㉕俺と天黎
十数年後。
俺と天黎は山奥に二人でひっそりと暮らしていた。
二人で生きると決めてから、俺は一応大学を出た。
じつは俺のような「長寿」の人間のことを、密かに見守っている者達がいることも知った。
卒業してからは、天黎と一緒に、各地にある「霊場」をまわってみた。
豊かな場所もあれば、そうでない場所も色々……。
優しく迎えてくれる人もいれば、余所者だと警戒する人もいた。
龍神様と繋がっているといわれる「龍神の池」も各地にあって、見つけるたびに天黎は、お花を摘み取ってきては浮かべ「ムギト君は今日も元気です」と、俺の祖霊たちに話しかけている。
穏やかな毎日を過ごしながら、俺たちはやっと定住できる土地を探し当てた。
偶然にも、そこはかつて俺の両親が住んでいた場所だった。
傷んでいるけど住みやすそうな家や、龍神の池が近くにあることが決め手になった。
今、俺は、ここで「農家」としてとても充実した日々を送っている。
「生人くーーーん! お昼の時間だよーー!」
あ……もうそんな時間になったか?
(ああ、確かに腹が減ってきたな……)
スイカ畑の中にいた俺は立ち上がって手を振る。
毎日お昼の時間になると、こうして天黎が報せにやってくる。
今日のご飯はなんだろう? 楽しみだ。
一緒に暮らすようになってから、ずっと俺が家事全般をしているのを悪いと思ったらしく、天黎が料理をするということを覚えた。
あの学校に植えてたミツバをそのまま食って「美味しい」と言ってた時が、嘘のようだ。
長くなった銀髪を揺らしながら、俺のもとにやってくる天黎。
「今日は風が気持ちいいから外でお昼食べない?」
「あ〜……だからクマゴロウさんが、バスケットを咥えてるのか」
「うん。重たいかもしれないからって、持ってくれた」
「そっか、そっか〜」
天黎の後ろにくっついて、このあたりの縄張りを仕切っている野生熊の"クマゴロウさん"が一緒にやってくる。
今では当たり前の光景になったが、数年前に俺が「家でひとりぼっちで寂しくないか?」と天黎にきくと、「お友達がいるから大丈夫!」と言って、たくさんの動物達を紹介してくれたのは記憶に新しい。
(俺がいない隙を見計らって、家に遊びに来てたんだもんなぁ〜)
熊だけじゃなく、山犬の"ヤマさん"や、キツネの"キーくん"や、子鹿の"コバンビちゃん"とかな。名前は勝手に天黎が付けたようだ。そのまんまだけどな。
いっそ動物園とかやればいいんだと思う。
俺は"ヤマゴロウさん"の口からバスケットを受け取った。
「ありがとな。これ、お礼な……」
収穫したばかりのスイカを目の前に置くと、ヤマゴロウさんは嬉しそうに齧り付いた。
「美味しいだろう? 俺の自信作だぞ!」
縄張りのなかに住まわせてもらい、天黎を守ってくれてるかわりに、俺は野菜を献上することにしている。
たくさん育てた野菜は、ちゃんと頼んで出荷してもらっている。
俺の作ったもので、誰かが健康になれたら少しだけど世の中に貢献できると思ったから。
「……ん。お腹いっぱいになったら、眠たくなってきた」
そう言って、俺の肩に頭を預けてくる天黎。
「お昼寝か。いいな。本当に今日もここに吹く風は気持ちいいな……」
俺も天黎に寄り添うように頭を傾ける。
目を閉じた。
畑の隅に植えているミツバのさわさわとした葉擦れが心地よく耳に響いた。
これまで読んでくださった皆様、有難うございました。




