玉座の奥 ――もう一人の王
瓦礫の山の中心。
崩れた王城の地下から、黄金の光が立ち上っている。
魔王が去った後も、その光だけは消えない。
むしろ――強くなる。
地面が割れる。
王城の残骸が、内側から押し広げられる。
石が浮く。
瓦礫が宙に止まる。
そして――
ゆっくりと、玉座が姿を現す。
壊れていない。
焦げてもいない。
まるで最初からそこにあったかのように。
その玉座に座っているのは――
王。
豪奢な衣。
白いマント。
いい。
物語をひっくり返す。
王都崩壊直後――
誰もが絶望の中で空を見上げている、そのとき。
第二十六章
玉座の奥 ――もう一人の王
瓦礫の山の中心。
崩れた王城の地下から、黄金の光が立ち上っている。
魔王が去った後も、その光だけは消えない。
むしろ――強くなる。
地面が割れる。
王城の残骸が、内側から押し広げられる。
石が浮く。
瓦礫が宙に止まる。
そして――
ゆっくりと、玉座が姿を現す。
壊れていない。
焦げてもいない。
まるで最初からそこにあったかのように。
その玉座に座っているのは――
王。
豪奢な衣。
白いマント。
静かな顔。
だが、目が違う。
金ではない。
深い、黒金。
魔族のそれに近い。
ミラが呟く。
「……なに、あれ」
ノアが顔を青ざめさせる。
「魔力反応……魔王級」
ガルドが叫ぶ。
「ふざけんなよ……!」
リュカは膝をついたまま、その姿を見上げる。
王は、ゆっくりと立ち上がる。
その瞬間。
王都全域に、重力のような圧が広がる。
魔王とは違う。
冷たい支配。
秩序の圧。
王が口を開く。
「よくやった、勇者候補」
声は穏やか。
だが響きは深い。
「魔王を退けたこと、称賛に値する」
アルヴァンが目を細める。
「……退けた?」
王はわずかに笑う。
「退いたのだ。自らな」
空気が凍る。
リュカが立ち上がる。
「どういう意味だ」
王は玉座から一歩降りる。
足元に、魔法陣が浮かぶ。
黄金と黒が混じった紋様。
「この世界は、二つの王によって均衡を保っている」
「破壊の王と」
「支配の王」
風が吹く。
王の背後に、巨大な影が浮かぶ。
王冠を戴いた、異形の影。
人の形をしているが、角がある。
ノアが震える声で言う。
「……別系統の魔族……?」
王が答える。
「私は魔王ではない」
一拍。
「だが、魔王と同質の存在だ」
沈黙。
王都の兵たちが、理解できずに立ち尽くす。
ガルドが叫ぶ。
「じゃあ何なんだよあんたは!」
王は視線を向ける。
それだけでガルドの足が地面に沈む。
「人と魔の“契約王”」
アルヴァンの目が見開かれる。
「……契約」
王は続ける。
「かつて人類は敗北した」
「魔族に、完全に」
「その時、私は選んだ」
黄金の魔力が、王都全域に広がる。
崩壊しかけた街が、ゆっくりと再構築されていく。
石が戻る。
壁が繋がる。
消えたはずの塔が、輪郭だけ再生する。
「破壊を止める代わりに、均衡を受け入れる」
「魔王は一定周期で世界を削る」
「私はそれを抑え、支配する」
リュカの拳が震える。
「じゃあ……」
「今までの魔王侵攻も?」
王は肯定する。
「必要悪だ」
空気が裂けるような怒気が走る。
ミラが叫ぶ。
「王都が壊れるのも!? 人が死ぬのも!?」
王は静かに答える。
「全滅よりはましだ」
沈黙。
アルヴァンが、低く言う。
「だから勇者を作ったのか」
王の視線が鋭くなる。
「魔王を倒すためではない」
「暴走した均衡を、再調整するためだ」
リュカが理解する。
灰の勇者。
暴走勇者。
作られた英雄。
「……あれは、あんたの実験か」
王は否定しない。
「勇者とは、均衡を保つための駒だ」
その瞬間。
リュカの中で、何かが決定的に折れる。
「違う」
一歩前へ出る。
「私たちは駒じゃない」
王が、初めて表情を変える。
わずかな苛立ち。
「理想論だ」
「魔王を完全に倒せば、この世界は崩壊する」
「均衡が失われれば、世界は飲み込まれる」
リュカの目が燃える。
「だったら新しく作る」
王の魔力が膨れ上がる。
「傲慢だな、女」
黄金と黒の魔力が、王の背後で渦を巻く。
「私は千年、世界を守ってきた」
「お前に何ができる」
リュカが剣を握る。
ボロボロの体。
それでも目は折れていない。
「守るって言うなら」
「こんな守り方、いらない」
空気が爆ぜる。
王の圧が、さらに強くなる。
ノアが叫ぶ。
「リュカ、今は無理だ!」
アルヴァンも歯を食いしばる。
「まだ早い……!」
だが、リュカは止まらない。
王と勇者候補。
真正面から視線がぶつかる。
王が静かに言う。
「ならば証明してみせよ」
「破壊も支配も超える第三の道を」
黄金の魔法陣が拡大する。
王都全体を覆う巨大陣。
「次の魔王侵攻で」
「生き残れたなら、認めよう」
王の姿が、玉座ごと沈んでいく。
地面が閉じる。
光が消える。
残されたのは――
半壊した王都。
震える民。
そして、理解した真実。
敵は一人じゃない。
魔王。
そして王。
世界は二重構造。
リュカは空を見上げる。
「ぶっ壊す」
小さく、だがはっきりと。
「この均衡ごと」
アルヴァンが静かに笑う。
「面白くなってきたな」




