第四話 交わる先
河岸の運送屋は、倉の並びから少し外れたところにあった。
入口の脇には空の荷車が二台止まっていた。中へ入ってすぐの壁際には帳面を積んだ机があり、その少し奥では別の男が外した車輪を調べている。
油と乾いた木の匂いが混じっていた。床には乾きかけた泥の跡が残り、開いた入口からは河岸を行き交う人夫の声が聞こえてくる。
サヴィンが先に机へ向かい、父もその後に続いた。エルドは二人の少し後ろで足を止める。
机にいた男が顔を上げた。
「西河岸の倉で、こっちに聞けば分かるって言われた。今日入るはずの触媒材のことで確認したい」
「どこの荷だ?」
サヴィンは鞄から荷札を取り出して差し出した。
「この仲買だ。俺が仕入れてる。昼過ぎには倉に入る予定だったんだが、まだ来てない。それと、先に入った分で加工中に異常が出た。どこから来てる荷か確かめたい」
サヴィンが父を示した。
「こっちは、その材料を使った工房の職人だ」
「怪我人は?」
「大きな怪我はない」
「そうか」
男は荷札を机へ置き、積んであった帳面を一冊引き寄せた。何枚かページを戻してから、書き込みの一つで指を止める。
「ああ、ここならうちで運びを出してる。最近また動かし始めた古い鉱山だ。そこの荷場まで、今日は一組取りに行かせてる。まだ戻ってないが」
「閉じてた鉱山まで、また動かしてるのか?」
サヴィンが聞いた。
「ああ。詳しい事情までは知らんけどな。触媒材が高くなってるから、閉じてた鉱山をまた動かすって話は最近たまに聞く」
父も開かれた帳面を覗き込んだ。
「先に入った分も、同じ荷場か?」
「いつの荷だ?」
サヴィンも自分の帳面を開いた。
「これだ」
日付を示すと、男は帳面を何枚か戻った。
「あった。これも同じだ」
エルドも父の横から覗き込んだ。日付の脇に、さっきと同じ荷場の名がある。
市場街の工房にあった灰白色の石が頭に浮かんだ。
あれも、ここを通ってきた。
「今日の組が戻ってないのは珍しいのか?」
父が聞いた。
「遅れることはある。ただ、今日は何の知らせもないんだよ。道で何かあったって話も聞いてない」
「今日、鉱山の方から戻ってきた人はいませんか?」
エルドも聞いた。
「今日の連中とは別口なら一人いるぞ。朝、あっちの方へ荷を運んでた奴だ」
机の男は奥へ声を掛けた。
「ちょっといいか」
「なんだ?」
「朝、古い鉱山の方へ行っただろ。今日出した連中がまだ戻ってない。向こうで何か変わったことなかったか?」
「あそこか」
呼ばれた男は布で手の汚れを拭きながら、机の脇まで来た。エルドは父の後ろへ下がって場所を空けた。
「だったら、鉱山の方で止まってるんじゃないか。帰りに鉱山の連中が何人か街の方へ急いでた。荷場にいた連中も坑道の方へ行ってたし、崩れたって話してた」
「中に人は?」
サヴィンが聞いた。
「まだ残ってるって言ってた」
父の眉がわずかに寄った。
「鉱山までは行けるのか?」
「道は平気だ。俺が戻る時は何もなかった。戻ってない連中は、荷場で待ってるか、救助を手伝ってるかだろう」
「うちの連中もそっちか。救助はもう始まってるのか?」
「俺が通った時には人を集めてた。荷場の連中も行ってたから、もう動いてると思うぞ」
エルドは、さっき見た帳面の日付を思い返した。
あの石が街に入ったのは、坑道が崩れるより前だ。
サヴィンは荷札を鞄へ戻しながら聞いた。
「仲買から何か連絡は?」
「いや。こっちにはない。普段なら荷が入る頃には倉へ顔を出すが」
「顔を出したら、俺が探してるって伝えてくれ」
「分かった。うちの連中が戻ったら、何があったか聞く」
「助かる」
サヴィンが頭を下げ、父も軽く礼を言って机から離れた。エルドも二人の後について運送屋を出た。
外へ出ると、油の匂いが薄れ、代わりに川からの湿った風が頬に当たった。河岸では変わらず荷車が行き交い、人夫たちが声を掛け合っている。
エルドは歩きながら、工房で折れた留め具を思い出した。
あの石が運ばれてきた鉱山で、坑道が崩れた。
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次回、第5話は10月8日21:10公開予定です。




