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第十一話 思い出

夏休みが近づいていた。


 教室には浮ついた空気が流れている。


 でも。


 俺だけは、ずっと落ち着かなかった。


「神谷、ぼーっとしすぎ」


 凛が呆れたように言う。


「してねぇよ」


「してる」


 その言い方が、少しだけ他人行儀だった。


 前みたいな遠慮のなさがない。


 距離を測るみたいな話し方。


 それが苦しい。


「そういえばさ」


 凛がスマホを見ながら言った。


「この前の写真、送ろうと思ったんだけど」


「写真?」


「ほら、去年海行ったやつ」


 心臓が跳ねる。


 去年の夏。


 二人で自転車を飛ばして海へ行った。


 夕焼けの中、びしょ濡れになって笑った。


 俺にとっては、大切な記憶だった。


「なんかさ」


 凛が眉を寄せる。


「見返しても、あんまり覚えてないんだよね」


 息が詰まる。


「……そうか」


「ごめん。せっかく行ったのに」


 謝るなよ。


 そう言いかけて、飲み込む。


 悪いのは凛じゃない。


 契約したのは、俺だ。

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