「アーノルド」+「監視」
行方不明の三男が、丘の上の館にいるのか、否か。
これは『推理』に与える影響が大きい。
「なので、二つのケースを考えたいと思う」
三男が丘の館にいるケースと、そうでないケースだ。
まずは前者から。
その場合、「事件当時、丘の上の屋敷にいる者たちの一覧」は、次のようになる。
館の主人(大富豪)
執事
メイド(金髪)
メイド(黒髪)
料理人
運転手
三男
普段だったら、ここに「庭師」も加わるのだが、今日は親戚の結婚式だ。丘の上の館には不在。
そして、庭師からの電話はまだだ。
なので、それを当てにはしない。『推理』を進めることにする。
「ベイカー、チャーリー、デデーオー、警察官としての勘で答えてくれ。丘の上の館で殺された『被害者』は、この一覧の誰か。誰が一番ありそうなのか」
四人の意見を統合すると、最も可能性がありそうなのは、「館の主人(大富豪)」か「三男」だった。
逆に、絶対に被害者でないのは、「執事」だ。本人が電話してきたのだから、当然だろう。
「では、次の質問だ。被害者を殺害した『犯人』は、この一覧の誰か。誰が一番ありそうなのか」
今度の一番人気は、やはり「三男」だった。
「こういう状況だと、異分子はトラブルの原因になりやすいものだ」
ベイカーの指摘は正しい。
しかも、その異分子が、あの館の関係者だ。メイドとは初対面の可能性もあるが、他の者たちは確実に三男を知っている。
殺人事件や誘拐事件は、知り合いの犯行であることが多いのだ。今回もそれが当てはまるかもしれない。
「三男は被害者なのか、犯人なのか」
チャーリーがつぶやくと、
「両方だったりしてね。被害者であり、犯人でもある。でも、それだと、『自殺』になっちゃうのか」
とデデーオー。
アーノルドは思い出す。
執事は電話で、「人が殺されている」と言っていた。
少なくとも、その死体の状況が、即座に『自殺』と判断できるものではないのだろう。
「電話してきたのは執事。しかし、死体の『第一発見者』は執事ではない」
ベイカーが言う。
そのあとすぐに、
「この中だと、誰が『第一発見者』でも、警察に通報するのは、執事になるよな?」
「だな」
アーノルドは答える。
あの館で起きた事件だ。それに対処するのは、執事が一番の適任。あの館にいる者たちも、そう考えるに違いない。
(待てよ)
アーノルドは気づく。
「執事は電話をする前に、あの館にいる者たちと、今後の対応について、話し合ったんじゃないのか?」
あの執事の性格からして、死体が見つかった時点で、「他の者たちに知らせよう」とするはず。
で、皆で話し合った結果、「執事が警察に通報する」と決まった。おそらく、そんな感じだろう。
アーノルドの発言を聞いて、ベイカー、チャーリー、デデーオーが順番に、自分の意見を述べていく。
「話し合いか。普通はそうするな。で、電話が途中で切れたことには、向こうも気づいているはず」
「そのあとにどうするかだ。外部と連絡をとろうとするだろうが、この台風ときている。早々にあきらめちまうかもな」
「連絡をあきらめたあとが重要だよ。普通に考えれば、館にいる自分たちの中に『犯人』が混ざっているわけで・・・・・・」
いったん黙って、四人は考える。
丘の上の館にいる者たちは現在、どうしているのか。
自分たちの中に犯人が混ざっている。もしくは、犯人が屋敷のどこかに潜んでいる。
そんな状況で、適切な対応ができているだろうか。
「推理小説だと、全員で同じ部屋にいて、相互に監視するのが、定番の一つだが」
アーノルドはつぶやく。
そうやって、犯人が動きにくい状況をつくるのだ。
しかし、「それぞれ監視し合う」というのは、かなりのストレスになる。
しかも、人はトイレに行くのだ。全員が常に一緒にいるのは、不可能だろう。
だから、その状態が崩れる時が必ず来る。
「『自分の部屋に籠城する』と言い出す奴が出るかもな。こっちも推理小説の定番だぞ」
「すでに、そうなっているかもね」
チャーリーとデデーオーの指摘はもっともだ。
しかし今、自分たち警察が、丘の上に駆けつけることはできない。本当にすまん。
できることと言えば、ここで『推理』を続けることだ。




