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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第十九章 賢者の本当の計算

┌─ 【手記・DAY 60】

│ クロードと、五十五日ぶりに、顔を合わせた。

│ 彼は、痩せていた。

│ 僕は、彼に、頭を下げた。

│ ようやく、本当の意味で、彼が見えた。

└────────────


挿絵(By みてみん)


待ち合わせは、東京の、人気のない、廃線跡の、トンネルだった。

僕とルナが、闇の中に、辿り着いた時、トンネルの奥に、青年の影が、立っていた。

黒いスーツの、長身の青年。

クロードだった。

だが、彼の顔は、五十五日前とは、別人のように、痩せていた。

「レイン」

「クロード」

彼は、僕を見て、ふっと、笑った。

「久しぶりだな」

「お前、瘦せたな」

「お前のせいだ」

クロードは、ルナを、見た。

「ルナ、おっきくなったか」

「……まだ、十歳だよ、クロードおじさん」

「ああ、そうか」

彼は、ルナの頭を、撫でた。

ルナは、嬉しそうに、頷いた。

「レイン、座ってくれ。長くは、ない」

彼は、トンネルの壁に、もたれて、座った。

僕とルナも、彼の前に、座った。

「結論から、言う」

クロードの声は、いつものように、簡潔だった。

「ノアの結晶は、三日後、米軍に、引き渡される」

「米軍」

「太平洋上で、ノアに、空母を、沈められた、報復の、一環だ。日米の、合意で、ノアを、研究対象として、米国本土に、移す」

「……」

「私は、これを、止めるために、五十五日、政府内で、戦った。だが、勝てなかった」

「クロード──」

「待て、レイン。先を、聞け」

彼は、内ポケットから、一枚の紙を、取り出した。

「これは、ノアの、移送計画書だ」

「……」

「ルートは、三つ、ある。私は、上に、最も警備の薄いルートを、推薦した。私の推薦は、通った」

僕は、クロードを、見た。

「お前、それを、僕に、渡すために──」

「五十五日、笑顔で、政府の中で、過ごした」

クロードは、苦笑した。

「楽じゃ、なかったよ、レイン」

「クロード」

「ん」

「すまなかった」

僕は、頭を、下げた。

「お前を、ずっと、疑っていた」

「ああ。私も、お前に、疑われるように、振る舞った。だから、お互いさまだ」

彼は、にこやかに、笑った。

いつもの、何を考えているか分からない、賢者の笑顔だった。

だが、今、その笑顔の意味が、僕には、はっきりと、見えていた。

「クロード」

「ん」

「お前、政府の中で、何を、してきた」

クロードは、しばらく、黙っていた。

そして、ぽつりと、答えた。

「元の世界に、帰る、方法を、探していた」

僕の、息が、止まった。

「……あるのか」

「ある」

彼の答えは、簡潔だった。

「政府の、機密文書の中に、過去、こちらに来た、別の世界の、人間の、記録があった。彼らも、私たちと、同じ、逆転生者だ」

「……」

「うち、三人は、戻った。戻った場所は、東京の、ある、限定された、地点だった」

「どこだ」

「日本武道館の、地下、五階」

僕は、その地名を、知らなかった。

「ニッポンブドウカン」

「日本で、最も、古い、武道の聖地だ。だが、地下五階に、政府の、秘密の研究施設が、ある。そこに、世界と世界を繋ぐ、扉が、存在する」

「……」

「ただし、その扉を、使うには、ある、条件がある」

クロードは、ルナを、ちらりと、見た。

「これは、レインにだけ、教える」

ルナが、すぐに、頷いた。

「私、ちょっと、外で、空気を、吸ってくる」

「ルナ──」

「大丈夫、ご主人さま。ちょっとだけ、だから」

彼女は、トンネルの、入り口の方へ、走っていった。

十歳の少女の、足音が、遠くなった。

「条件、というのは」

クロードの声は、低かった。

「六人の、逆転生者のうち、一人だけが、こちらの世界に、残る、必要がある」

僕は、しばらく、彼の言葉を、咀嚼した。

「……一人、残れば、他は、戻れるのか」

「そうだ」

「誰が、残る」

「それは、お前たちが、決めることだ」

クロードは、淡々と、言った。

「だが、私は、もう、決めている」

「クロード──」

「私が、残る」

僕の、両手が、震えた。

「お前、何を──」

「考えてみろ、レイン。私が、最も、この世界に、適応している。私が、最も、政府の中で、力を持っている。私が残れば、他の人間に、迷惑が、かからない」

「クロード、駄目だ」

「レイン」

「お前を、置いていくなんて、できない」

クロードは、ふっと、笑った。

「相変わらず、お人好しだな、お前は」

「クロード──」

「だが、それが、お前の、強さだ」

彼は、自分の指で、自分の膝を、軽く、叩いた。

「レイン、もうひとつ、聞いてほしい」

「ん」

「私は、この国に、残ることを、それほど、苦に、思っていない」

「……何故、だ」

「五十五日、政府で、過ごして、いろんな人間に、会った」

クロードは、しばらく、天井を、見上げた。

「政府の、上層部には、お前の言うような、計算高い、損得しか考えない、人間も、多い」

「……」

「だが、現場に、いる人間は、違う」

「現場」

「対異世界対策本部の、末端の警官に、田中という、若い男がいる」

彼は、ふっと、笑った。

「彼は、月の半分、徹夜だ。家に帰る時間が、ない。だが、ある日、私が、夜中に、執務室で、書類に、埋もれていたら、彼は、何も言わずに、温かい弁当を、二つ、置いていった」

「……」

「『副指揮官、上の連中の弁当は、毎日、店屋物なんですけど、私は、自分で握ったやつのほうが、美味いと思うんで』って、田中は、笑っていた」

「クロード──」

「あいつは、私が、お前たちの仲間だってこと、知らない。それでも、毎日、徹夜で、お前たちを追う仕事を、続けている。家族に、ろくに、会えないまま」

「……」

「ある夜、彼は、私の前で、泣いた。『勇者の人たち、悪い人たちじゃないですよね』って」

僕の、指先が、止まった。

「『俺、命令だから、追ってますけど、本当は、追いたくないんです』って」

「クロード」

「ん」

「お前を、追っている、すべての人間が、お前を、敵だと、思っているわけじゃ、ない」

「……」

「上から、命令されて、内心で、お前たちを、応援している、田中みたいな人間が、何人もいる」

クロードは、僕の目を、まっすぐに、見た。

「この国の、上層部の、無関心は、確かに、深い。だが、現場の、ひとりひとりは、ちゃんと、人間だ」

「……」

「この国は、街の隅々まで、清潔だ。誰かが、毎朝、掃いているからだ。電車は、時間通りに、来る。誰かが、時計を、合わせているからだ。震災があれば、見ず知らずの他人のために、二千人が、徒歩で、向かう」

「クロード、お前──」

「そういう、目立たない、ひとりひとりの、優しさが、この国を、まだ、支えている」

彼は、にこやかに、笑った。

「だから、私は、この国に、残るのが、苦じゃ、ない。私は、そういう、田中みたいな人間と、一緒に、これからも、生きていきたい」

「……」

「お前の、敵は、お前を、追う十万人じゃ、ない。お前を、応援する、一億人の、声に出さない優しさの方が、お前の、味方だ」

僕は、しばらく、声が、出なかった。

──クロードが、政府で、何を、見てきたのか。

──彼が、なぜ、痩せたのか。

──彼が、なぜ、それでも、笑っていられるのか。

ようやく、その輪郭が、僕に、見え始めた。

「クロード」

「ん」

「この話は、ノアを、奪還してから、もう一度、する」

「ああ」

「今は、ノアの結晶を、外国に、渡さないことが、最優先だ」

クロードは、頷いた。

「三日後の、深夜二時。移送は、横浜港から、行われる。私が、内側から、警備を、薄くする。お前が、外から、ノアを、奪う」

「分かった」

「ルナを、連れていけ。彼女の、瞬間移動が、必要になる」

「ああ」

クロードは、僕の肩に、手を、置いた。

「レイン」

「ん」

「あの夜、東京湾の上空で、お前が、止まってくれたこと、感謝している」

「……知っていたのか」

「ああ。私は、ずっと、お前を、見ていたよ」

彼は、にこやかに、笑った。

「お前は、ちゃんと、勇者だ」

僕は、しばらく、言葉が、出なかった。

──クロード。

お前は、本当に、僕の、いちばんの、味方だった。

僕は、ようやく、それを、声に出して、認めた。

「クロード」

「ん」

「いつか、必ず、お前も、連れて帰る」

「それは、お前の、課題、だな」

彼は、笑った。

◆ ◆ ◆

── 第十九章 了 ──

次章「ホログラムの帰還」へ続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。

レインたちの物語を、もう少しだけ見届けていただけると嬉しいです。

よければ、感想などお待ちしております。

次回もお楽しみに。


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