同期の桜
「貴ッ様と俺と〜は〜同期の桜〜。」
海軍兵学校では同期の桜と言うくらいライバル関係であり、同じ時代を同じ学舎で過ごす事に特別な思い入れが強い傾向にある。同期の桜は海兵によく歌われる歌で、現代の防衛大学校など各自衛隊機関(特に海上)でよく歌われている。
「なぁ英一郎?お前の実家はどこにあるんだ?」
「俺の故郷か?神奈川県の横須賀だ。」
「行ったことはないけど、呉に負けない軍港の街じゃないか?」
「俺は磯太郎や本間と違って故郷に思い入れなんか無いからな。本来なら横須賀周辺での入隊は嫌だったから、わざわざ広島県江田島市にある海軍兵学校を選んだんだ。」
「じゃあホームシックとかは無いんだ?」
「全く無い。」
「英一郎?お前家族と不仲なのか?」
「そんな事は無いけど、もうこのレールに乗った以上海軍に人生かけているんだ。後戻りは出来ない。」
「まぁ、いつ死ぬか分からないしな。悔いなく生きるしかねーよ。」
「本間の言う通りだよ。それだけにどんな厳しい訓練にも耐えなきゃならない。」
「あと座学な。」
「俺は訓練よりそっちの方が心配だわ。」
「でも江田島って良い所だね。」
「呉もいいよ。そうだ今度俺の実家に遊びに来いよ。夏休みにでも。って海軍兵学校に夏休みなんて無いか?」
「少しはあるやろ?」
「呉海軍工廠には興味がある。」
「造船の街だからな。東洋一の軍港だぜ?」
「磯太郎は地元愛が半端ねーな。」
「明日から本格的に授業始まるね?」
「上級生からの鉄拳制裁だけは勘弁して欲しいよ。」
「上級生じゃなくて教官の間違いじゃね?」
「確かに。赤鬼と青鬼がいるって噂は聞いた事あるけど…。」
「何それ?」
「噂話だから。赤鬼と青鬼って言われても具体的には説明出来ない。」
「って言うか入学してからまだ数日しか経っていないけど、全部教官から教育されたのはベッドメイクと裁縫だけだよな?」
「英一郎?俺達まだ15、6歳の若者だけど一応未来の日本海軍の幹部候補生だぜ?一から百まで教わらなくても、自発的に何か出来るようにならなくちゃならない。」
「そうそう。磯太郎の言う通りまだ早いとか言ってらんねーんだわ。」
「二人とも志が高くて凄いよ。」
と、まんざらでもない磯太郎と本間だったがこれから大日本帝国海軍兵学校第47期の学生達にはとてつもなく厳しい運命が待ち受けていた。そうとも知らず3人は呑気に夕食をすませ就寝した。せめて夢の中で位安らぎたいと思ったが、あまりよい夢は見られなかった様だ。




