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古鷹の桜〜江田島海軍兵学校青春物語〜  作者: 佐久間五十六


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日本海軍伝統の鉄拳制裁

令和の海上自衛隊ならばあり得ないが、昭和までの日本海軍には何かあるたびに理不尽に殴られる鉄拳制裁は当たり前だった。精神注入棒なる太い木材で殴られる事もあった。海軍兵学校でも上級生が下級生を殴りつける、あるいは同学年同士のいざこざで殴りあえるのは当たり前日常茶飯時だった。


「なぁ英一郎?何で海軍はこんなに人を殴りつけるのかな?」

「僕みたいな弱い人間でも容赦なくぶん殴られるからね。たまったもんじゃないよ。」

「本間はその点めちゃくちゃ腕っ節が強いからやられたらやりかえす事が出来るから羨ましいよ。」

「何なら用心棒にでもなるか?俺は呉一の喧嘩屋だからな。そうそう負ける訳はない。」

「本間君、ここは海軍兵学校なんだよ?喧嘩に明け暮れている時間があるなら、勉強した方が良いよ。」

「余計なお世話だぜ。英一郎はフィジカル弱いからな。俺が鍛え直してやる。」

「俺は難癖をつけて根性論に走る海軍のやり方には疑問を持っている。暴力で人を支配するのは間違っている。例えこの世が弱肉強食でもな。」

「鉄拳制裁は、確かにやられる方はいてぇし、わだかまりも生まれる。1期上ってだけで、なんでそんな偉そうにしてるって奴もいる。」

「精神注入棒はありゃあ痛い。半端なく痛い。でもこんなに制裁ばかりで3年間も過ごせるのかな?」

「大丈夫。大変なのは一年目だけだから。俺達が今被害にあっている上級生は1年後には卒業。少尉候補生としてそれぞれ全国津々浦々の部隊に配置される訳。」

「でも部隊に行けばさらなる鉄拳制裁が待っている。部下に殴られる事はないが、部下の失態は上官の失態連帯責任で、また殴られる。とにかく、偉くなるまで海軍伝統の鉄拳制裁からは逃げられないって訳。」

「そ、そんなぁ。」

「まぁ、でも海軍兵学校の教官はその点めちゃくちゃ優しいよ。分からない事は丁寧に教えてくれるし、海軍兵学校での暮らしで困っている事にも気を使ってくれるし。」

「英一郎?お前知らないの?教官が優しいのは入隊後1週間だけ。後は鬼の様に厳しくなる。いわゆるお試し期間って訳。」

「それも海軍伝統?」

「海軍兵学校のあるあるだ。」

「1週間後って事はこの土日を過ぎたらあっという間じゃないか?」

「まぁ、諦めろ英一郎。」

「こんな事位で挫けてちゃあ立派な海軍士官になんてなれやしない。」

「磯太郎も本間も強くて羨ましいよ。」

「腕っ節が強いだけが取り柄じゃないぜ?」

「英一郎?もっと自信を持て。お前だって本気になれば喧嘩強いだろ?」

「いやぁ~そりゃあ見立て違いだよ。」


と、半ば諦め気味の英一郎を磯太郎は盛り上げていた。

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