」
闇が逆流する。
魔法陣が砕ける。
「魔力構造を書き換えてる……!?」
レオンが歩く。
ゆっくり。
三人を見下ろす。
「光は不安定だ」
「繋がりに依存する」
「だから脆い」
黒い剣が光る。
「――ダークネス・スラッシュ」
振り下ろし。
闇の斬撃が街を縦に裂く。
爆発。
衝撃波。
瓦礫が舞い上がる。
リュカが咳き込む。
視界の向こう。
レオンは立っている。
無傷。
リュカが歯を食いしばる。
「なんで……!」
レオンが答える。
「選んだからだ」
「迷わない力を」
その瞬間。
リュカの聖剣が強く反応する。
光が広がる。
闇とぶつかる。
空が二色に割れる。
レオンの目がわずかに細まる。
「……それが完全覚醒か」
一瞬。
本当に一瞬。
彼の表情が揺らぐ。
だが、すぐ消える。
「だが、まだ足りない」
次の瞬間。
レオンの姿が消える。
背後。
リュカの首元に黒刃。
止まる。
触れていない。
だが、勝負はついている。
「今は殺さない」
低い声。
「まだ、確かめたい」
「お前が、本当に“選ばれた側”なのか」
闇が渦を巻く。
空間が開く。
レオンが後退する。
「強くなれ、リュカ」
「でなければ――」
紫の瞳が冷たく光る。
「次は終わりだ」
裂け目が閉じる。
静寂。
王都の夜に、焦げ跡だけが残る。
リュカは膝をつく。
震えている。
悔しさ。
怒り。
そして、恐怖。
ガルドが呟く。
「……格が違う」
ノアが静かに言う。
「完全に“敵”です」
リュカは拳を握る。
涙は出ない。
ただ、燃えている。
「取り戻す」
誰に聞かせるでもなく。
「絶対に」
遠く、魔王城。
玉座で魔王が微笑む。
「良い」
「実に良い」
闇の勇者。
光の勇者。
世界は、選択を迫られている。




