「アーノルド」+「適材適所」
アーノルドの頭の中では、人の形をした影がいくつか並んでいた。
その影が一つずつ順番に倒れていく。
そんなイメージが浮かんできた。倒れた影は「体のどこか一部」が、血の色に染まっている。
現場に行くことができない歯がゆさ。
だが、それを隠して、アーノルドは他の三人に言う。
「あの執事は優秀だ。彼を信じよう」
今はそうするしかない。そうするしかないのだ。
しばらく沈黙が続いたあとで、チャーリーが口を開いた。
「明日になる。雨が上がる。警察が来る。その時、犯人がどういう行動に出るか、そっちを考えようぜ」
他の三人はうなずく。それも考えておかなければならない。初動捜査の時に、「誰が犯人か」を素早く看破。そのまま逮捕できれば、事件は一気に解決だ。
現場に警察が駆けつけた時、犯人がとるであろう選択肢は二つ。
その場に留まるか。その場から逃げるか。
まれに犯人以外の者が、逃げるケースもある。
なので、逃げただけでは、「犯人」だと断定できない。
が、アーノルドの経験上、逃げた者が「犯人」である可能性は、かなり高い。
一方で、犯人がその場に留まる場合は、警察官が捜査している中で、「疑われないような態度」をとり続けなければならない。
普通は「ぼろ」が出る。
特に、アーノルドたち四人は、そういうのを見つけるのが得意だ。
「俺たちの誰か一人は、警察が丘の上の館へ最初に行く時、同行した方がいいかもしれないな」
そんな意見を、アーノルドは言ってみる。
もしも丘の上に行くのが明日の午前中なら、その一人は長時間勤務になってしまう。が、事件解決のためには、そうすべきだろう。
損な役回りだと思うので、アーノルドは自分が引き受けるつもりだったが、
「俺が同行しよう」
「僕が同行しようか」
ほとんど同時に、ベイカーとデデーオーが言う。
ベイカーはともかくとして、デデーオーが自ら、こういう役に立候補するのは珍しい。
「いやぁ、館にいるメイドの二人が気になるから」
「おい、デデーオーよ。そのメイドちゃん二人のどちらか、あるいは両方が、『凶悪極悪最悪連続快楽殺人鬼』だったら、どうするんだ?」
チャーリーが突っ込むと、
「もちろん逮捕して、尋問漬けだよ。悪い子には容赦しない。僕の本気を見せちゃおう」
鼻息を荒くするデデーオーに対して、アーノルドは言う。
「駄目だ。その場合は、尋問はチャーリーに任せる」
「えー、なんでー。先に僕が予約したんで、割り込みはお断りなんだけど」
「適材適所だ」
きっぱり告げると、デデーオーはあっさり抵抗を断念した。
「チャーリー、変なことはしないようにね」
「さーて、どうかな。『ドキドキ尋問ショー! 取り調べ室からのライブ配信!』くらいはするかもしれん」
「そのアイデア、大富豪の三男に教えたら喜びそうだね。お笑いのネタとして、使えそうじゃない?」
「だな。だから、ここだけの秘密だ。奴に会っても、絶対に言うなよ」
チャーリーとデデーオーのやり取りを聞きながら、アーノルドは考える。
警察が丘の上の館に行くのは、土砂崩れの復旧作業が終わってからだ。
それが、いつになるのかはわからない。
早ければ、明日の午前中だろうか。しかし、復旧に時間がかかるようなら、明後日以降ということもあり得る。
(もしも、丘の上への道が、明日の午前中に復旧するなら・・・・・・)
本人の希望もあるし、ベイカーとデデーオーに行ってもらうか。
メイドが犯人だと決まったわけじゃないし、たとえそうだったとしても、尋問するのは逮捕したあとだ。最初からチャーリーが行く必要はない。
一方で、丘の上への道が午後以降に復旧する場合だ。
その時はアーノルドが同行する。もしも、深夜以降になるなら、同行するのはチャーリーだ。
そんなシフトを、頭の中で簡単に組んでみる。とにかく、警察が丘の上の館へ最初に行く時、自分たち四人の誰かが同行すべきだ。
アーノルドはシフトのことを、他の三人に話した。
「そういうわけで、ベイカーとデデーオー。場合によっては、明日の午前中まで、残業になる可能性がある。どこか適当なタイミングで、仮眠をとってくれ」




