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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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42/50

Episode.42


「あ、あんなことをしては、周りに誤解されるじゃないですか。リリーア嬢に諦めさせようとしたのでしょうけど、せめて他のご令嬢の手を借りればよかったのに……!」


ミネルバが顔を赤くしたまま、震えるように言った。溜め込んでいたものを吐き出すように、さらに口を開く。


「シリル様に醜聞が立たないように我慢してたのに……万が一、私と噂にでもなったら……」


赤かった顔色が青ざめていく。

(なんだ……?とりあえず俺が手を握ったことが不快だった訳ではないのか?)

後半は独り言のようなので、何か言うのも憚られるが、ひとつ気になった事だけ言っておく。


「えっと、ミネルバ嬢。急に手を握って驚かせてしまい申し訳ありません。…他の令嬢の手は握りたいと思わなかったので…。それと、貴方と噂になっても醜聞ではありません」


シリルの言葉に、ミネルバは目を見開きぽかんと見上げた。空色の瞳が驚きながら揺れている。


「で、でも…私はアレックス様に婚約を解消された女ですし……」

「それはアレックスに非があるからです」

「それに可愛げがないとよく言われ…」

「貴方は可愛らしいですが?」

こめかみがぴくりと動く。そんな事を言ったのはどうせアレックスだろう。


(あんな奴のせいで自分は可愛くないと思っていたのか?)


シリルは短く息を吐いて言った。

「貴方はその歳で父上と領地改革について意見が交わせる程の才女で、立ち居振る舞いは美しく、更に可愛らしいご令嬢です。その淡い金の髪には思わず手を触れたくなるし……」

「――そ、それ以上はもう結構です!」


ミネルバが慌てて口を塞ごうと手を伸ばす。シリルは黙ってそれを受け入れた。

シリルが自分の口に触れたミネルバの手を掴むと、ミネルバは慌てて手を引っ込めた。


(残念だな……)

掴まずにいればよかった。シリルはすこし熱の籠った目でミネルバを見たが、下を向いた空色の瞳とは視線が合わない。


「ですから、貴方が自分を卑下することなどありません」


シリルがそう言っても、ミネルバはこちらを向かなかった。――しばしの沈黙。シリルはそれが不快ではなく、風にふわりとなびく淡い金の髪を眺めた。



しばらくするとミネルバがポツリと言った。


「……私は感情のままに動くことが苦手でした」


シリルは少し驚いて言葉を返す。


「そう……なのですか?俺の前では感情豊かに動いてらしたので」


意外だ。ミネルバが自身のことをそう感じていたなんて。


今までの様々なミネルバの顔が思い浮かび、シリルは口がにやけてしまうのを寸前で抑えた。

屋台の菓子に感動したり、近づき過ぎて赤面したり…どのミネルバも何度も反芻してしまうほど可愛いかった。



シリルが黙り込んだので、ミネルバがバツが悪そうにジトリとねめつける。そして口をとがらせて言った。


「あ、あれは普段の私ではありません。シリル様の前でだけなぜか特別に…」


と、言いかけてまた赤面する。シリルは全身に力を入れた。そうでなくては我慢できない。ミネルバが可愛くて抱きしめてしまいたい。


(な、なんだそれは?俺だけ特別?)

いろんな感情が沸き上がるのを必死に抑える。

「……勘弁してください」

シリルは抑えきれず声に漏らした。


「えっ」

ミネルバが急に不安そうな顔をした。


(これで自分は感情表現が乏しいなんて本当か?俺にだけこうなのか?)


これは無理だ。沸き上がる独占欲を抑えることが出来そうにない。



ほどなくしてアリアがサンドイッチの籠を持って現れた。昼食に誘われたが、シリルは断った。

ミネルバがアリアと手を繋ぎ、庭園の奥へ行くのを見送り、シリルは踵を返した。


(演舞場に向かおう。冷静になってとにかく素振りがしたい)






「どうして断ったのですか?」


足早に演舞場へ向かうシリルにライナスが声をかける。


「……ライナス」


いつもより低く響く主の声に、ライナスは少し身構える。

「はい」

「俺は今どんな顔をしている?」

「……はい?」

「変じゃないか?にやけていないか?」

「……」

身構えた自分を少し恥じてライナスは答えた。


「いつもと変わらぬ精悍で完璧なご尊顔ですが、何かありましたか」


軽口に受け取ったのか、シリルは冷ややかな視線を向けてきた。

(嘘ではないのだが)


「…ミネルバ嬢に、若干…若干だが、好意を持たれているかもしれない」

「……はあ」

従者にあるまじき返答をしてしまった。しかしシリルは気にしていないので訂正をせずに次の言葉を待つ。


「いや好意は言い過ぎた。嫌われてはいない事が分かった」

「はい?」


主人の下がった自己評価に思わず聞き返してしまう。この顔で、この主人の自信のなさは何故なのか。


ライナスに言わせれば、ミネルバ嬢からはシリルに対する間違えようのない好意を感じている。肝心の主人がここまで逃げ腰では、気付けるものも気付けない。


「聞けばよろしいのではないでしょうか」

一護衛の身で主に助言など。シリルでなければ許されないだろう。


シリルは聞こえない振りをしている。ライナスは心の中だけで嘆息した。







読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
マナー違反かも知れませんが、敢えて引用させて頂きます ( 」゜Д゜)」ヘタレポンコツ!!
3歩進んで2歩下がっとるやないかい! 自己肯定感(´-ω-`)低く過ぎて… 最早( 」゜Д゜)」ヘタレポンコツ!!
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