第十二章 賢者の選択
┌─ 【手記・DAY 27】
│ クロードと、戦った。
│ 本気で、戦った。
│
│ 彼は、もう、僕の、仲間ではない、のかもしれない。
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1
僕とルナが、ノアの結晶のもとに、辿り着いたとき、地下施設は、もう、別の場所になっていた。
警備が、桁違いに、増強されていた。
以前、僕とヴェイルが、潜り込んだときの、十倍。いや、二十倍は、いた。
──クロードが、警備を、強化したのだ。
彼は、僕が、ノアを、迎えに来ることを、予測していた。
「ルナ、お前は、ここで、待っていろ」
「うん」
ルナは、地下施設の、入り口の、見えない場所に、隠れた。
彼女の、聖職者の力は、すでに、地下施設の内部にも、何度か、繋がっている。何かあれば、一瞬で、彼女に、戻れる。
僕は、深く、息を、吸って、施設に、踏み込んだ。
2
最初の、十人の警備員を、僕は、無傷で、無力化した。
殺さなかった。
ただ、剣の柄で、首の急所を、軽く、打った。彼らは、五秒で、意識を、失った。
二十人目で、警報が、鳴った。
施設の、すべての扉が、閉じ、すべての照明が、赤に、変わった。
僕は、構わず、走った。
第六層への、最後の階段。
そこで、僕は、足を、止めた。
階段の、下に、人が、立っていた。
一人だけだった。
黒い、スーツの、青年。
クロードだった。
3
「レイン」
彼の声は、いつもより、低かった。
「ここから、先には、行かせない」
「クロード」
「ん」
「どけ」
「断る」
彼は、いつもの、にこやかな笑顔を、浮かべていなかった。
代わりに、彼の体の、輪郭が、ほんの少し、揺れた。
──バフが、かかっている。
彼自身に。
クロードは、戦闘では、僕やガルドに、劣る。だが、自分にバフをかければ、僕たちと、互角に、渡り合える。
彼の力は、本気で、ぶつかれば、戦車も、破壊できる。
「クロード」
「レイン」
「お前、本気で、僕を、止める気か」
「本気だ」
「なぜだ」
「私の、立場のためだ」
彼の答えは、簡潔だった。
「私は、政府の、対異世界対策本部の、副指揮官だ。お前を、ここで、止めなければ、私の立場は、なくなる。私の立場が、なくなれば、お前たちを、内側から、助けることが、できなくなる」
「……」
「だから、本気で、お前と、戦う。お前は、本気で、私を、倒せ」
「クロード、お前──」
「いいか、レイン」
彼は、僕に、まっすぐな、目を、向けた。
「私は、お前に、勝つ気は、ない。だが、お前に、簡単に、負ける気も、ない。本気で、戦って、本気で、負ける。それが、私の、計算だ」
「……お前は、相変わらず、損得の、計算が、速いな」
「ああ。それが、私の、唯一の、武器だ」
クロードは、初めて、ふっと、笑った。
「来い、レイン」
4
僕たちは、本気で、戦った。
彼の、バフのかかった拳が、僕の頬を、何度も、撃った。僕の剣は、彼の急所を、ぎりぎりで、外し続けた。
施設の壁が、僕たちの戦いで、崩れていった。
階段が、半分、消えた。
天井が、いくつも、落ちた。
僕は、彼の意図を、理解していた。
──彼は、わざと、派手に、戦っている。
──施設を、破壊することで、ノアの結晶のある第六層への、ルートを、別の意味で、塞ごうとしている。
ノアの結晶は、奥に、ある。
だが、僕が、この戦いを、続ければ続けるほど、施設の崩壊で、ノアの結晶への、安全なアクセスが、失われていく。
クロードは、僕に、選択を、迫っていた。
──ノアを、今、迎えに行くのを、諦めるか。
──ここで、施設ごと、ノアを、壊すか。
僕は、深く、息を、吐いて、剣を、止めた。
「分かった」
「……何が、分かった」
「ノアは、今は、いい」
クロードの目が、ほんの少し、和らいだ。
「賢明だ」
「だが、クロード」
「ん」
「お前は、僕に、一発、本気で、当てさせろ」
「は?」
「お前が、僕を、本気で、止めた、という事実が、必要だろう。お前の、政府内での、立場のために」
クロードは、しばらく、僕を、見つめた。
それから、ゆっくりと、両手を、開いた。
「ありがとう、レイン」
僕は、剣の柄で、彼の、肩を、強く、打った。
骨が、砕ける音が、した。
彼は、白い顔で、後ろに、倒れた。
「クロード」
「……ああ、結構、痛い、な、これは」
「すまない」
「いや、ちょうど、いい」
彼は、痛みに、顔を歪めながら、それでも、笑っていた。
「これで、私は、お前と、本気で、戦って、勇敢にも、お前を、追い払った、副指揮官、ということに、なる」
「……」
「次は、もう少し、優しく、頼む」
僕は、踵を、返した。
そして、振り返らずに、施設を、出た。
──クロード。
お前は、本当に、僕の、味方なのか。
僕の中の、確信は、まだ、揺れていた。
5
地上に出ると、ルナが、心配そうな顔で、待っていた。
「おにいちゃん」
「ルナ」
「ノアおねえちゃんは」
「今日は、駄目だった」
「クロードおじさんが、止めたの?」
僕は、ルナの顔を、見た。
「……どうして、分かる」
「だって」
ルナは、不思議そうに、首を、傾げた。
「クロードおじさんは、おにいちゃんの、いちばんの、味方、だから」
僕は、その瞬間、自分の、確信が、ようやく、定まったのを、感じた。
──十歳の少女に、教えられた。
二度目だった。
6
その夜、僕の地図に、異変が、起きた。
ヴェイルの点が、二つ目の場所で、激しく、点滅し始めた。
北関東の、ヴェナの組織の、拠点。
そこで、ヴェイルの点が、まるで、何かを、訴えるように、強く、弱く、強く、弱く、明滅していた。
僕は、地図を、握りしめた。
ヴェイル。
──何が、あった。
地図の点は、彼女の、最後の、SOSのように、夜の闇の中で、震えていた。
◆ ◆ ◆
── 第十二章 了 ──
次章「黒い炎」へ続く
ここまで読んでいただきありがとうございます。
レインたちの逃亡を、もう少しだけ見届けていただけると嬉しいです。
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次回もお楽しみに。




