灰の勇者、王都襲撃
王都エルディア。
青空が、灰色に変わった。
最初は、遠くの煙だった。
次に、爆音。
そして――
城壁が、吹き飛んだ。
「な……にが起きてる!?」
街の中央広場にいたリュカたちは、衝撃で地面に膝をつく。
瓦礫が降る。
悲鳴。
逃げ惑う人々。
その向こう。
崩れた城門の煙の中から――
ひとりの男が、歩いてきた。
全身、焼け焦げた鎧。
片腕は黒く変質し、まるで炭。
目だけが、白く光っている。
「……勇者、だ」
騎士の誰かが、震え声で呟いた。
そう。
彼は――
かつて“魔王討伐”のために生み出された存在。
だが、暴走し、記録から抹消されたはずの。
“灰の勇者”。
「……王は、どこだ」
低い声。
感情のない声。
だが、底に煮えたぎる憎悪がある。
騎士団が前に出る。
「止まれ! ここは王都――」
一閃。
空気が裂ける。
次の瞬間、騎士団の最前列がまとめて吹き飛んだ。
剣は見えなかった。
ただ、圧だけで。
「……弱い」
灰の勇者は、歩く。
一歩ごとに、石畳が焦げる。
「くそ……!」
リュカが立ち上がる。
心臓が、嫌な音を立てている。
あの魔力。
魔王と、似ている。
いや――
もっと、荒れている。
「リュカ、待て」
ミラが腕を掴む。
「今の騎士団が一瞬でやられた。あれは、私たちでも……」
「でも、街が!」
遠くで、子供の泣き声がする。
建物が崩れ、火が回る。
リュカの奥で、何かが軋む。
あの日。
燃える村。
助けられなかった人々。
「……もう、見てるだけは嫌だ」
拳を握る。
魔力が、静かに立ち上がる。
「私が行く」
「バカ!」
ミラの制止を振り切り、リュカは走った。
灰の勇者が振り向く。
「……お前」
目が、わずかに揺れる。
「まだ、生きていたか。新しい“器”」
空気が凍る。
リュカは止まらない。
剣を抜く。
「器って、なんだよ!」
踏み込み。
斬撃。
火花。
初めて、灰の勇者の足が止まった。
「……ほう」
灰の勇者の黒い腕が、リュカの剣を受け止めている。
素手で。
「まだ未完成だが……悪くない」
衝撃。
リュカが吹き飛ぶ。
壁を砕き、地面に叩きつけられる。
息が詰まる。
立てない。
「リュカ!!」
ミラが駆け寄ろうとするが、瓦礫が道を塞ぐ。
灰の勇者は、ゆっくり近づく。
「王は、我らを使い捨てにした」
声が、低く震える。
「勇者計画。魔王を倒すための兵器」
リュカの瞳が見開く。
「……俺たちは、ただの素材だった」
足が、胸を踏みつける。
骨が軋む。
「失敗作は処分。成功しても、制御不能なら処分」
白い目が、燃える。
「ならば――」
空が歪む。
灰色の魔力が、王都を覆う。
「すべて、燃やす」
爆発。
街区が吹き飛ぶ。
悲鳴が重なる。
リュカの中で、何かが弾ける。
怒り。
恐怖。
そして――理解。
魔王が言っていた。
“王国の秘密”。
勇者は、自然に生まれた存在じゃない。
作られた。
兵器として。
「……ふざけんな」
血を吐きながら、立つ。
足は震えている。
でも、目は死んでいない。
「私は、兵器じゃない」
魔力が変わる。
灰でも、闇でもない。
澄んだ光が、滲む。
灰の勇者の目が、初めて大きく揺れる。
「……その光は」
リュカが剣を構える。
「私は私だ!」
踏み込み。
地面が砕ける。
二人の衝突で、王都の空が裂けた。




