「アーノルド」+「モーニングコール」
取り調べ室のドアを、ベイカーが閉めた。
これで部屋の中は、三人だけだ。
アーノルドとベイカー、そして、大富豪の三男フェーイット。
ただし、アーノルドは「アーノルド」と名乗らなかった。
三男は宿泊先のホテルで、「アーノルド」という『偽名』を使っている。
本来なら顔面パンチをお見舞いするところだが、ぐっとこらえて、アーノルドは今、「チャーリー」と名乗っている。
ベイカーの方は、そんな事情がないので、「ベイカー」のままだ。
「さて、犯罪者その一、絶望の取り調べ室にようこそ」
アーノルドは告げる。
三男は不満顔だ。
「ここの警察官は、いつから『追いはぎ』になったんだ」
三男の格好は今、蛍光オレンジ色の囚人服だ。
逮捕時に着ていたのは、警察官のコスプレ衣装だった。が、その格好で檻の中に入れたら、万が一脱獄された時に、見分けがつかない可能性がある。警察署内を警察官が歩いているのは、当たり前の光景だ。
それで、留置所に入れる前に、着替えさせたらしい。エリオットの店で売っている偽物ではなく、本物の囚人服だ。
「しかも、さっきのあれは何だよ! 山賊のモーニングコールか!」
チャーリーのイタズラを、根に持っているらしい。
「まだ夜だ。あれはモーニングコールじゃない」
アーノルドは穏やかな声で、先を続ける。
「ちなみに、ここのモーニングコールはもっと過激だ。たまに死人が出るしな。ちょっぴり悲しいことだが、仕方がない。裁判所の手間が省けたと、ポジティブに考えている」
「おいおい、この警察署、クレイジーすぎるだろ! どこの独裁国家だよ!」
「『悪い奴らには、とことん嫌われよう』。それが、この警察署のモットーだ。ちなみに、『男子トイレで便器の蓋を開けたら、中からロケット花火が飛んでくる』こともある。トイレを使う時には、気をつけてくれ。女子トイレの方を使うなよ。あっちは手榴弾だ」
唖然とする三男。
「オーマイガー。あんたら、正気かよ」
「一つ教えてやる。ここの警察官に正気を求めるな。まともな奴なら、すでに辞表を出している。頭のおかしな犯罪者ばかりを、こっちは相手にしているんだ。そいつらをいたぶるのが楽しいから、この仕事をやっている。『押収品』で違法ドラッグも手に入るしな。毎日がハッピーだ」
アーノルドはニヤリとしてから、
「そうそう、おまえも頭のおかしな犯罪者の一人だったな」
「俺は違うぞ。一緒にするな」
「だったら、こっちの質問に包み隠さず答えてくれ。俺は正直者には優しいんだ」
「だったら、弁護士だ。まずは、弁護士を呼んでくれ。それまで黙秘する」
「いいのか? 朝までに釈放されないと、ここのモーニングコールを体験することになるが・・・・・・」
アーノルドはベイカーの方へふり返ると、
「こいつが死ぬのに、二万ドル」
「賭けが成立しないな。俺もこいつは死ぬと思う。五万ドル賭けてもいい」
アーノルドは舌打ちすると、三男の方に顔を戻して、
「えーと、弁護士を呼べだったか? 俺が思うに、弁護士よりも、『神父』か『牧師』を呼んだ方がいい。天国に行ける可能性が、ほんの少しは上がるかもな」
そこで腕時計を見る。
「俺はものすごく忙しい。だから、おまえに付き合ってやれるのは一時間、いや、三〇分だな。一秒でも過ぎたら、取り調べは終了だ。調書には、『死刑が妥当』と書くことにする」
「ふざけんなよ! たかが『食い逃げ』だぞ!」
「そうだったか? 俺は気前がいいから、いくらでも『余罪』をつけてやるよ。このクソ警察署にようこそ、ミスター凶悪犯罪者。最悪な夜を楽しんでいってくれ。残り二十八分」
「は? たった今、三〇分って言ったばかりだろ!」
「二十八秒でもいいんだぞ。秒読み再開、二十七、二十六、二十五――」
「やめてくれ! 話すから! 黙秘はしない! 俺は何を話せばいいんだ?」
「まずは確認だ。丘の上の館、そこの三男で間違いないな?」
「そうだ」




