「アーノルド」+「クズ」
アーノルドが電話を終えると、さっそくチャーリーが尋ねてくる。
「どうだった?」
「三男がクズだということは、よくわかった」
「そいつは既知の情報だな」
「まったくだ」
元マネージャーによると、三男の居場所はわからないという。
「最後に会った日時や場所は聞いたか?」
「三男が事務所を解雇されて以降は、直接会っていないそうだ」
ただし、こういう話を聞いた。
「一週間前、事務所近くの高級ステーキ店に呼び出されたらしい。元マネージャーが現場に駆けつけてみると、三男の姿はなく、空っぽの皿と伝票が置いてあったそうだ」
ベイカーとデデーオーが呆れた顔で、
「なるほど。三男がクズだということは、よくわかった」
「本当に『食い逃げ』をしていたとはね。それにしても、高級ステーキ店はやり過ぎだよ。宅配ピザ屋くらいにしておけばいいのに。人間、謙虚さが大事だよ」
「まったくだ」
そう言ったあとで、アーノルドは情報を追加する。元マネージャーからは、こんな話も聞いた。
「三男は他の芸能事務所に入りたがっているようだ。が、当然のごとく、これは『ある種の嫌がらせ』じゃないかと、業界内で問題視されているらしい」
「『ババ抜き』というわけだな。ただし、ジョーカーの方から勝手にやって来る」
「その通りだ。しかし、喜べ、チャーリー。ほとんどの芸能事務所は拒否する気でいるぞ」
「そいつは残念だ。全米すべての芸能事務所じゃないんだな」
「この欲張りさんめ。だが、安心しろ。三男を拒否しない事務所でも、今の芸風『推理小説あるある』では、さすがに無理だと考えているらしい」
「それで、三男は芸風を変更することにしたのか」
ベイカーがつぶやくと、自然と四人の視線が一か所に集まる。『道化師王』から届いた販売リストだ。三男が何を買っていったのか。
警察官のコスプレ衣装(帽子、上着、ベルト、ズボン、バッジ)
おもちゃの警棒
おもちゃの手錠(鍵つき)
ミニカー(パトカー仕様)
ゾンビのマスク
囚人服
バニーガールの衣装
毒薬の瓶(中身は砂糖菓子)
このリストから考えるに、どういう芸風にするのか、三男はまだ模索中のようだ。警察官に、ゾンビに、囚人に、バニーガール。
とはいえ、次の芸風として一番ありそうなのは、『警察官あるある』だろう。
それをアーノルドが口にすると、チャーリーがきっぱり言う。
「こいつは死刑だな。『警察官侮辱罪』で」
「異議なし」
「異議なし」
ベイカーとデデーオーが続く。
アーノルドもだいたい同意見だ。死刑にする前に、拷問の一つか二つを、サプライズでプレゼントしてあげたい。
「で、三男は『来週の金曜日』に、どこかの芸能事務所の『実技面接』を受けることになっているそうだ。そんな噂が業界内に流れているらしい」
その芸能事務所は、三つにしぼられている。
三つの事務所の名前を挙げてから、
「と、まあ、かなり具体的な内容だが、あくまでも噂だ」
つまり、間違っている可能性もある。が、そうじゃない可能性もある。
少しの間、四人は黙って思考に集中した。三男についての噂を、それぞれのやり方で検討する。
三分ほど経ってから、チャーリーがペン回しをやめた。
「こいつは俺の勘だが、信じていい噂だと思うぞ。そういう『におい』がする」
本当に『におい』で判断しているわけではないだろうが、こういう時の『金色混沌』の勘は、ある程度信用していい。これまでもそれで、いくつもの事件を解決している。
「つまり、三男は『来週金曜日』に『実技面接』があって、その時までに芸風を変更したいのか」
と『北欧の処刑人』。
「最も可能性が高そうなのは、さっきリーダーが言ったように、『警察官あるある』かな。それよりも可能性は落ちるけど、『ゾンビあるある』、『囚人あるある』、『バニーガールあるある』も候補になるね。どれだろう?」
と『電脳不眠者』。
各自の意見を出し合う。
「三男は今、金がないんだろ。だったら、やはり丘の上の館にいるんじゃないのか?」
「丘の上の館じゃなければ、安めのホテルとか」
「この町にあるホテルの『宿泊者記録』を、もう一度あたってみるけど、三男が泊まっているとしても、たぶん『偽名』だよね」
「おとといから滞在している、その条件でしぼることはできないか?」
「やってみる」
デデーオーがパソコンのキーをしばらく叩いたあとで、
「ざっくり調べたけれど、条件に当てはまるのが三件あるね。たぶん、これかな。チェックインしたのは、おとといの夕方だ。来週の水曜日までの分を、前払いしている。それに、これは『偽名』みたいだ」
「どんな『偽名』を使っているんだ?」
「『アーノルド』♪」
デデーオーがパソコンの画面を見せてくる。
本当だ。『宿泊者記録』には、『アーノルド』とある。
「おいおい、あのクソ三男。『チャーリー』にでもしとけよ。そっちの方がお似合いだろうが」
「ちっ、ちっ、ちっ、ちっ。そいつは無理だな。『チャーリー』という崇高な名前を使いこなすには、結構なコツがいる」
「だったら、そのコツを今度教えてくれ。やばめの『新興宗教団体』に潜入捜査する時にでも、『偽名』で使わせてもらう」
とりあえず、この『アーノルド』が「本当に三男なのか」を確かめなければ。
外は暴風域だ。パトカーで現地に乗りつける前に、ニセ『アーノルド』の正体をつかんでおきたい。
その方法について意見を募ると、
「『ベイカーに任せる』に一票」
「『ベイカーに任せる』に一票」
チャーリーとデデーオーが言う。
アーノルドもそれに乗っかることにした。
「『ベイカーに任せる』に一票」
そのあと三人で目をキラキラさせながら、『北欧の処刑人』を見る。
「・・・・・・わかった。だから、その目はやめてくれ」
ベイカーがメモ用紙に、ペンを走らせ始めた。




