「デデーオー」+「ポップコーン」
その名前を、アーノルドも口にする。
「『道化師王』のエリオットか」
駅前のファッションビルに、『ギブアップ・サーカス』という面白雑貨屋があって、そこの店長をしている男だ。
営業時間中はだいたい、道化師のお面をつけていて、安っぽい王冠を頭の上に乗せている。
「サーカスを廃業して、この店を始めた」
というのが口ぐせの、道化師野郎だ。
エリオットの店が主に扱っているのは、さまざまな「ジョーク商品」や「コスプレ衣装」。
アーノルドたちは以前、エリオットを助けたことがある。『道化師同盟と、運命のポップコーン事件』だ。
あの当時、「ある都市伝説」が町のあちこちで話題になっていた。「道化師の格好をして、映画館のポップコーンを食べると、七日以内に幸運が舞い込んでくる」というものだ。
それで映画館のポップコーンが異様な売れ行きを見せたが、そのあとに事件は待っていた。
町で起こる連続殺人事件。被害者たちはすべて、道化師の格好で殺されていた。
遺体のすぐ近くには、「偽物道化師を処刑した」という、謎めいた一文が残されていた。
当然のように、『道化師王』のエリオットに殺人の容疑がかかる。
また、もしもエリオットが犯人でないとしたら、彼もおそらく「偽物道化師」の一人に違いない。「犯人によって、これから殺される有力候補」の一人になる。
アーノルドたちの捜査は二転三転したものの、最終的にはこの事件を解決した。
「ベイカー、エリオットへの電話を任せていいかい?」
デデーオーがパソコンをカチャカチャやっている。エリオットとは別のことを、何か思いついたらしい。それで今、インターネットで調べているのだろう。
さっそくベイカーが電話をかける。エリオットの携帯電話番号は、『道化師同盟と、運命のポップコーン事件』の時に聞いている。
アーノルドが耳をすませていると、どうやら電話がつながったらしい。
「警察だ。質問したいことがある。捜査に協力するように」
「は?」
エリオットの驚いた声が聞こえてくる。いきなり「警察だ」では、無理もない。
「その声、ベイカーだよな? こいつは何の冗談だ? 捜査に協力しろ? それって、警察署内だけで流行っている、悪質なジョークか? いくら台風だからって、俺様のような善良な市民を、電話でからかっているひまがあったら、事件の捜査をしろよ」
「だから、今捜査をしている。これは本物の聞き取り調査だ」
「ひょっとして、また変な事件が起きて、俺が容疑者にされちゃっているのか?」
「そうじゃない」
「じゃあ、これから殺される最有力候補?」
「答えはノーだ。おまえが先日話していただろ。丘の上の大富豪の三男、あいつが店に来たと。あれについてだ。その時のことを、くわしく聞きたい」
「あ・・・・・・あれね」
エリオットの声に変化が起きた。動揺を隠しきれていない。
ベイカーの目が、アーノルドに聞いてくる。この変化をどう考えるか。
次の瞬間、エリオットが言いわけを始めた。
「俺は悪くないと思う。『道化師王』として、客の要望にこたえただけだ。俺は絶対に悪くない」
ベイカーがため息をつく。
「何があったのか、正直に吐け」
「俺まで罪に問われるなら、全力で『黙秘』する。笑わない時の道化師は、口が堅いぜ」
そう言ったあとで、エリオットもため息をついた。
「でも、あんたには前に助けてもらっているしな・・・・・・」
相手は迷っている。
ベイカーは待った。沈黙でのみ語りかける。
「じゃあ、『司法取引』ってことで、よろしく頼むよ」
「それは内容次第だ。何があったのか、正直に話してくれ」
「わかったよ。こういう物を探している、って三男が言うから、売ってやったんだ」
「何を売ったんだ?」
「警察官のコスプレ衣装」
「は?」




