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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第十四章 狩人、撃たれる

┌─ 【手記・DAY 32】

│ ヴェイルが、戻ってきた。

│ でも、何かが、違う。

│ 彼女は、まだ、姉の組織と、繋がっている。

│          

│ 仲間って、なんだ。

└────────────


挿絵(By みてみん)


ヴェイルが、僕たちの隠れ家に、戻ってきて、四日が、経った。

彼女は、以前より、口数が、少なかった。

そして、夜になると、よく、隠れ家を、出ていった。

ルナが、心配そうに、僕を、見た。

「おにいちゃん。ヴェイルおねえちゃん、大丈夫?」

「分からない」

僕は、正直に、答えた。

──ヴェイルが、何を、しているのか、僕には、まだ、見えていない。

彼女は、姉の組織から、解放された。

だが、彼女は、まだ、姉の組織の、何かを、調べている。

それが、僕たちの、利益のためなのか、それとも、彼女自身の、内面の、迷いのためなのか、僕には、判断が、つかなかった。

クロードからの、緊急の連絡が、来たのは、その夜のことだった。

彼の文章は、これまでで、最も、短かった。

──ヴェイルが、危ない。今夜、私の、組織が、彼女を、確保する。

僕は、その文章を、何度も、読み返した。

クロードの、組織。

つまり、対異世界対策本部。

──ヴェイルが、捕まる。

僕の指が、震えた。

「クロード、お前──」

僕は、すぐに、応答した。

「お前は、止められないのか」

「無理だ。これは、上の指示だ。ヴェイルが、姉の組織と、繋がっていることを、政府は、把握した」

「クロード──」

「レイン。ヴェイルを、今、隠れ家から、出すな。今夜、私は、別の場所を、捜索する、と、上に報告する。だが、それでも、別の部隊が、隠れ家に、向かう可能性は、ある」

「……」

「もし、別の部隊が、来たら、ヴェイルだけでも、逃がせ」

クロードは、それだけ言って、通信を、切った。

僕は、すぐに、ヴェイルを、探した。

彼女は、隠れ家に、いなかった。

彼女は、いつものように、夜の散歩に、出ていた。

僕は、地図を、開いた。

ヴェイルの、点が、近所の、廃れた神社のあたりで、止まっていた。

そして──。

彼女の、点を、囲むように、複数の、別の、点が、急速に、接近していた。

「ルナ、待っていろ!」

僕は、隠れ家を、飛び出した。

夜の、田舎道。

僕は、全力で、走った。

──間に合え。

──ガルドのときみたいに、間に合わない、なんて、もう、二度と、嫌だ。

──頼む、間に合ってくれ。

神社に、辿り着いたとき、ヴェイルは、もう、武装した男たちに、囲まれていた。

二十人ほど。

対異世界対策本部の、特殊部隊。

彼らの装備は、警察の、それとは、全く、別物だった。

彼らの銃が、ヴェイルに、向けられていた。

ヴェイルは、両手を、上げて、立っていた。

抵抗していなかった。

──彼女が、抵抗しないのは、なぜだ。

僕は、神社の、鳥居の、影に、隠れた。

「エルフ、種族、識別済み。ターゲット、確保する」

特殊部隊の、指揮官の声。

そのとき。

ヴェイルの、口元が、ゆっくりと、笑った。

「──気づかなかったか、お前たち」

彼女の、声は、低くて、冷たかった。

「私の周りに、私の姉の、組織の、エルフが、十人、隠れている」

特殊部隊の、男たちの、空気が、一瞬で、凍った。

そして、神社の、木々の影から、銀色の髪の、十人の、エルフたちが、矢を、構えて、現れた。

──ヴェイルは、姉の組織と、まだ、繋がっていた。

いや、それどころか──。

彼女は、自分が、囮になり、対異世界対策本部の、部隊を、おびき寄せていた。

そして、十人のエルフで、囲み撃ちにする、計画を、立てていた。

矢が、放たれた。

十本の、エルフの矢が、特殊部隊の、男たちに、向かって、飛んだ。

だが──。

特殊部隊の、装備は、それを、上回っていた。

彼らは、訓練された、職業の戦闘員だった。

矢の、半分は、彼らの、防弾装備に、弾かれた。

残りの半分が、彼らの、急所を、捉えた。

特殊部隊の、十人が、倒れた。

だが──。

残りの十人が、生きていた。

そして、彼らの、銃が、一斉に、火を、噴いた。

ヴェイルが、笑顔のまま、撃たれた。

彼女の銀の髪が、夜の空気の中で、ゆっくりと、揺れた。

彼女の体が、後ろに、倒れていく。

──ヴェイル!

僕は、鳥居の影から、飛び出した。

特殊部隊の、生き残りが、僕に、銃を、向けた。

僕は、構わず、走った。

彼らの、銃弾が、僕の体を、何発も、貫いた。

痛みは、慣れていた。

僕は、ヴェイルに、駆け寄り、彼女を、抱きかかえた。

「ヴェイル──」

彼女の、胸から、血が、噴き出していた。

急所だった。

彼女の、目が、僕を、捉えた。

「……レイン」

「ヴェイル、しゃべるな」

「いや、しゃべる、これは、最後の、機会だ」

彼女は、笑った。

血の混じった、笑顔だった。

「お前、間に合わなかったな」

「ヴェイル──」

「冗談だ。お前は、ちゃんと、来てくれた」

「ヴェイル、ルナを、呼ぶ。ルナなら、お前を、治せる」

「無理だ、レイン」

「無理じゃ、ない!」

「私の、姉の、組織の、矢に、毒が、塗ってあった」

彼女の言葉に、僕は、凍りついた。

「ヴェイル、どういう、ことだ」

「お前を、騙していた。私は、姉の組織に、利用されていた」

「……」

「姉は、私の体に、毒を、塗った矢を、撃たせ、政府の特殊部隊と、相討ちにさせる計画だった。私の死で、政府を、刺激し、対異世界対策本部を、混乱させるのが、目的だった」

「ヴェイル──」

「私は、それを、最初から、知っていた。だが、断れなかった」

「なぜだ」

「姉が、私の、本当の名前を、握っていた」

──エルフの、本当の名前。

それは、エルフが、千年生きて、ようやく、得る、最も、神聖なものだった。

名前を、他のエルフに、握られると、命令に、逆らえない。

「ヴェイル、お前は、ずっと──」

「ずっと、苦しんでいた」

彼女は、僕の頬に、震える手を、伸ばした。

「お前に、相談、できなかった。お前は、優しすぎる」

「ヴェイル──」

「レイン、私の、最後の、頼みを、聞いてくれ」

「ああ」

「お前は、世界を、恨むな」

僕は、息が、止まった。

「ヴェイル、お前──」

「お前が、廃工場で、見せた、あの、黒い炎を、見てから、私は、ずっと、怖かった」

「……」

「お前を、止めたかった。私が、生きている、うちに」

「ヴェイル──」

「だから、世界を、恨むな」

彼女の、目から、涙が、零れた。

「ガルドも、私も、お前を、守って、死ぬ。お前を、守って、死んだ仲間の、死を、お前が、世界を、壊す、理由に、するな」

「ヴェイル──」

「世界は、悪く、ない」

「世界は、悪い」

「悪く、ない、レイン」

「ヴェイル、お前を、殺した、この世界は、悪いだろう!」

「悪いのは、私の、姉だ」

彼女は、ふっと、笑った。

「私の、姉も、悪く、ない。三十年、この世界で、生きて、姉も、彼女なりの、何かを、抱えていた。それを、私は、最後まで、聞き出せなかった」

「……」

「レイン」

「ん」

「お前は、聞き出せ。私が、聞き出せなかったことを、お前が、聞き出してくれ」

「ヴェイル」

「世界を、知れ。世界を、知ってから、世界を、壊すかどうかを、決めろ」

彼女の手が、僕の頬から、ずるり、と、落ちた。

「ヴェイル!」

「……レイン」

彼女の目が、薄く、なっていく。

「お前と、千年、過ごせて、幸せだった」

「ヴェイル、頼む、もう少し、もう少しだけ──」

「……ガルドに、よろしく、伝えてくれ」

彼女は、微笑んだ。

そして、息を、吐いた。

もう、息を、吸わなかった。

僕は、しばらく、彼女を、抱きしめていた。

夜の、神社の、境内。

特殊部隊の、生き残りは、いつの間にか、いなくなっていた。

姉の組織の、エルフたちも、消えていた。

ただ、僕と、ヴェイルの、亡骸だけが、神社の、石畳の上に、残っていた。

僕は、彼女を、抱いて、立ち上がった。

彼女の、銀の髪が、夜風に、揺れていた。

僕は、彼女を、隠れ家に、連れて、帰った。

ルナが、玄関で、待っていた。

彼女は、ヴェイルを、見て、ぐしゃり、と、顔を、歪めた。

「……ヴェイル、おねえちゃん」

「ルナ」

「治せ、ないの」

「毒だ」

「私、治せない、の」

「もう、彼女は、いない」

ルナが、泣き崩れた。

僕は、泣かなかった。

僕の中で、ヴェイルの、最後の言葉が、ぐるぐると、回っていた。

──世界を、恨むな。

僕は、ヴェイルを、ガルドの墓の、隣に、埋めた。

そして、その夜、僕は、初めて、声を、出して、泣いた。

──だが、僕の中の、世界への、恨みは、消えなかった。

ヴェイルの、最後の、頼みを、僕は、聞けなかった。

◆ ◆ ◆

── 第十四章 了 ──

次章「世界を壊す日」へ続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。

レインたちの逃亡を、もう少しだけ見届けていただけると嬉しいです。

よければ、感想などお待ちしております。

次回もお楽しみに。

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