第三層 ―― 反転迷宮
第二層を抜けた先。
重厚な扉がゆっくり開く。
中は――静かだった。
広い石造りの通路。
左右対称の柱。
奥に続く一本道。
「……罠の匂いしかしないな」
ガルドがぼそり。
ノアが壁に触れる。
「魔力反応、多数。でも敵の気配はない」
リュカは一歩踏み出す。
その瞬間。
景色が、反転した。
床が天井に。
天井が床に。
「うわっ!?」
四人の体が宙に浮く。
次の瞬間、叩きつけられる。
今度は“逆さま”の床に。
「何これ!?」
ノアが周囲を見回す。
「重力反転型の迷宮……!」
アルヴァンが立ち上がる。
「敵はいない。けど、進ませる気もないらしい」
通路は同じ形。
前に進んだはずなのに、さっきの扉が見える。
ガルドが振り返る。
「……戻ってる?」
リュカが走る。
突き当たり。
曲がる。
また同じ柱。
同じ傷。
「ループしてる……」
そのとき。
壁に文字が浮かび上がる。
――“己を見よ”
ノアが眉をひそめる。
「精神干渉系……」
空気が揺らぐ。
視界がにじむ。
次の瞬間。
リュカの前に現れたのは――
王都。
炎に包まれた街。
倒れている人々。
「……私のせい?」
幻影が囁く。
「お前が勇者じゃないから」
「お前が弱いから」
足が止まる。
胸が締めつけられる。
その向こう。
アルヴァンは――
魔族の姿に戻っていた。
血まみれの手。
王都の兵を斬っている。
「裏切り者」
無数の声。
ガルドの前には、
守れなかった過去の戦友。
ノアの前には、
実験に失敗し、失った人影。
迷宮は、心を抉る。
リュカは震える。
でも。
拳を握る。
「違う」
剣を抜く。
幻影に向けて振るう。
「私はまだ何も終わらせてない!」
光が走る。
幻が揺らぐ。
アルヴァンも叫ぶ。
「過去は変わらない!でも今は選べる!」
炎が幻を焼く。
ガルドが吠える。
「後悔で止まってたら前に進めねぇ!」
ノアが静かに言う。
「合理的に言う。これは幻だ。だが痛みは本物だ」
四人の足元に、魔法陣が浮かぶ。
迷宮が揺れる。
壁が崩れる。
姿を現す。
中央に巨大な水晶。
そこから無数の光線が伸び、迷宮を構築している。
「核だ!」
リュカが駆ける。
だが重力がまた反転。
横向きに落ちる。
アルヴァンが腕を掴む。
「離すな!」
ガルドが足場を叩き割り、道を作る。
ノアが叫ぶ。
「水晶は感情に反応してる!迷いが強いほど強化される!」
リュカは息を整える。
怖い。
不安もある。
でも。
「それでも進む!」
剣を握る。
アルヴァンが並ぶ。
「俺もだ」
ガルドが笑う。
「迷う暇ねぇな」
ノアが魔力を重ねる。
「一点集中!」
四人が同時に跳ぶ。
空中。
重力が乱れる。
それでも。
「シャイニング・スラッシュ!!」
「ブレイズ・スラッシュ!!」
「粉砕撃!!」
「魔力収束砲!!」
四つの光が重なる。
一直線。
水晶を貫く。
砕け散る。
迷宮が崩壊する。
重力が戻る。
ドン、と床に着地。
静寂。
奥に、新たな階段が現れる。
第三層、突破。
リュカは深く息を吐く。
「……心まで試してくるんだ」
アルヴァンが静かに言う。
「魔王城は、戦う前に折りにくる」
ガルドが肩を鳴らす。
「上等だ」
ノアが上を見る。
さらに上層。
塔の中心から、より強い魔力。
リュカは拳を握る。
「次、行こう」
だがそのとき。
城全体が震えた。
重く、低い声が響く。
――“面白い”
四人が顔を上げる。
初めて。
明確に。
魔王の“意思”が、こちらを見た。




