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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第四章 海上の影

◆ ◆ ◆

┌─ 【手記・DAY 8】

│ 国際問題、という言葉を覚えた。

│ 僕たちは、たぶん、その渦中にいる。

│ ニュースで、自分の顔写真を見るのは、慣れない。

│ ガルドは、自分の似顔絵を喜んでいる。

│ ヴェイルは、似顔絵が「似ていない」と怒っている。

└────────────


挿絵(By みてみん)


僕たちは、一晩で「指名手配」というものになっていた。

町に出るたびに、僕の顔写真と、ガルドの全身像と、ヴェイルの後ろ姿が、ありとあらゆる場所の画面に映っていた。

僕は、それを見て、初めて、本当の意味で焦った。

──逃げないと、いけない。

仲間を見つけるために、僕たちは、この国の中を、ずっと隠れて移動しなければならない。

「レイン」

ヴェイルが、僕の袖を引いた。

「お前、表情が暗いぞ」

「ヴェイル……いや、なんでもない」

「正義感が、強すぎるのが、お前の悪い癖だ」

彼女は、僕の顔を、まっすぐに覗き込んだ。

「私は、千年生きている。お前のような顔をした若者を、何度も、見てきた。お前のような顔をしたまま、誰かを救おうとして、自分を壊した若者を、何度も、見てきた」

「……」

「だから、お前にだけは、その顔を、しないでほしい」

彼女の声は、いつもの命令口調ではなかった。

僕は、彼女の目を見返して、ただ、頷いた。

──このときの、彼女の言葉を、僕はあとで、何度も、思い出すことになる。

ニュースは、刻一刻と、激しさを増していた。

太平洋上で、米軍の空母「ロナルド・レーガン」が、正体不明の存在と「接触」したという。最初は「接触」だった。次の報道では「交戦」になっていた。そして三度目の報道では──。

「空母『ロナルド・レーガン』、大破。沈没の可能性」

──冗談だろう。

僕は、ガルドとヴェイルを連れて、海岸沿いの小さな港町に来ていた。北海道の南端だ。地図の上の、四つ目の染みは、いまだに海の真ん中で蠢いていた。

画面の中で、見たこともない巨大な軍艦が、まっすぐに割れて、海に沈んでいく。煙、火、人々の悲鳴。

「レイン」

ガルドの声が、低かった。

「人、死んでるか」

僕は、即座に首を振った。

「いや、たぶん、死んでいない」

「なんで分かる」

「あいつは、人を殺さない」

ヴェイルが、僕の隣で、深く頷いた。

「そうだ。あの悪趣味な変態は、絶対に、人間を殺さない」

ガルドが、不思議そうな顔をした。

「なんで」

ヴェイルが、苦々しい顔で答えた。

「死んだ人間で、ホログラムが作れないからだ」

「……ああ」

ガルドは、納得したように頷いた。

「あいつ、本当に、悪趣味だな」

画面の中で、新しい映像が流れ始めた。

沈みゆく空母の甲板の上に、人影が立っていた。

──いや、人影、ではなかった。

人間の形をした、半透明の、光の塊。

それが、何百体も、空母の上を、ゆっくりと歩き回っていた。

どれも、見覚えのある顔をしていた。

空母の乗員たち。

彼ら自身の姿が、半透明の光となって、彼ら自身の沈む船の上を、ゆっくりと歩いていた。

「悪趣味だ」

ヴェイルが、もう一度、呟いた。

「やつ流の、挨拶だな」

「挨拶?」

「『俺はお前たち全員を見たぞ』というメッセージだ。やつは、相手の体を一度見れば、ホログラムでその姿になれる。空母の乗員全員を、自分の姿として、相手に見せつけている」

「……なんで、そんな脅し方を」

ヴェイルが、ふっと笑った。

「やつは、退屈なんだ。たぶん、こっちに来てから、まだ、誰とも、話してない」

僕は、画面を見つめた。

沈みゆく空母の上で、何百もの「半透明の人間たち」が、一斉に、こちらに顔を向けた。

そして、その全員が、口を、同じ動きで、開いた。

──Hi, Rain.

ヴェイルとガルドが、僕の顔を見た。

画面の中の何百もの口が、もう一度、動いた。

──早く、迎えに来てよ。

そして、ぷつりと、映像が、途切れた。

「あいつは、生きている」

僕は、深く、息を吐いた。

ヴェイルが、肩をすくめた。

「生きているし、相変わらず、性格が悪い」

ガルドが、頭を掻いた。

「兄弟、あいつ、どうやって迎えに行く? 海の上だぞ」

僕は、地図を取り出した。

四つ目の染みは、ゆっくりと、こちらに向かって動き始めていた。

──向こうから、来る。

迎えに行く必要は、なさそうだった。

だが、それよりも、僕の目を引いたのは、地図の南西の方角に、新しく現れた、もうひとつの点だった。

小さくて、淡い、たどたどしい光。

──聖職者だ。

間違いない。ルナだ。

「ヴェイル、ガルド」

「ん」

「ルナを、見つけた」

二人の顔が、同時に強張った。

ルナは、僕たちのパーティーの最年少だ。十歳。天使族の、まだ羽の生えていない、小さな少女。

「場所は」

ヴェイルの声が、低かった。

「南西。たぶん、関西、と呼ばれている地域だ」

「無事か」

「分からない。光が、弱い」

ヴェイルが、舌打ちした。

「急ぐぞ、レイン」

「ああ」

ガルドが、自分の盾を背負い直した。

「兄弟。もし、あの子に、何かしてやがったら」

ガルドの目が、初めて、本気の色を帯びた。

「俺は、たぶん、加減を、しねえぞ」

僕は、彼の肩を、軽く叩いた。

「分かってる」

──そう答えながら、僕は、自分の指先が、少しだけ、震えていることに気づいていた。

怒り、ではなかった。

恐怖、だった。

ルナに、何かあったら。

──そのとき僕がどうなるか、僕自身、想像がつかなかった。


不意に、ある声が、よみがえった。

元の世界で、最後の戦いに、出発する朝のことだった。

ルナは、教会の入り口で、僕に、白い小さな袋を、差し出した。塩むすびの匂いが、していた。

──レインさん、知らないところに行っても、ちゃんと、ご飯を食べてくださいね。

十歳の、聖女の、いつもの、心配性の、声。

僕は、笑って、頷いた。

そして、その袋を、最後まで、食べる暇が、なかった。

光がはじけて、僕は、この世界に、来た。

──ルナ。

僕は、まだ、お前の作ったおむすびを、半分しか、食べていない。

◆ ◆ ◆

── 第四章 了 ──

次章「集合、しかし足りない」へ続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ノアの不気味さが少しでも伝わっていたら嬉しいです。

次回もお楽しみに。

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