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勇者はだれ?  作者: 臥亜


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光の前夜

第三層を抜けた先は、意外なほど静かな空間だった。


石の広間。


天井は高く、ひび割れたステンドグラスから紫の光が差し込んでいる。


敵の気配はない。


ただ、重い沈黙。


「……休めってことか?」


ガルドが壁に背を預ける。


ノアは周囲を確認し、小さく頷いた。


「一時的な緩衝層。戦闘区域の合間だと思う」


アルヴァンは無言で座り込む。


まだ完全ではない。


だが契約の痛みは、さっきより確実に薄い。


リュカは少し離れた場所へ歩いた。


壊れた窓の近く。


外には、紫色の空。


浮遊する岩。


そして遠くに、魔王城の中枢塔。


心臓みたいに、脈打っている。


ドクン。


胸が、熱くなる。


リュカは胸元を押さえた。


「……なに、これ」


最近ずっとだ。


戦うたび、強くなる。


怒ったとき。


守りたいと思ったとき。


胸の奥が光る。


でも、形にならない。


アルヴァンが後ろから声をかける。


「一人になるな」


「別に、寂しくないよ」


振り返る。


少しだけ笑う。


でも、目は揺れている。


アルヴァンは隣に立った。


「迷宮で見たものか?」


図星。


リュカは視線を落とす。


「……もし私が“勇者じゃなかったら”どうする?」


風が吹く。


アルヴァンは少し考えてから言う。


「そのときは、違う形で戦うだけだ」


「そんな簡単に言わないでよ」


声が震える。


「みんな期待してる。王都も、兵も、きっと……」


言いかけて、止まる。


本当は。


一番期待してるのは、自分だ。


自分が“特別”であってほしいと。


アルヴァンが静かに言う。


「俺は勇者じゃない」


「知ってる」


「でも戦ってる」


リュカは顔を上げる。


アルヴァンの目はまっすぐだった。


「資格があるかどうかじゃない。選ぶかどうかだ」


その言葉が、胸に落ちる。


ドクン。


また、熱い。


そのとき。


ノアの声が響いた。


「二人とも、来て」


広間の中央。


床に巨大な紋様が浮かび上がっている。


淡い金色。


今までの黒い魔法陣と違う。


「これは……」


ノアが目を細める。


「古代勇者系統の術式」


空気が震える。


紋様の中心に、光が集まる。


形を作る。


一本の、剣。


まだ実体はない。


光の輪郭だけ。


ガルドが目を見開く。


「おい……」


アルヴァンが息を呑む。


「城の中に……勇者の遺構?」


光の剣が、ゆっくりとリュカの方へ傾く。


呼ばれている。


でも。


リュカは動けない。


怖い。


もし触れて、何も起きなかったら?


もし拒絶されたら?


足が、重い。


その瞬間。


城全体が揺れた。


黒い魔力が広間へ流れ込む。


金の紋様が侵食される。


ノアが叫ぶ。


「魔王が干渉してる!」


光の剣が、砕けそうになる。


リュカの胸が、強く脈打つ。


ドクン。


今までで一番、強く。


頭の奥に、声が響く。


――選べ。


それだけ。


資格じゃない。


証明でもない。


選べ。


リュカは歯を食いしばる。


震える足を、一歩前へ。


「私は――」


手を伸ばす。


黒い魔力が絡みつく。


痛い。


でも。


「私は、守りたい!」


光に触れた。


爆発的な閃光。


広間が白に染まる。


アルヴァンが目を覆う。


ガルドが踏ん張る。


ノアが叫ぶ。


「魔力値、急上昇……!」


光が収束する。


リュカの手の中。


まだ未完成。


刃の半分だけが実体化した、淡い光の剣。


完全じゃない。


でも。


確かに、そこにある。


リュカは息を切らしながら立っている。


瞳が、まっすぐ前を向く。


「……まだ途中。でも」


アルヴァンが小さく笑う。


「十分だ」


広間の奥。


次の扉がゆっくりと開く。


重い音。


その向こうから、圧倒的な魔力。


第四層。


本格的な強敵の気配。


リュカは未完成の光剣を握る。


もう、迷いは少ない。


夜は終わる。

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