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猫とボクと普通(?)の日々  作者: zaq2
第三部 灰色の猫
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第十一章 必要ならな

 結晶は特事が回収した。

 修司が直接触れず、専用の容器へ収める。


「本部へ送る」

「何か分かるんですか?」


 千尋が聞く。


「分からん」

「即答ですね」

「分からないものを分かったと言う方がまずい」

「それ、最近よく聞きます」


 千尋が灰尾を見る。


「見るな」

「別に」

「絶対俺見てただろ」

「気のせいです」


 修司が容器を鞄へ収める。


「生物の一部なのか、本体なのか、何かの依り代なのか。それすら今は分からん」

「核でしょうか。それとも何かの器官?」


 千尋が言う。


「可能性はある」


 タマモが灰の残った場所を見る。


「少なくとも、これだけ見て本体だの器官だのと決めるのは早かろう」

「ですよね」

「分からぬものは、分からぬ」

「はい」


 千尋は素直に引き下がった。


     *


 数日後。

 灰尾は地方事務所へ呼ばれた。

 正確には。

 千尋からタマモへ連絡。

 タマモから灰尾へ。


「面倒だ」

「妾に言うでない」

「何の用だ」

「知らぬ」

「知らねえのに呼んだのか」

「千尋が一度話したいと言うのでな」

「お前が聞いとけ」

「本人に聞けと言うておった」

「面倒くせえ」

「では行かぬのか?」


 灰尾は少し考えた。


「……行く」

「ほう?」

「何だよ」

「いや?」

「その顔やめろ」


 結局。

 行った。

 地方事務所の中は、思っていたより普通だった。

 机。

 棚。

 書類。

 端末。

 少しだけ普通ではない札や道具が混じっている。


「本当に猫なんですね」


 中年の女が言った。


「何だと思ってた」

「もっとこう、大きいのかと」

「何でだよ」

「田辺さん」


 千尋が慌てて止める。


「いいじゃない。写真じゃ分からないんだから」

「普通に失礼ですよ」

「そう?」


 灰尾は田辺を見る。

 人間。

 特に嫌な匂いはしない。


「別にいい」

「ほら」

「灰尾さんがいいって言ってもですね」

「面倒だな、お前」

「なんで私が怒られるんですか」


 別の机から宮坂が顔を上げた。


「その辺にしておけ」

「こちらが灰尾か」

「ああ」

「宮坂だ。普段は裏方だ」

「そうか」

「淡白だな」

「名前聞いただけで喜べってのか」

「いや」

「ならいい」


 宮坂は少し笑った。

 修司が空いている机の端を軽く叩いた。


「こっちだ」


 灰尾は床を蹴り、一息に机へ跳び上がった。

 修司と千尋も、その机の脇へ寄る。

 修司が資料を机へ置く。


「本題だ」

「早くしろ」

「今回の案件。こちらで現時点の処理は終わった」

「そうか」

「回収物は本部へ送った。既知の妖、動物、異界由来事象との照合は続く。ただ、現場で追う対象はもういない」

「それで?」

「事件前に出た、連鎖的な揺らぎの観測地点も確認した」


 修司が資料の横へ地図を広げる。

 いくつか印。


「全部、現在は通常範囲だ」

「異常なし?」

「少なくとも、こちらが測れる範囲ではな」


 千尋が補足する。


「観測された地点のどこから来たのか、そもそも観測地点が通り道だったのかも、結局確定できませんでした」

「そうか」

「気になります?」


 灰尾は少し考えた。


「気にはなる」

「ですよね」

「だが分からねえなら仕方ねえ」


 修司が頷く。


「こっちも同じ結論だ」

「なら終わりだろ」

「もう一つ」


 修司が紙を一枚、灰尾の前へ置いた。


「何だ」

「お前の記録」

「俺?」

「今まで『灰色の猫又』だった」

「ああ」

「今回、直接接触した。呼称も確認した。記録を更新する」

「勝手にしろ」

「一応本人に伝えておく」


 紙には簡単な項目が並んでいる。

 通称。

 灰尾。

 地域定着。

 接触歴あり。

 敵対性なし。

 必要時、タマモ経由で連絡可能。

 灰尾は最後の一行を見る。


「これ」

「嫌か?」

「別に」

「なら残す」

「直接連絡は?」


 千尋が聞く。


「いらねえ」

「即答」

「用があればタマモに言え」

「タマモさん経由ならいいんですか?」

「必要ならな」


 千尋が少し笑った。


「何だ」

「いえ」

「言え」

「最初より、ちょっとだけ増えましたね」

「何が」

「必要なら、の範囲」


 灰尾は黙った。

 修司が千尋を見る。


「余計なこと言うな」

「でも」

「黙っとけ」

「はーい」


 灰尾は立ち上がる。


「もう帰る」

「待て」

「まだあんのか」


 修司が言った。


「今回、助かった」


 灰尾が止まる。


「……何が」

「お前がいなければ、あの個体の行動範囲を絞れなかった。最後の場所も選べなかった」

「お前らだけじゃ面倒だったろうな」

「そういうことだ」

「こっちも同じだ」


 灰尾は修司を見る。


「お前がいなきゃ、あの一撃は作れなかった」


 次に千尋。


「お前が見てなきゃな」


 千尋が目を丸くする。


「え」

「何だよ」

「いや。ちゃんと言うんですね」

「二度と言わねえぞ」

「じゃあ覚えておきます」

「勝手にしろ」


 灰尾は机から床へ飛び降り、出口へ向かう。


「灰尾さん」


 千尋が呼ぶ。


「なんだ」

「また何かあったら、お願いします」


 灰尾は振り返らない。


「必要ならな」


 それだけ返した。

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