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逆転生勇者、現代国家に“災害級危険人物”認定されました  作者: 妖怪ステーキ


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第十一章 不死という呪い

◆ ◆ ◆

┌─ 【手記・DAY 24】

│ 僕は、四日間、眠っていない。

│ 眠ろうとしても、ガルドの顔が、浮かぶ。

│          

│ 不死、というのは、何のために、僕に、与えられたんだろう。

│ ガルドを、守るためじゃ、なかったのか。

└────────────


挿絵(By みてみん)


ガルドの墓を作って、四日が、経っていた。

僕は、その間、ほとんど、口を、利かなかった。

ルナが、僕に、何度も、声をかけた。ヴェイルが、僕の前に、何度も、料理を、置いた。クロードが、暗号通信で、何度も、僕に、現状を、知らせた。

僕は、すべてに、頷いた。

頷いて、剣を、磨いていた。

──ただ、それだけだった。

──いや、ひとつだけ、僕には、ルナに、隠していることが、あった。

クロードが、定期的に届けてくれる、小さな板。

僕は、ルナが、眠るたびに、それを、開いていた。

そこには、ガルドの、見世物興行の、配信を、見た人間たちの、その後の、書き込みが、流れていた。

▶ 巨人くんの興行映像、保存しといたわ 永久保存版w

▶ 配信止まったやつ、再アップしてくれた人ありがとう

▶ これ五万円の価値はあった

▶ ぶっちゃけ、勇者の方が悪いよな

▶ 助けに来るのが遅いんだよ。本当に仲間だったの?

▶ 結局、ガルド某は不法滞在の異常生物だったわけだし、処分されて当然

▶ 法治国家の日本で、こういうのを許してはいけない

▶ 勇者を擁護するやつは外国人。日本から出ていけ

僕の手の中で、板の表面が、ぎしり、と、軋んだ。

──ガルドは、人間だった。

──彼は、不法滞在では、ない。彼が、自分で望んで、この国に、来たわけじゃない。

──彼は、誰一人、殺していない。

──だが、彼を、見世物にして、五万円で、楽しんだ十万人の方は、いま、こうして、生きている。

──そして、彼を、救おうとした俺の方が、悪役に、なっている。

僕は、板を、池に、投げ捨てた。

水音が、立った。

ある夜、僕は、隠れ家の、裏手の、池のほとりに、座っていた。

剣を、抜き、自分の左腕に、当てた。

少し、力を、込めた。

細身の刃が、僕の腕を、するり、と、貫いた。

血が、噴き出した。

僕は、それを、しばらく、見つめていた。

──痛い。

ちゃんと、痛い。

だが、傷口は、もう、塞がり始めていた。

五分も、すれば、跡形もなく、消える。

僕は、何度も、何度も、同じ場所を、剣で、貫いた。

十回、貫いた。

二十回、貫いた。

傷は、塞がり続けた。

僕は、剣を、池に、投げ捨てそうになった。

──こんな、力。

──こんな、力が、何だ。

ガルドを、守れなかった。

ノアを、迎えに行けない。

ヴェイルが、何を、考えているか、分からない。

ルナを、本当に、守れるかどうか、自信が、ない。

──だったら、僕の体は、何のために、こんなに、頑丈なんだ。

「レイン」

背後から、声が、した。

振り返ると、ルナが、立っていた。

白い、寝間着姿の、十歳の少女。

彼女は、僕の、腕の、血の跡を、見ていた。

「おにいちゃん」

「……ルナ。寝ていろ」

「やだ」

ルナは、僕の隣に、ぺたん、と、座った。

「おにいちゃん」

「ん」

「死にたい?」

僕は、答えなかった。

ルナは、僕の答えを、待たなかった。

「死ねないのは、おにいちゃんが、死ねない体だから、じゃ、ない」

「……」

「私たちが、いるから、だよ」

僕は、ルナの、横顔を、見た。

彼女は、池の水面を、見ていた。

彼女の、横顔は、十歳とは、思えないほど、穏やかだった。

「ガルドおじさんも、私を、守って、死んだの」

「ルナ──」

「だから、私は、絶対、死なないの」

「……」

「死んだら、ガルドおじさんが、悲しむの」

「……」

「おにいちゃんも、同じだよ」

僕は、しばらく、ルナの、横顔を、見つめていた。

──十歳の少女に、慰められて、いるのか、僕は。

僕は、剣を、地面に、置いた。

「ルナ」

「ん」

「すまない」

「ううん」

ルナは、僕の腕の、もう塞がった傷跡を、小さな指で、なぞった。

「私が、治してあげるね」

「もう、治っている」

「中の、傷だよ」

彼女は、僕の腕に、両手を、当てた。

淡い、白い光が、彼女の手から、僕の腕に、染み込んでいった。

聖職者の、回復魔法。

──傷の、ない、僕の体に。

だが、僕の中で、何かが、ほんの少し、温かく、なった。

ルナの、回復魔法は、肉体の傷だけを、治すんじゃ、ない。

僕は、初めて、それを、理解した。

翌朝、ヴェイルが、僕を、呼んだ。

彼女は、隠れ家の、玄関に、立っていた。

「レイン」

「ヴェイル」

「私は、また、姉のところに、戻る」

僕は、彼女を、見た。

「ヴェイル──」

「最後まで、聞け」

彼女は、いつもの、命令口調で、僕を、制した。

「私の姉の、組織を、内側から、調べる。あの組織が、ガルドを、殺した連中と、関係があるかどうかを、確かめる」

「……」

「もし、関係が、あったら」

ヴェイルの目が、初めて、暗く、光った。

「私が、内側から、潰す」

「ヴェイル」

「ん」

「危険だ」

「知っている」

「お前一人で、行くのか」

「私は、千年、生きている。お前より、一人で、生きてきた時間が、長い」

「ヴェイル──」

「レイン」

彼女は、僕の肩に、手を、置いた。

「お前、最近、自分を、傷つけているだろう」

僕は、答えなかった。

彼女は、僕の腕の、もう跡形もない、傷跡を、撫でた。

──気づかれていた。

「やめろ」

「……」

「お前が、お前自身を、傷つけるのは、ガルドの死を、お前のせいに、しているからだ」

「……ヴェイル」

「違う。ガルドが、死んだのは、ガルドを、殺した連中の、責任だ。お前の、責任じゃ、ない」

「……」

「だから、私が、その連中を、調べる。お前は、ルナと、ノアの、もとに、行け」

僕は、彼女の顔を、見上げた。

──ヴェイルは、僕を、守ろうとしている。

自分が、姉の組織を、調べに行くという、危険を、引き受けることで、僕の心が、これ以上、傷つかないようにしようと、している。

「ヴェイル」

「ん」

「お前が、何かあれば、地図で、分かる」

「ああ」

「お前の光が、弱くなったら、僕は、必ず、迎えに行く」

ヴェイルは、ふっと、笑った。

「それまでは、来るな」

「……分かった」

彼女は、踵を、返した。

そして、一度も、振り返らずに、隠れ家を、出ていった。

──最後の、姿だった。

いや、これは、まだ、最後では、ない。

だが、彼女が、僕に、自分の意思で、別れを、告げた、最後の、瞬間だった。

ヴェイルが消えて、僕とルナは、しばらく、隠れ家に、潜んでいた。

クロードが、新しい情報を、送ってきた。

──レイン。政府の、対異世界対策本部が、設立された。指揮官は、私の、上司だ。

僕は、その短い文章を、何度も、読み返した。

対異世界、対策本部。

──僕たちは、もはや、犯罪者ではなく、国家規模の「対象」になった。

クロードからの、続きの連絡が、来た。

──私は、その本部の、副指揮官に、任命された。

僕の指が、止まった。

「副指揮官」

クロードが、僕たちを、捕らえる側の、責任者になった。

──彼の、計算なのか。

──それとも、これは、彼の、本意なのか。

僕の脳裏に、ガルドの墓の前で、ヴェイルに、平手で、頬を、打たれた瞬間が、よぎった。

そして、クロードの言葉が、響いた。

──堕ちろ。心ゆくまで。

僕は、地図を、握りしめた。

地図の、東京の、ど真ん中に、クロードの、強く、輝く、点が、灯っていた。

──いつでも、来い、と、彼は、言っている。

──いつでも、僕を、捕まえに、来い、と。

僕は、ルナを、見た。

ルナは、僕の様子に、気づいて、こちらを、見上げていた。

「おにいちゃん」

「ルナ」

「ん」

「ノアを、迎えに、行こう」

「……行くの?」

「ヴェイルが、戻ってくるまでに、もう一人、仲間を、増やしておきたい」

ルナは、しばらく、考えて、それから、頷いた。

「うん」

僕は、剣を、握り直した。

──クロード。

お前の、立場で、止められるなら、止めてみろ。

◆ ◆ ◆

── 第十一章 了 ──

次章「賢者の選択」へ続く


ここまで読んでいただきありがとうございます。

レインたちの逃亡を、もう少しだけ見届けていただけると嬉しいです。

次回もお楽しみに。

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