第3話 妹を泣かせないために
ロザリーの返事は、朝のうちに届いていた。
客間は空いている。まず来てほしい。賃料は実際に部屋を見てから相談しよう。最後に、食べられそうなものがあれば使いに伝えて、と書いてあった。
私は温かいスープがいいと頼んだ。何も喉を通らない気がしていたのに、書いているうちに、少しだけ飲みたくなった。
午後、旅鞄を玄関へ運ぶと、父と妹が追ってきた。ディディエは、伯爵に連れられて先に帰っている。
「どこへ行くつもりだ。あれだけ場を荒らして、家のことは放り出すのか」
「ロザリーのところです。お部屋を借りて、その先は自分で決めます」
父は私の鞄を見た。思っていたよりも少ない荷物だったのか、少し口をつぐむ。
「今出ていくなら、勝手に戻ってこられると思うな。父親にあのような口を利いて、謝りもせずに」
足が止まった。子供の頃から、父に嫌われるのが怖かった。母までいなくなってからは、なおさらだった。
ここでごめんなさいと言えば、父はまだ許してくれるかもしれない。
私は鞄の持ち手を握り直した。
「私が傷ついたと言ったことを、謝るつもりはありません」
父の目が細くなった。
「ミレーヌのことはどうする。姉のお前が出ていけば、なおさら不仲を疑われるだろう」
「疑われるのが嫌なら、私がつらかった時に、一度くらい味方をしてほしかったです」
言ったあとで、胸の奥がひどく寂しくなった。
父の顔を見たくなくなったけれど、最後まで見ていた。父は私の目ではなく、後ろに控える使用人たちを見た。ここでは話すなと、その視線が言っていた。
いつか、私のことだけを考えてくれる。その期待も、置いていこうと思った。
「お姉様。せめて、ディディエ様のお父様にもう一度お手紙を書いて。私、東の館に住めなくなるなんて……」
ミレーヌは途中で言葉を止めた。私の顔を見て、頼み方を間違えたと気づいたのだろう。
「私たち、喧嘩したままなんて嫌でしょう。お姉様までいなくなったら、私、誰に相談すればいいの」
妹の目から涙が落ちた。
その頬を拭こうとした自分の手に気づき、私は鞄へ戻した。昨日の私は、手巾すら持っていなかった。あの時、この子はディディエの腕の中にいた。
「妹を泣かせないために、私が泣くのは終わりです」
ミレーヌの涙は止まらなかった。私の目も熱くなった。
それでも、代わりに何かしてやるとは言わなかった。
「今度は、自分で相談して。あなたが一緒に生きたいと選んだ人と」
玄関の外には、私が借りた馬車が待っていた。
御者に鞄を預け、乗り込む。父が私の名を呼んだ。次に何を命じるのか、聞き終えるまで待つ癖がついていたけれど、今日は御者へ出発を頼んだ。
門を抜ける時、私は窓から家を見た。妹は父の袖を掴んでいた。父はその手を持て余したまま、遠ざかる馬車を見ていた。
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