第23話 返事の届く日
最初の手紙は、封の端が少し擦れていた。ようやく届いたと思ったのに、開いて日付を見ると、彼が書いた日からもう何日も過ぎている。
無事に着いたこと。仕事に使う部屋のこと。こちらから持っていった図面を広げる場所が足りなかったこと。アドリアンの字は後ろへ行くほど小さくなり、紙の端まで仕事の話が続いていた。
最後に、私の暮らしは落ち着いたかと尋ねてあった。体を冷やさないように、とも書いてある。嬉しくないわけではなかった。けれど、最初からもう一度読んで、私に会いたいという言葉を探した。
なくて、手紙を膝へ置いた。私は毎朝、起きた途端に会いたくなるのに。
返事の書き出しは、元気です、にした。教室へも行っています、と続けてみたが、あまりに何も伝わらないので、筆を止めた。これを読んだ彼は、私が元気でいると思うだろう。それだけを知らせたいわけではなかった。
下書きを破って、白い紙を出した。届いた手紙の方は、折れないよう机の端へよけた。
朝のお茶を淹れる時、まだ二つ出しそうになること。大皿を洗っていると、同じ縁を持った指を思い出すこと。通りで背の似た人を見ると、来るはずがないと知っていても顔を確かめてしまうこと。
そこまで書いてから、私は頬を拭いた。
「会いたいわ。あなたの声を聞きたいです」
文字にすると、何だか改まって見えた。けれど消さず、その下に、仕事の様子ももっと聞かせてほしいと書いた。私の知らない話が嫌なのではない。あの人のいるところを知りたかった。
封をして出した翌朝、返事があるはずもないのに、廊下へ目をやった。手紙には行きも帰りも日数がかかる。私が昨日書いた寂しさを、彼はまだ知らない。
その間に窓の掛け布を洗い、乾くまで部屋へ差す光が眩しかった。教室の日には、粘土をこねながら今日こそ届くかと考えたけれど、途中から曲がった縁を直すことに夢中になった。
帰っても、手紙はまだなかった。汚れた袖を洗ってから、私は夕飯の支度をした。
次の便りが届いたのは、最初の返事を出してから何日も経った夕方だった。今度は一枚だけで、余白も広かった。
「菓子の店で林檎のものを見つけた。君がいたら、酸っぱさを確かめてから買っただろうと思った。結局、僕が一つ食べた。たぶん君は、もっと酸っぱい方が好きだ」
声に出して読んで、笑ってしまった。どうして二つ買わなかったのと話しかけそうになり、その相手がいないので、もう一度同じ行を読んだ。
仕事で思うように描けなかった日のことも、短く書かれていた。何度も引き直して、夕飯を食べる時まで右手が疲れていたらしい。
「そういう晩は、君が今日何をしていたか聞きたい。僕も会いたい」
紙を持つ指が、最後の一行で止まった。欲しくて探した言葉だった。彼の声で聞きたくて、目を閉じたら、それに近い響きを思い出せた。
机へ置いても、片づけられなかった。夕飯のあと、私は短い返事を書いた。教室で作っているものの縁がまた歪んだことと、今日は疲れたので続きは今度にすること。会いたい、という言葉はそのまま最後に添えた。
便りが短い日も、何枚も届く日もあった。返したばかりなのに別の手紙が来て、話が前後することもある。返事の遅れを数える代わりに、彼が書いた日付を見て、その日を想像するようになった。
会う日の変更が必要なら、ほかの話をまとめるのを待たずに知らせる。そのことは、二人とも手紙で確かめた。
* * *
ロザリーの水差しが焼き上がった日、私は工房で拍手をしてしまった。小さな取っ手へ彼女が指を通し、持ち上げる。その顔があまりに得意げだったからだ。
「今度は、ちゃんと注げるのよ」
「取っ手だけ、先に来たりしない?」
「しないわ。見ていらっしゃい」
主人に水を入れてもらい、彼女は器へ注いだ。取っ手は無事だったが、最後の一滴が台へ落ちた。私が笑うと、ロザリーは、これは取っ手のせいではないと言った。
帰りに菓子を買い、私の部屋で大皿に並べた。二人で食べているうちに、教室で失敗した形の話になった。どうしても同じ方へ曲がるので、今度は反対側に座ってみようという案まで出て、茶が冷めるほど話した。
彼女が帰ったあと、私は旅用の小袋を出した。家賃と食費を確かめ、都の宿に使える分をもう一度数える。何日も長くは泊まれないが、前に考えた短い訪問なら無理なく行けた。
彼がこちらへ来る三週間後に、三泊で都を訪ねたい。候補の日付を手紙に書いて、仕事の都合を尋ねた。教室に行く日も、戻ってからの用事も、暦にはそのまま残した。
六週間目に入って、帰郷する馬車が決まったと知らせが届いた。到着は午前十時。先に現場の確認を済ませ、夕方六時には私の部屋へ来られるという。
私は手紙を卓に置いて、暦の日を指で押さえた。あと何日という数が、ようやく片手で足りた。
迎えに行くと返事を出した。再会の前の晩、服を出した。青灰色の服の白い襟に皺があって、指で伸ばしてから、別の服も寝台に並べる。会えなかった間に背が伸びたわけでもないのに、何を着たらいいか分からなかった。
声を聞くのも、あの手に触るのも、六週間ぶりになる。
こんなに寂しかったのよ、と言ってやりたかった。手紙には何度も書いた。それでも、顔を見て言いたかった。言ったら彼は困るだろうかと考え、それより先に自分が泣く気がして、私は一人で笑った。
選んだ服を椅子へ掛け、手巾を鞄に入れた。明日の朝は、手紙の届く音を待たずに家を出る。
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