魔王降臨 ――第二次崩壊戦――
灰がまだ空を覆っている。
瓦礫の山。
半壊した城壁。
炎がくすぶる街。
リュカは膝をついたまま、呼吸を荒げていた。
灰の勇者との激突で、魔力はほぼ空。
それでも――立とうとした、その瞬間。
空が、静かに裂けた。
爆音じゃない。
轟音でもない。
ただ、音が消える。
世界から、音だけが奪われた。
黒い裂け目が、王城上空に走る。
そこから――
ゆっくりと、降りてくる影。
長い外套。
揺れる黒髪。
圧倒的な魔力。
空気が重く沈む。
呼吸が苦しい。
ミラが震える声で呟く。
「……うそ……」
ガルドの顔から血の気が引く。
「冗談だろ……」
アルヴァンだけが、目を見開いた。
「来たか……」
ゆっくりと地に足が着く。
その瞬間。
王都全域の石畳が砕ける。
立っているだけで、世界が軋む。
それが――
魔王。
「久しいな、人の都」
低い声。
響きが違う。
耳ではなく、魂に落ちてくる声。
リュカが、なんとか立ち上がる。
剣を握る。
震える足を、無理やり踏みしめる。
魔王の視線が、ゆっくりと向く。
その目が、リュカを捉える。
「……ほう」
わずかな興味。
「お前が、あの失敗作を斬った者か」
灰の勇者のことだ。
リュカは睨み返す。
「次はお前だ」
空気が凍る。
次の瞬間。
魔王の姿が消えた。
見えない。
気配もない。
――後ろ。
振り向いた時には、もう遅い。
軽く、指が額に触れる。
衝撃。
視界が真っ白になる。
リュカの身体が、城壁を突き破って吹き飛ぶ。
轟音。
王都外周まで一直線。
瓦礫の山に叩きつけられる。
「リュカァ!!」
ミラの叫び。
魔王は振り向きもしない。
「脆い」
指を一振り。
灰の衝撃波が、街区を丸ごと薙ぎ払う。
建物が溶ける。
石が蒸発する。
第二次崩壊。
王都が、音もなく削られていく。
ガルドが突進する。
「てめぇぇぇ!!」
全力の一撃。
剣が魔王の首へ。
――止まる。
二本の指で、刃を挟まれている。
「力はある」
魔王が軽く弾く。
ガルドが地面を転がる。
アルヴァンが前に出る。
契約痕が激しく光る。
「俺を覚えているか」
魔王の目が細まる。
「裏切りの器」
空気が震える。
見えない圧力が、アルヴァンを地面へ叩きつける。
骨が軋む音。
「まだ縛られているな」
冷たい声。
そのとき。
瓦礫の中から、光が漏れる。
リュカ。
血まみれ。
立てるはずがない。
それでも、立つ。
足が震えている。
視界もぼやけている。
それでも、魔王を見る。
魔王が、わずかに目を見開く。
「……まだ立つか」
リュカが、息を吸う。
胸が焼ける。
だが、退かない。
「ここは……」
一歩。
「私たちの……街だ」
もう一歩。
光が、滲むように溢れる。
暴走じゃない。
怒りでもない。
ただ、守るという意志。
魔王が初めて、構える。
「面白い」
空がさらに裂ける。
黒い魔力が集束する。
「では見せろ」
「人が、王を超えるという証を」
魔王の一撃が、王城を消し飛ばす規模で放たれる。
リュカが走る。
真正面。
光と闇が、王都上空で激突する。
爆発。
衝撃波が城壁を崩壊させる。
王都が、さらに半分吹き飛ぶ。
煙。
静寂。
そこに立っているのは――
まだ、リュカ。
だが、膝は震えている。
魔王は、初めて笑った。
「殺すには惜しい」
魔力が収束する。
とどめ。
その瞬間。
王城跡から、別の光が立ち上る。
黄金。
重厚な王家の魔力。
魔王の目が、そちらへ向く。
「……ほう」
玉座の奥。
隠されていた、もう一つの力。
王が、動く。
魔王が小さく呟く。
「ならば今日はここまでだ」
黒い空間が開く。
「次は、本気で来る」
視線が、リュカを射抜く。
「それまで、壊れずにいろ」
魔王の姿が、消える。
空が元に戻る。
だが王都は――
壊滅。
王城消失。
城壁崩壊。
中央区消滅。
リュカは、ついに膝をつく。
ミラが駆け寄る。
ガルドが歯を食いしばる。
アルヴァンが空を睨む。
これは敗北だ。
守った?
違う。
試された。
王都は、戦場になった。
そして――
王城跡の黄金の光が、静かに強まる。
玉座の奥。
本当の秘密が、開こうとしている。




