「アーノルド」+「密室」
そこでベイカーが、
「デデーオー、録音した執事の電話内容から、何か周囲の音を拾うことはできないか?」
「わかった、やってみる。三人とも話していていいよ。録音内容に含まれている音、その波形を機械で分析するだけだから。僕が直接耳で聞くわけじゃない。騒いでいていいよ」
そこで突然、携帯電話が鳴る。
チャーリーの携帯電話だ。
「お♪ やっとかかってきたか」
ベイカーとデデーオーに軽くウインクしてから、携帯電話を耳に当てるチャーリー。
ところが、その直後だ。
「いきなり切れたんだが・・・・・・」
そう言ってチャーリーは、フーと息を吐くと、アーノルドの方を見て、
「お・そ・ろ・い♪」
執事の電話が途中で切れた、あれと同じだと言いたいらしい。
「日頃の行いのせいじゃないのか?」
とアーノルド。
「俺は『庭師が電話代を心配した』のだと思う」
チャーリーはベイカーの意見に乗った。すぐさま庭師に電話をする。その結果は――
「電源を切っているな」
チャーリーのことだ。アーノルドとベイカーは最初、冗談を言っているのだと思った。
しかし、本当らしい。
「どういうことだ?」
「俺の方こそ知りたいよ」
チャーリーは庭師にかけ直すが、結果は同じだ。
さらに固定電話でも試すが、以下同文。
そのあとチャーリーはちらりと、デデーオーの方を見る。
まだ録音内容の分析中だ。
なので、チャーリーは自分のパソコンをカッチャカッチャし始める。
少し手間取っていたものの、知りたい情報にたどり着いたようで、
「庭師がいるのは、たしかに西海岸だ」
さっきの着信から、経由した基地局を調べたらしい。
「その庭師、電話をかけた直後にたまたま、緊急の用事でも入ったんじゃないのか?」
「それだ!」
今度もチャーリーは、ベイカーの意見に乗った。
「その用事が終わったら、またかけてくると思うぞ。気楽に待とう」
「そうだな。デデーオーの方も作業が終わったみたいだし」
アーノルドが言うと、さっそくデデーオーが発言した。
「執事からの電話を分析した結果、たぶん周囲に何人かいる。これは呼吸音じゃないかな」
「正確に何人いるのか、わかるか?」
「そこまでは。そういう方面の専門家じゃないと。呼吸音には個人差があるから、比較的大きいやつを機械が拾ったんだと思う」
その何人かは、執事から少し離れた場所に集まっているらしい。
「よくやった、デデーオー」
やはり、執事は電話をする前に、あの館にいる者たちと相談したようだ。
その中にはおそらく、犯人が混ざっている。
もしくは、犯人は屋敷のどこかに潜んでいる。
(警察が現場に駆けつけた時、あの館にいる者たちは、ほとんど全滅していたりして・・・・・・)
外は暴風域だ。それに、丘の下に逃げようとしても、その道は土砂崩れでふさがれている。
要するに、あの館も含めて丘の上は今、
(巨大な『密室』だな)
そんなことを考えてから、アーノルドは他の三人に質問してみる。
「この事件、『連続殺人』になると思うか?」
最初の返事は、三人とも沈黙だった。
そのあとでベイカーがつぶやく。
「犯人次第だが・・・・・・」
そう。犯人次第だ。
すでに一人を殺しているが、「誰が犯人なのか」は、まだ周囲にばれていない。
だが、「真実に気づきそうな者がいる」と感じた時、犯人はどうするだろうか。
こっそり口封じをする。そんな展開があるかもしれない。
また、犯人以外の者たちにとって、「自分以外の誰かが殺人犯(屋敷のどこかに潜んでいる可能性もある)」という状況は、極度の緊張を強いる。
だから、それぞれが考えるに違いない。
誰が「犯人」なのか。
そして、「絶対に犯人じゃない者」は誰か。
疑心暗鬼が屋敷内に渦巻く。
しかし、警察は今、何もできないのだ。丘の上の館で「第二の殺人」が起きても、どうしようもない。さらには「第三の殺人」、最悪の場合は「そして誰もいなくなった」。




