「チャーリー」+「カマンベール」
夜の十二時を回ったことだし、外は暴風域だ。
新しい情報が入るとしたら、西海岸にいる庭師くらいか。だったら・・・・・・。
「それとも、もう一回ピザを頼んじゃうか? カマンベール♪」
チャーリーが笑顔で言ってくる。
「それは当然、ゴールデン・チャーリーのおごりだよな?」
「は? どこからその発想が出てくるんだ? さっきと同じに決まっているだろ。年長者を大切にしよう」
「あのさ、非常に残念だけど、チャーリー、今回は僕も味方できないよ。ピザの宅配はすでにストップしている。雨も風も強すぎるよ」
「そこは、警察の権力でも使うとして」
「それで届いたピザには、大量のタバスコで呪いの文字? 僕はパース」
「チャーリー、腹がすいているなら、保護した動物用の『ペットフード』でも食っとけ。まだ在庫があったはずだ」
この警察署には、そういう備蓄がある。
「あれを警察官が食うとしたら、本当の非常時だろ。まだそこまで空腹じゃない、と思う」
チャーリーは口を尖らせると、
「あーあ、ひまだなー」
「いいことじゃないか。他の警察官は忙しくても構わないが、俺はひまでいたい」
とアーノルド。
「ひまにも、限度ってものがあるぞ」
チャーリーは席を立つと、
「よし、ちょっと遊んでくる」
「法に触れることはするなよ」
「へいへい。努力はする。俺ができる範囲のな」
スキップで去っていくチャーリー。
アーノルドたち三人は、嫌な予感しかしない。
「どこに行ったんだと思う?」
デデーオーが聞いてきた。
アーノルドが思うに、遠くへは行かないだろう。外は夜だし、暴風域のまっただ中。たぶん署内のどこかだ。
「それよりも、『何をしに行ったのか』が重要だ」
ベイカーの言葉に、アーノルドは考える。
ふと頭に浮かんできたのは、ある単語だった。
「まさか、クワトロフォルマッジ?」
それだと、署内ではなく外になるが・・・・・・。
「無理だよ。この時間に、この台風だよ。さっきも言ったけど、どこも宅配を受けつけていない。いつもは二十四時間営業しているところでも、とっくに店を閉めている。直接買いに行ったとしても、間違いなく門前払いだね」
じゃあ、「どこ」に「何を」しに行ったのか。
「チャーリーの奴、自分の携帯電話を持っていったよな?」
アーノルドの質問に、ベイカーが答える。
「それは、あれじゃないか。庭師からの電話待ち」
つまり、携帯電話を持っていったことは、チャーリーが「どこ」に「何を」しに行ったのかについて、何のヒントにもならない。
今になって、チャーリーを追いかけなかったことを後悔する。
問題を起こした場合、その後始末は、一人でやって欲しい。が、それをチャーリーに期待するのは、「ハンバーガーショップに行って、ピロシキが置いてある」のを期待するようなもの。
「チャーリーがそれなりに有能なのは認めるけどさ。僕としては、あれの代わりに、女の子の後輩が欲しい気分」
「悪くないアイデアだ。他の班にこっそり、トレードを打診してみよう」
実は前に、アーノルドはそれを試したことがある。
話を持ちかけた班のほとんどが、「トレード要員がベイカーなら、本気で検討する」と返してきた。冗談を言っている顔ではなかった。
そんなことを思い出しながら、アーノルドはぼやく。
「チャーリーの奴、今どこで何をしているんだか」
「とりあえず、非常ベルはまだ鳴っていないね」
チャーリーは前に、署内の非常ベルを「ピンポンダッシュ」して回ったことがある。
「つまり、それ以上を覚悟しろってことだ」
以前、『男子トイレで便器の蓋を開けたら、中からロケット花火が飛んでくる』という事件が、この警察署内で起きた。
たぶん、あれもチャーリーの仕業だ。しかし、証拠不十分で逮捕できなかった。
「チャーリーのひまつぶしは、レパートリーが豊富だからね」
「戻ってきたら、朝まで留置所に放り込むか?」
そんなベイカーのアイデアに対して、
「そいつはいいな。チャーリーが戻ってきたら、多数決しよう」
そう言うとアーノルドは、大げさな身ぶり手ぶりを交えて、
「おお神よ、奴の性格が変わるくらいの素敵な天罰を、あのアライグマ爺にウェルカム!」
その直後だ。
窓の外で大きな雷が鳴った。
そして、チャーリーが急ぎ足で戻ってくる。
「今回は異様に早いな」
「大変だぞ!」
チャーリーが叫んだ。
しかし、その顔はどう見ても、笑いをこらえている。
アーノルドは二人に目配せした。
――良からぬことを、奴は企んでいるに違いない。注意せよ。
チャーリーが三人のところまでやって来る。
「見つけたんだよ!」
「何をだ? 等身大の『自由の女神』が、この警察署内をうろついていたのか?」
「それと同じくらい、すごいやつだ! あの三男がいたぞ! この警察署の留置所に!」
アーノルド、ベイカー、デデーオーは沈黙する。
――これって、嘘をついているんだよな?
そういう空気が、三人の間に流れる。
やはり、チャーリーを朝まで、留置所に放り込んでおくか。
「ベイカー、この容疑者を確保する。協力してくれ」
「わかった。『俺たち侮辱罪』だな」
「『キャベツ頭罪』も追加する」
二人が立ち上がろうとすると、
「これが証拠だ♪」
チャーリーが勝ち誇った顔で、自分の携帯電話を見せてくる。
留置所の画像だ。
「おいおい、まじかよ」
あの三男がいる。檻の中だ。
「本当みたいだね。ぱっと見た感じだと、画像の加工はないみたいだ」
チャーリーの浅知恵や機械スキルで、『電脳不眠者』の目をごまかせるとは思えない。この画像は本物なのだろう。
丘の上の館で起きた殺人事件、その『重要参考人』は署内にいた!




