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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第十五章 世界を壊す日

┌─ 【手記・DAY 38】

│ ■■■■■■■■■■■■■■■■

│ ■■■■■■■■■■■■■■■■

│          

│ 壊す。

└────────────


挿絵(By みてみん)


ヴェイルが死んで、六日が、経った。

僕は、その間、ルナと、ほとんど、口を、利かなかった。

ルナは、僕に、何度も、声を、かけた。料理を、運んだ。隣に、座った。

僕は、すべてに、頷いた。

頷いて、剣を、磨いていた。

──だが、僕の頭の中で、別の音が、響いていた。

計画の、音だった。

──東京湾。

──そこの、上空に、僕は、行く。

──そして、僕の知っている、最大の魔法を、撃つ。

──黒い炎を、東京の、ど真ん中に、落とす。

──首都が、消える。

──対異世界対策本部が、消える。

──ガルドを、ヴェイルを、ノアを、ルナを、苦しめた、この世界の、中心が、消える。

──そこから、すべてを、始め直す。

僕は、自分の、計画に、何の、躊躇も、感じなかった。

ただ、ひとつだけ、ルナを、巻き込まないように、しなければ、ならない。

ある朝、僕は、ルナに、嘘を、ついた。

「ルナ。今日、僕は、東京に、行く」

「うん」

「クロードに、会いに行く。ノアを、迎えに行く方法を、相談しに、行く」

「うん」

「だから、お前は、ここで、待っていてくれ」

ルナは、しばらく、僕を、見つめていた。

僕は、彼女の目を、見返した。

──嘘だ、と、見抜かれるかも、しれない。

だが、彼女は、ただ、頷いた。

「うん。気を、つけて」

「ああ」

「夕方には、戻ってきてね」

「ああ」

僕は、隠れ家を、出た。

──戻ら、ない。

二度と、戻らない。

ルナを、巻き込まないように、隠れ家ごと、消える。

──だが、東京湾の上空からの、黒い炎の、爆風は、ここまで、届くだろうか。

届けば、ルナも、巻き込まれる。

──いや、彼女は、聖職者だ。

彼女の法衣は、すべての物理攻撃を、無効化する。

彼女なら、生き残る。

そう、自分に、言い聞かせて、僕は、隠れ家を、振り返らずに、歩いた。

東京湾の、上空。

地図で、最も高い建物の、屋上に、俺は、立っていた。

ここから、東京の、ほぼ全域が、見渡せた。

夜だった。

無数の、光が、地上に、煌めいていた。

──この、光、ひとつひとつに、人が、いる。

──家族が、いる。

──恋人が、いる。

──友人が、いる。

──子供が、いる。

俺は、それを、理解していた。

だが、同時に、俺は、こうも、知っていた。

──この、光の、向こうで、いま、何百万の指が、誰かの不幸を、小さな板で、消費している。

──ガルドの、見世物動画は、いまも、再アップされ、再生され、笑われている。

──ヴェイルが、撃たれた事件は、三日後には、誰も、話題にしなかった。

──そして、彼女たちを、奪われた俺は、いまだに、『国家危険人物』として、検索されている。

──少し、違うだけで。

──力が、強いだけで。

──ガルドは、潰された。

──ヴェイルは、撃たれた。

──ルナは、売られた。

──ノアは、結晶ごと、研究対象にされた。

──元の世界では、こんなこと、なかった。

──元の世界では、魔王が、絶対の悪で、俺が、絶対の正義だった。

──戦う相手が、見えた。

──だが、ここでは、敵が、いない。

──敵がいないから、誰も、戦わない。

──誰も、戦わないから、誰も、助けない。

──一億の、見ぬふり、聞かぬふり、黙るふりが、この街の上に、積み重なって、いる。

──だから、俺は、もう、この街そのものを、敵に、する。

ヴェイルの、最後の言葉が、頭の中で、響いた。

──世界を、恨むな。

──ヴェイル、ごめん。

──お前の、最後の頼みを、俺は、聞けない。

俺は、両手を、空に、向けた。

詠唱を、始めた。

空気が、震えた。

空に、黒い雲が、渦を、巻き始めた。

──黒い、炎。

──俺の、最大の魔法。

両手の間に、黒い、炎が、生まれた。

廃工場の、屋上で、生まれた、あの、炎よりも、大きく、深く、暗かった。

空が、夜よりも、黒く、なっていく。

地上の、東京湾の、光が、ひとつ、また、ひとつ、俺の、黒い炎の、影に、隠れていく。

──ガルド。

──ヴェイル。

──ルナ、ごめん。

俺は、両手を、東京の、中心に、向けた。

黒い炎が、俺の、手のひらから、落ちようとした。

──そのとき。

背後で、小さな声が、した。

「ねえ、おにいちゃん」

僕の、両手の、黒い炎が、ゆらり、と、揺れた。

僕は、振り返らなかった。

振り返れば、また、止まる。

「ルナ。来るな」

「ねえ、おにいちゃん」

「ルナ、僕は、もう、決めた」

「ねえ」

彼女の声は、震えていなかった。

いつもの、十歳の少女の、声だった。

「ねえ、おにいちゃん」

「ん」

「お腹、空いてない?」

僕は、しばらく、自分が、何を、聞いたか、分からなかった。

「……ルナ?」

「お腹、空いてない?」

ルナは、もう一度、同じことを、聞いた。

「私、ね。おにぎりを、たくさん、作ったの」

「……」

「ガルドおじさんが、好きだった、お米で」

「……ルナ」

「一緒に、食べよう」

僕の、両手の、黒い炎が、震えた。

──こんな、瞬間に。

──こんな、世界を、終わらせようと、している、瞬間に。

──十歳の、少女が、おにぎりを、持って、屋上に、来た。

僕は、振り返った。

ルナが、立っていた。

両手に、大きな、風呂敷の、包みを、抱えて。

彼女の、白い法衣が、夜風に、揺れていた。

彼女は、ぼろぼろと、涙を、流していた。

だが、彼女の、口元は、笑って、いた。

「私、ね」

「ん」

「おにいちゃんが、嘘を、ついていること、分かってたの」

「……」

「だから、聖職者の、力で、ずっと、おにいちゃんの、後を、追ってたの」

「……ルナ」

「おにいちゃんが、ここで、何を、するか、分かってた」

「……」

「だから、おにぎりを、作って、持ってきた」

僕は、両手を、ゆっくりと、下げた。

黒い炎が、ゆらり、ゆらり、と、揺れて、それから、ふっと、消えた。

空が、ゆっくりと、元の、色に、戻った。

地上の、東京の、光が、また、煌めき始めた。

僕は、屋上の、コンクリートの上に、膝を、ついた。

ルナが、俺の前に、座った。

そして、風呂敷を、開いた。

中には、大きな、おにぎりが、十二個、並んでいた。

彼女は、その中から、ひとつを、取って、俺に、差し出した。

「食べて」

「……」

「お腹、空いてるでしょ」

俺は、震える手で、おにぎりを、受け取った。

──このおにぎりは、ネットには、流れない。

──このおにぎりは、五万円で、配信されない。

──このおにぎりを、消費する、十万人の指は、いない。

──このおにぎりは、ルナが、俺のために、握っただけの、ただの、塩むすびだ。

白い、米。

ガルドが、好きだった、米。

──そして、元の世界で、ルナが、俺の出発の朝に、握ってくれた、あの、白い袋の、塩むすびと、同じ、米。

俺は、一口、噛んだ。

塩の味が、した。

──ただ、塩の味だけが、した。

だが、その塩の味は、ニュースの中の、誰の不幸の味とも、違った。

コメント欄の、誰の言葉の味とも、違った。

配信の、視聴ボタンの味とも、違った。

ただ、人間が、人間のために、握った、ただの、米の、味だった。

僕は、その瞬間、ぼろぼろと、泣き始めた。

ルナの、隣で、ただ、おにぎりを、口に、運びながら、泣いた。

止まらなかった。

ガルドのときも、ヴェイルのときも、流れなかった涙が、塩のついた、白い米の前で、ようやく、流れた。

──このとき、僕は、自分のことを、もう一度、「僕」と、呼んだ。

ルナの前で。

ルナの、おにぎりを、食べながら。

ようやく、僕は、自分の名前を、思い出した。

ルナは、何も、言わなかった。

彼女は、ただ、僕の隣で、自分のおにぎりを、ゆっくりと、食べていた。

時々、僕の頬の、涙を、小さな指で、拭ってくれた。

僕は、おにぎりを、十二個、食べた。

いや、二人で、十二個、食べた。

食べ終わったとき、東京湾の、空が、白み始めていた。

夜が、明けていた。

僕は、屋上の、縁に、座っていた。

足を、ぶらぶらと、宙に、放りながら。

ルナが、僕の隣に、ぺたん、と、座った。

「おにいちゃん」

「ん」

「私、おにいちゃんに、ひとつ、お願いがあるの」

「なんだ」

「私を、おにいちゃんの、犬にして」

僕は、振り返って、ルナを、見た。

彼女は、まっすぐに、僕を、見ていた。

「いぬ?」

「うん」

「ルナ、何を、言って──」

「おにいちゃんが、また、世界を、壊そうとしたら、私が、止める」

「……」

「だから、私を、おにいちゃんの、犬にして。ずっと、おにいちゃんの、足元に、いる、犬」

「ルナ──」

「ガルドおじさんは、もう、いない。ヴェイルおねえちゃんも、いない。ノアおねえちゃんは、まだ、結晶の中。クロードおじさんは、政府の中」

彼女は、ぼろぼろと、涙を、流していた。

「だから、私しか、いないの。おにいちゃんの、横に」

「……」

「だから、私を、犬にして、ずっと、横に、置いて」

僕は、しばらく、彼女を、見つめていた。

──彼女は、自分を、僕の、鎖と、しようと、している。

──十歳の、少女が、自分の、人生を、僕の、暴走を、止めるためだけに、捧げようと、している。

僕は、ルナの、頭に、手を、置いた。

彼女の、髪は、柔らかく、温かかった。

「ルナ」

「ん」

「分かった」

「ほんと?」

「ああ。お前は、今日から、僕の、犬だ」

ルナの、顔が、ぱあっと、明るくなった。

「やった!」

僕は、彼女の、頭を、ぐしゃぐしゃと、撫でた。

──このときの、僕は、まだ、知らなかった。

──彼女を、犬と、呼ぶことで、僕が、これから、どれほど、変わっていくか。

──そして、彼女が、どれほど、僕を、変えてくれるか。

◆ ◆ ◆

── 第十五章 了 ──

── 第三部 完 ──

次章「名前のない関係」── 第四部 開幕


第三部、ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になる、応援したいと思っていただけましたら、いいねや感想をいただけるととても励みになります。

次回、第四部もお楽しみに。


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