「チャーリー」+「ペン回し」
「殺人事件も本当。土砂崩れも本当。とりあえず、今のところはだが」
チャーリーがつぶやく。
「ベイカー、現在パトロール中の班に、土砂崩れの件を知らせろ」
「現場の確認に向かってもらうんだな?」
「そうだ」
アーノルドは考える。土砂崩れの規模によって、復旧にかかる時間が変わってくる。おおよその目安を、早めにつかんでおきたい。
「了解」
ベイカーが巡回中のパトカーに連絡をとっている間、デデーオーはパソコンのキーを叩いていた。何か気になることでもあるのだろうか。
チャーリーは片手でペン回しをしながら、天井を見上げている。何かを思い出そうとしている時、チャーリーはよくこうしているのだ。そうやって思い出した情報が、事件の解決につながったこともある。
三人がそれぞれの行動をとっていた。その邪魔をしないよう、アーノルドは三人の誰かに話しかけるのではなく、携帯電話を取る。丘の上の執事にかけてみた。
しかし、駄目だ。圏外だ。
次に、町外れのゴルフ場。こっちもつながらない。
そんなことをしている間に、ベイカーの用事が終わったらしい。
「気のいい連中だ。快く引き受けてくれたよ。今度ドーナツでも差し入れよう」
「それなら、もうすぐピザが届くぞ。そっちはどうだ?」
「いや、ピザはやめておこう。彼らは現在パトロール中だ。戻ってくる頃には、ピザが冷めてしまう」
「そうだな。やめておこう。ピザには食べ時というものがある」
アーノルドはそこで、チャーリーとデデーオーがこちらを見ているのに気づいた。二人の用事も終わったらしい。
「それでは、『推理』を始めよう。丘の上で起きた殺人事件についてだ」
ただし、話し合いの前に言っておきたいことがある。
「三人とも当然心得ていると思うが、捜査の初期段階において本来、『偏った先入観』というのは好ましくない」
しかし、今は特殊な状況だ。丘の上につながる唯一の道が、土砂崩れで断たれてしまっている。今すぐ警察が現場に駆けつけることはできない。
それはつまり、犯人の自由時間が増えるということ。有力な手がかりを犯人が消して回る、そんなことが考えられる。
だからこそ、現場に駆けつけた時、素早い行動が不可欠だ。『初動捜査』は事件解決の糸口。警察官が入り口で転べば、犯人は笑顔で裏口から出ていく。
「それを避けるための『推理』だ。さまざまな可能性を先に検討しておいて、現場での初動に活かす。『どこを最優先に調べるべきか』とかな。時間が経てば経つほど、有力な手がかりを得られる可能性は下がっていく」
アーノルドの言葉に、他の三人がうなずいた。
最初に現場に駆けつける、それが自分たちになるとは限らない。たぶん、その前に「交替の時間」になるだろう。
しかし、自分たちが『推理』した内容を、他の警察官に引き継ぐことはできる。「どこを最優先に調べるべきか」とか。
自ら現場に駆けつけることができなくても、今警察署内でできることはあるのだ。
「それでは、『捜査本部』を立ち上げるぞ」
アーノルドは力強く告げた。
といっても、これは仮の『捜査本部』だ。本物の『捜査本部』の立ち上げは、丘の上への道が復旧し、警察官が現場に駆けつけたあと、事件の詳細がわかってからだろう。
「これより『推理』を開始する。忌憚のない意見を出してくれ」
まずは、「殺人事件に関する情報」の整理だ。
警察署に電話がかかってきたのは、「午後十時十五分」頃だ。
丘の上にある大富豪の屋敷からで、そこのベテラン執事が通報してきた。
――先ほど館の一階で、人が殺されているのを見つけました。
そして、「あなたが『第一発見者』ですね?」というアーノルドの質問に対して、「いいえ、違います。最初に見つけたのは――」というところで、電話が切れてしまった。おそらくだが、電話回線に問題が生じている。それが人為的なものかはわからない。
録音の内容を、もう一度みんなで確認してから、チャーリーがゆっくりとつぶやいた。
「人が殺されている、と言っているな。死んでいる、ではなく」
「被害者の状況が、『自然死』や『事故死』、『自殺』の状況とは違うのか?」
「ベイカー、『自然死』はともかくとして、『事故死』や『自殺』の可能性はまだ排除すべきじゃないぞ」
チャーリーは一呼吸してから、
「『自殺』にも色々ある。『他殺』に見える『自殺』とかな。『事故死』も同様」
その言葉には、なかなかの説得力があった。
「そうだったな。とにかく死体はある、と。で、『第一発見者』は執事ではない」
「そもそも、あの館には現在、誰がいるんだ?」
アーノルドは当然の疑問を口にする。
「電話をかけて確認できれば、楽なんだけどね」
とデデーオー。
「普段から、あの館にいるのは――」
アーノルドは記憶を頼りに、メモ用紙にペンを走らせる。
「こんなところか?」
書き終えたものを他の三人に見せる。
館の主人(大富豪)
執事
メイド
料理人
庭師
運転手




