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騎士団長の誰かが、魔王軍  作者: 自ら


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18/33

疑いは、傷の上に落ちる

第九日――総攻撃まで、あと八日。

 朝の軍報は、静かだった。柩は発ち、代行は立ち、哨戒の夜はどの行も異常なしで埋まっていた。殺された夜の日誌が、こんなに静かでいいのか、とは思った。思ったが、日誌とはそういうものだ。異常は、気づいた者の欄にしか書かれない。

 今日から、師の残した紙を読む。

 文書統括の業務は文書課に移り、第九の詰所の記録類は、監査に係る分として私の検分に付された。書見台の脇に平積みだった回覧記録の一年分。そして、師の手元にあった綴り——配布文書の写しの控えの束だ。

 師が何を照合していたのかを、同じ順でなぞる。それが、抜かれた三枚を書き直す最初の手順だった。

 控えの束は、直近の配布文書——作戦関連の定例配布——の写しを、団ごとに揃えたものだった。十揃い。同じ文書の、十枚の写し。私はそれを、机に並べて突き合わせた。

 同じであるはずのものを並べて読むのは、監察の基本だ。同じであれば、それでいい。同じでなければ、そこに手がある。

 九枚は、同じだった。

 一枚だけ、違った。

 第三騎士団宛の写し。渡河点の座標に係る数字が、他の九枚と食い違っている。一箇所ではない。三箇所。書き損じなら一箇所だ。三箇所となると、これは損じではない。

 第三の手元に渡る紙だけ、数字が書き換えられている——今の私には、そうとしか読めなかった。

 ドミニク・サール。架橋の名手。目録外の綴りが混ざる、散らかった工房の主。借金の噂。渡河点の座標は、工兵の職域のど真ん中だ。

 手が冷えた。冷えたまま、私は手帳に書いた。第三宛の写しに数字の相違三箇所。改竄の疑い。要検証。

 書き終える前に、扉が叩かれた。文書課の従卒が、詳報の続報を届けに来たのだった。師の件の、遺留品の目録。

 私は礼を言って受け取り、立ったまま読んだ。

 現場遺留品。魔王軍制式の矢、三。彎弓の弦、断片一。——矢羽に焼印。八二-三二〇。

 八二-三二〇。

 手帳を、五日前の頁まで戻した。第四騎士団鹵獲庫、監査所見。修繕搬出名目の仮出し、返納記録なし。彎弓一張、八二-三一七。矢束一つ、八二-三二〇。

 同じ番号だった。

 師を殺した矢は、魔王軍の矢だ。そして、その矢は魔王軍から飛んできたのではない。第四の庫から、持ち出されている。

 軍は遺留品を「敵装備、敵襲の証拠」として処理した。当然だ。魔王軍の矢は、魔王軍の襲撃を意味する。矢羽の小さな焼印に意味を見出せるのは、五日前に自分の手でその番号を所見欄に写した人間だけだった。監査の埃払いが、この瞬間、凶器の出所照合に変わった。

 私は所見の続報を書いた。事実だけを。遺留品の刻印と、第四鹵獲庫の欠品の番号の一致。文書課経由で、司令部へ。

 書きながら、分かっていた。この紙が届けば、疑いは庫の主に落ちる。

 夕刻、私は第四の庫へ行った。仮出しの搬出票の綴りを検めるためだ。庫の前に、ヴェラ・ロンドが立っていた。腕は組んでいなかった。司令部からの問い合わせは、私より先に着いていた。


「王都の紙の人」


 声は静かだった。静かな分だけ、五日前と違った。


「私はあの段で、あんたに水を分けたな。身の上まで話した。焼けた館の、壁の話まで」

「話していただきました」

「で、これか」


彼女は庫の扉を、拳の背で軽く叩いた。


「疑うなら、最初からそう言え。段に座らせて、水を飲ませて、八年の話をさせて——それで、庫を指すのか。お前もか、紙の人。この軍で私を指す指は、もう見飽きるほど見たが、あんたのは、いちばん丁寧で、いちばん汚い」


 言い返せる言葉を、私はいくつか持っていた。疑ったのではなく番号が一致しただけだ、とか。所見は事実の記載であって告発ではない、とか。どれも正しくて、どれも、この人の前では紙のように軽かった。

 動機は証明にならない。私は六日目に、自分でそう書いた。動機で人を疑うのは占いだと。だが、その規律は今日、私を守ってくれない。物証は動機と違って、無視できない。彼女の八年がどれほど本物でも、番号の一致は消えない。そして番号の一致がどれほど本物でも、彼女の八年は嘘にならない。両方を、同時に持っているしかなかった。


「搬出票の綴りを、検めさせていただきます」


 私が言えたのは、結局、監査の言葉だけだった。


「好きにしろ」


ヴェラは背を向けた。


「紙で戦に勝てるなら、と言ったな。訂正する。紙は、人を殺せるらしい」


 庫の中で、私は票を繰った。外では夕餉の鐘が鳴って、司令部の方から、いつもより硬い靴音がいくつも行き交うのが聞こえた。噂は足が速い。今夜、九人の団長は互いの顔を、昨日までとは違う目で見るだろう。

 第三の写しの数字。第四の庫の矢。二日で、二つ。

 疑いは、この戦争でいちばん傷ついた者の上に落ちた。

 私の手で。

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