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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第五章 集合、しかし足りない

◆ ◆ ◆

┌─ 【手記・DAY 11】

│ 関西へ向かう。

│ ルナの光が、弱い。

│ ニュースに、クロードが出ていた。

│ 彼は、もう、僕たちを助けに来ない、気がする。

│ ガルドが「兄弟、お前、顔が変だ」と言った。

│ 僕は、笑い返した。たぶん、不自然な笑顔だった。

└────────────


挿絵(By みてみん)


僕たちは、夜の高速道路を、走るトラックの屋根の上を、跳んで移動した。

一台に長く乗ると目立つ。一台ずつ、跳び移っていく。ヴェイルは身軽だ。ガルドは、ガルドなりに頑張った。屋根が二回ほど凹んだ。

「レイン」

ヴェイルの声が、横から飛んできた。

「お前、ニュースを見たか」

「どれを」

「クロードだ」

僕は、一瞬、足を止めそうになった。

「……どこに、いた」

「東京の、国の偉い連中の集まる場所にいた。スーツ、というのを着て、笑顔で、握手していた」

ヴェイルの口調は、淡々としていた。

「あの男だ。一日で、自分の居場所を見つけたんだ」

「……」

「レイン」

「ん」

「お前は、どう、思う」

僕は、しばらく、答えなかった。

賢者クロード。冷静で、損得の決定が速く、人心掌握に長けた男。パーティーの交渉役。

彼が、この世界に飛ばされて、最初に何をするか。

──たぶん、僕にも、答えは分かっていた。

彼は、計算する。

最も安全で、最も自分が有利になる立場を計算して、迷わずそこに行く。

だが──。

「ヴェイル」

「ん」

「クロードを、信じよう」

ヴェイルが、僕の横顔を、しばらく見つめた。

「お前は、お人好しだな」

「ああ」

「だが、それが、お前の、いいところでもある」

彼女は、それ以上、何も言わなかった。

ルナの光が消えたのは、僕たちが関西に着く、その明け方のことだった。

地図の上から、淡い点が、ふっと、かき消えた。

僕は、息が、止まった。

「レイン」

ヴェイルの声が、遠くに聞こえた。

「レイン、落ち着け」

「……」

「死んだ、わけじゃない」

「分からないだろう」

僕は、地図を握りしめた。

ヴェイルが、僕の手首を、強く掴んだ。

「分かるさ。地図に、彼女の名前が、残っている。死んだら、消える。お前のこの魔具は、そういう仕組みだ」

僕は、ようやく、息を吐いた。

確かに、地図の隅には、薄く、ルナという文字が、まだ残っていた。

──移動した、ということか。

いや、それとも──。

僕の中に、嫌な仮説が、ひとつ、浮かんだ。

情報を得るために、僕たちは、ある男に会いに行った。

ガルドが、トラックの中のニュースを見ている間に、賢者クロードから、暗号化された連絡が入っていたのだ。彼は、僕たちの動きを、最初から把握していたらしい。

指定された場所は、関西の、人の少ない倉庫街。

そこに、クロードは、たった一人で、立っていた。

「来たな」

青年。長身。整った顔立ち。元の世界では、賢者の長衣を着ていた彼が、今は、見たことのない黒い「スーツ」というものを着て、ネクタイ、というものを首に巻いていた。それが、不思議なほど、似合っていた。

「クロード」

「久しぶりだな、レイン」

「お前、政府に、入ったらしいな」

「正確には、入る予定だ。今は、まだ、こちら側の人間だよ」

クロードは、にこやかに笑った。

彼の笑顔は、いつも、何を考えているか分からない。

「レイン、結論から言おう。ルナの居場所が分かった」

「どこだ」

「言う前に、覚悟を、決めてほしい」

ヴェイルが、ぴくり、と動いた。

「クロード、お前、何を知っている」

クロードは、ヴェイルを一瞥して、それから、僕に向き直った。

「この世界には、表の市場と、裏の市場がある。表は、合法的な商取引。裏は──」

彼は、一拍、置いた。

「人間を、売り買いする市場だ」

僕の指先が、冷たくなった。

「ルナは、その、裏市場に、流れた」

「……」

「そして、今夜、ある『施設』で、オークションにかけられる」

僕は、しばらく、声が出なかった。

ガルドが、低く、唸るような声を、喉の奥から出した。

「クロード」

「なんだ、ガルド」

「お前、なんで、止めねえんだ」

「止められないからだ。私が一人で動けば、目立つ。組織が動く前に、ターゲットだけ消される」

「お前なら、できんだろ」

「私一人では、できない。だから、お前たちに、教えている」

クロードの声は、冷静だった。

いつもの、損得の計算をしている、彼の声だった。

だが──。

僕は、彼の目を見た。

クロードの目の奥に、いつもとは違う色が、ほんの少しだけ、揺れているのを、僕は見つけた。

──彼も、怒っている。

見せていないだけで、彼も、ルナのことで、ちゃんと、怒っていた。

僕は、深く、息を吸った。

「クロード」

「ん」

「場所を、教えてくれ」

「神戸の、港湾区域だ。今夜二十二時。私が、招待状を、用意した」

クロードは、内ポケットから、黒い封筒を取り出した。

「レイン、ひとつ、約束をしてくれ」

「なんだ」

「ルナを、救うことだけ、考えろ。会場の人間を、全員、殺すな」

僕の指が、剣の柄に、触れた。

「クロード、僕は、人を殺さない」

「今は、そうだ」

彼は、僕の目を、まっすぐに見た。

「だが、レイン。今夜、お前は、たぶん、その線を、初めて、踏み越えそうになる」

「……」

「踏み越える前に、踏みとどまってくれ。お前が一度でも踏み越えれば、もう、二度と、戻れない」

ヴェイルが、僕の隣で、静かに言った。

「賢者、お前、随分、変わったな」

「変わってないさ、ヴェイル。私は、いつも、勇者の最も近くで、勇者が壊れないように、見ているだけだ」

クロードは、最後に、ふっと、笑った。

「では、また、夜に」

彼は、踵を返した。

彼の背中は、僕の知っている賢者の背中ではなく、見たこともない、現代日本のスーツの背中だった。

クロードが消えたあと、ガルドが、ぼそりと呟いた。

「兄弟」

「ん」

「あいつ、信じていいのか」

僕は、空を見上げた。

曇り空だった。

「信じる」

「なんで」

「今、信じないと、ルナが、間に合わない」

ガルドは、しばらく考えて、それから、頷いた。

「分かった、兄弟」

ヴェイルは、何も、言わなかった。

ただ、僕の隣で、自分の短剣の手入れを、始めただけだった。

──二十二時。

地図の上で、ルナの淡い光が、消えてから、もう、十時間が経っていた。

間に合うかどうかは、分からない。

だが、間に合わせる。

僕は、剣の柄を、握り直した。

──ルナ。

待っていてくれ。

僕は、君を、絶対に、見捨てない。

◆ ◆ ◆

── 第五章 了 ──

── 第一部 完 ──

次章「地下のオークション」── 第二部 開幕


第一部、ここまで読んでいただきありがとうございます。

レインたちはようやく集まり始めましたが、物語はここから一段暗くなっていきます。

続きが気になる、応援したいと思っていただけましたら、いいねや感想をいただけるととても励みになります。

次回、第二部もお楽しみに。

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