「ベイカー」+「ブラボー」
「わかった。ありがとう。本当に助かったよ」
ベイカーが電話を切る。
と同時に、アーノルドたち三人は拍手をした。
「ブラボー。さすが、ベイカー」
「俺は別に何もやっていない」
今の電話は、ベイカーがホテルにかけていたのではない。
ある女性からベイカーへの電話だ。
どうして、こんなことになっているのか。それについては、この十五分前にさかのぼる。
十五分前、ベイカーが知人の女性に電話をして、事情を説明した。事前に書いていたメモは、その説明の下書きだ。
そのあと彼女が、ベイカーに指示された通りに、ホテルに電話をかけて、『聞き込み活動』を代行したのだ。
そのホテルに泊まっているらしい『アーノルド』という男が、自分の店で『食い逃げ』していったので、明日にでも金を回収しに行く。そういう設定だ。
そんな男が本当に泊まっているのか。また、その男の特徴が、三男と一致するのか。さりげなく質問してもらった。
で、その成果が今の電話である。
ベイカーは他の三人を見ると、
「ニセ『アーノルド』は、三男で決まりだ。髪の色や目の色など、特徴が一致。さらに、エリオットの店の袋を持っていたことを、受付係が見ている」
「よくやった、ベイカー」
「ああいうホテルには、警察の身分証をちらつかせるよりも、こっちの方が話が早いな。上出来、上出来」
「おかげで、三男の評判はまた下がっちゃったけどね。自分の故郷で『食い逃げ』だ♪」
ベイカーの報告から導き出した結論。アーノルドはそれを口に出してみる。
「じゃあ、丘の上の館に、三男はいないのか」
そのことがわかったのは、非常に大きい。三男が館にいるのと、いないのとでは、『推理』の内容が大きく変わってくる。
「いや、それなんだが」
眉間に皺を寄せるベイカー。
「三男は今夜、まだホテルに戻ってきていないらしい」
「どういうことだ?」
思わずそう言ってから、アーノルドは素早く考える。次の質問を決めた。
「三男がホテルを最後に出た時間は、聞き出せたのか?」
「もちろんだ。受付係が三男と最後に会話したのは今朝。午前八時だ。今夜は帰らない、とは言ってなかったらしい」
要するに、三男は現在、行方をくらませている。その居場所はわからない。
(また振り出しか)
ため息をつくアーノルドの横で、
「じゃあ、丘の上の死体、三男で決まりかもな」
「普通はそう考えるよね。でなきゃ、この台風だし、ホテルに戻っていると思う」
チャーリーもデデーオーも、本気で言っているわけではないようだ。しかし、「死体=三男」の可能性は十分にあり得る。
「ベイカー、他に情報は?」
「特にないな。これ以上のことを知りたければ、直接ホテルに行くしかないだろう」
「外は雨だね。僕はパース」
「風も強いぞ。俺もパース」
デデーオーとチャーリーが留守番を志願する。
アーノルドは再びため息をつくと、
(さて、どうするか?)
パトロール中の連中は、まだ戻ってきていない。土砂崩れの時と同様、彼らにホテルを調べてきてもらうか?
しかし、それで本当に、三男の居場所がわかるだろうか?
三男が仮に、今日は丘の上の館に行っているとして、そのことを裏付ける証拠が、ホテルの部屋にあるだろうか?
疑問が連続してわいてくる。
正直言って、三男の行動は場当たり的なようだ。思いつきで行動することが多い、そんな気がする。今すぐホテルを調べても、徒労に終わる可能性が高い。
だったら、そっちに人手や時間を使うのではなく、
「ここで『推理』を続けよう」
ただし、先に多数決をとる。
他の三人に、「今すぐホテルを調べるべきか」を聞いてみた。
現時点では、「そこまで重要ではない」が二票。
少し遅れてベイカーも、アーノルドたち三人の考えに同意した。これで満場一致だ。
「それでは『推理』を再開する」




