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古鷹の桜〜江田島海軍兵学校青春物語〜  作者: 佐久間五十六


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地獄のカッター訓練

カッターとは一度に20人程乗れる木造短艇の事で、簡単に言えば手漕ぎボートである。大型艦艇では緊急脱出用にカッターを常備していた。完全に人力の為、木製のオールでこれを漕ぐのだが、これがきつい。海軍兵学校ではまずはカッター訓練から教育が始まるのが伝統となっていた。


「オラオラどうした?戦場でも手を止めたら死ぬぞ!」

教官である先輩兵士は涼しい顔をして一年生を煽る。見ている教官はあろうことかタバコを吸い始めた。

「クソ、舐めやがって!英一郎根性見せろ!こんな所で音を上げてたら士官になんかなれないぞ?」

「分かってるよ。けどこれキツイ…。」


「よーし。そこまで。カッター訓練は毎日やるからそのうちなれる。体力の盛りになる貴様らにはとことん身体を鍛えてもらう。」


「こ、これを毎日!?落後者もでますよね?」

「馬鹿だな。英一郎?わざと煽ってんだよ。気にすんな。」

「体力では磯太郎や本間には敵わないぜ。」

「さぁ、グズグズしてると夕飯食いそびれるぜ?急いで片付けよう。」

「重た!カッターって思ったより重いね。」

「おい磯太郎!英一郎!風呂入って飯食うぞ!ダラダラやるな。」

「そう言う本間も結構バテてんじゃん。」

「しょうがないだろ?オールの漕ぎ方なんかやった事ねーんだからさ。」

「それにしても教官のあの変わり具合は異常だぜ?」

「確かにな。俺達が必死でカッター訓練してるのに、タバコ吸ってたんだぜ?」

「そんな事気にしてたら、この先やってけないよ?」

「君名前は?」

「山本善雄だ。君達があまりにもトロいから見るに見かねてね。助言してあげたのさ。」


山本善雄は城英一郎と同じく太平洋戦争で活躍する事になる磯太郎や本間の同期であった。辛口であまり人付き合いは得意な方ではないが、後には大化けするがそれはまだ先の話であった。


「第一次世界大戦が終わったってのに、日本はまだ戦力を強化するのか?」

「まぁ、米英が黙っちゃいないだろうけどな。」

「軍縮は世界的な潮流だからね。それでも日本は無敵だから大丈夫。」

「馬鹿か?相変わらず脳天気な野郎だぜ!」

「日和見主義と言った方が正しいかな。」

「どうせ日本じゃあ戦争なんか起きやしないさ。それは俺も同意見だ。」

「僕はそうは思わないな。対米戦争は必ずやって来る。そう覚悟しておいた方が良いよ。」

「日和見主義の英一郎が、まさかの山本善雄と同じ意見になるとわ。案外二人は相性良かったりしてな。」

後にクラスヘッド(首席)争いをする事になる英一郎と山本善雄であった。

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