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無名の風鈴剣 ~消えかけの少年に、天才魔導技師と皇女が激重感情を向けてくる~  作者: 風紋
第一章 忘れられる少年と、忘れない二人

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第4話 誇り高き魔導の光

細かい工学設定は読み飛ばして頂いても支障ありません。

炉の暴走と、現場の雰囲気と、ジルをお楽しみください。(クロードは……!?)

第4話 誇り高き魔導の光


ズドォォォンッ!


 第3プラントの奥で、腹の底を揺らすような爆発音が二度連続で轟いた。

 制御室へと続く通路は、漏れ出したマナの熱伝導によって、すでにオーブンのような過酷な灼熱地獄と化している。


「ジル……ッ!」


 外での救助を終えたクロードが、灼熱の通路を駆け抜ける。

 建物が崩れかけた上に、大きな爆発もあった。ジルの身が危ない。


 熱気と紫煙が充満する中、はやる想いでようやく到着した制御室コントロールルーム

 巨大な『魔導制御核コア』の前に立つのは、ジルと二人の男だけだった。



「定着 失敗ロスト! マナの圧が強すぎる!」

「クソッ、第二回路の固形エーテルも融解メルトしそうだ! ジル、これ以上は俺たちのエーテルがもたない!」


 鼻血を流し、決死の形相で回路を押さえつける男たち。

 その中心で、ジルは工具と己の魔力エーテルを振るい、必死にマナの奔流を編み上げようとしていた。

「諦めないで! もう一度!!さっきの結節点ノードよ!ここに絶対バイパスを通す! ハンス先輩、ゲイル、私のエーテルに同期して!」


 バチィィッ!

 三度目のトライ。ジルの指先から放たれた極細のエーテルの糸が、暴走するマナを固形エーテルに縫い留めようとするが――強烈な反発に遭い、火花と共に弾け飛んだ。


「……きゃあッ!」

「ジル!」


 クロードが咄嗟に駆け寄り、吹き飛んできた熱波をその背で受け止める。


「クロード!? バカ、何で戻って……」

「外の避難は終わった! 爆発が酷かったから、ジルが心配で……ッ」


 言うが早いか、クロードはジルのすぐ背後に陣取り、彼女に襲い掛かろうとする周囲の狂暴なマナの熱を、己の身体を通過させて床へと散らし始めた。


「熱は俺が受け流す! ジルはそのまま回路に集中してくれ!」

「……っ、助かる! ナイスだよ相棒!」


 クロードは、肩で息をするジルの横顔を見つめた。

 絶望的な状況だ。熟練の技師であるはずの大人二人が、悲鳴を上げ、心を折られかけている。


 だが、ジルは違った。


 煤にまみれ、火傷を負いながらも、その瞳の光は一切死んでいない。失敗しても、現状打破に必要なことを諦めず。男たちを鼓舞し、たった一人でこの巨大な絶望に立ち向かっている。


 (……すごい)


 クロードの胸の奥で、熱いものが込み上げた。

 自分のような、ただマナを素通しするだけの「なり損ない」とは違う。

 彼女は自分の力で、世界を繋ぎ止めようとしている。俺を暗闇から救い出してくれたこの手で、今は、この街の何万人という命を救おうとしているのだ。

 ただひたすらに、眩しかった。


「……待って。なんで反発するの? このマナのうねり、ただの暴走じゃない」


 背後のクロードが熱を遮断してくれたおかげで、ジルは冷静な思考を取り戻していた。

 深く潜りすぎた意識を一度引き上げ、今度は20年以上前に作られた古い炉の「外殻」付近――ここ数カ月の間に増設されたであろう、新しいがひどく不格好な回路群へと目を向けた。


(……なに?このムダだらけの配列。『核モジュール』と『点在する小核』のつなぎが異常に離れて、ねじれてる。いくらなんでも、この強引な繋ぎ方は……)


 あまりにもおおざっぱで、無駄に巨大化されたその外装回路。

 最初は古い設備を無理やり延命させるための、ただの歪なつぎはぎだと思っていた。だが、その不格好なエーテルの網目を頭の中で整理し、無駄な配線ノイズを削ぎ落していったとき――。


 マナが異常に滞留している外殻の接続部に、不自然なほどに簡素化された「見覚えのある配列」が目に止まった。


(……この拡散配列……まさか。私が作った『天使の輪(エンジェル・リング)』の基礎理論を使った……)


 ――『劣化版』だった。


 瞬間――ジルの脳内で、数式とプラントの構造的欠陥が一つに繋がった。


 20年モノの古いボイラーに、自分の理論が「後付け」で組み込まれている。それも、設計者である自分が抜けたせいで理論を完全に再現できず、簡素かつ非効率な不完全さで。

 だから、マナを流しきれずに外殻の途中で詰まっているのだ。


「先輩!!」


 ジルがカッと目を見開く。


「今から無理に『止める』『切る』をやったら弾けちゃう。でも、この歪なバイパスを全開にして、外部冷却パイプへ一気に『拡散』させれば!」

「なっ……!外部パイプを、巨大な拡散リングに見立てる気か!!だけど、そんな精密な誘導、今の俺たちじゃ――」

「私が束ねる!ゲイルは私のエーテル波長と同期を!ハンス先輩、バルブ回路のロック解除をお願い!すぐに!」


 もはやそこに迷いはなかった。ジルの絶対的な気迫に押され、二人は反射的にかつての「チーフ」の指示に従った。

 ジルは工具袋から純度の高い固形エーテルの欠片を取り出すと、それを回路の欠損部に丁寧に置く。

 そして……一度深呼吸をしてからゆっくりと両手をかざす。集中力の一層の高まりを感じる。


 制御室が一瞬静まり返る。


「……いくよ」


 ジルの掌から、美しく、そして研ぎ澄まされた彼女の体内エーテルが放たれた。芸術的な緻密さだ。暴れる紫色のマナの暴風に対し、ジルのエーテルは極細の「縫い糸」となって絡みつき、はがれかけるマナを次々と新しい固形エーテルの回路へと縛りつけていく。

 本来、マナの濁流の中では、このような精緻な動きはとてもできない。同期したゲイルと共に体内エーテルの出力密度を上げ、絶え間なく流し込み続けながらの精緻さだ。魔導技師として、まさに神業と言える。


 クロードは、ただ息を呑んでその光景を見つめていた。

 荒れ狂う嵐の中でタクトをふるう指揮者のように。ジルの指先が奇跡を紡いでいく。


 美しい――。


 心からそう思った。


「……っ、マナのアンカー完了!拡散開始ッ!!!」


 ジルが、己のエーテルを最後の『くさび』として打ち込んだ。


 直後である。


 プラント全体を揺るがしていたマナの絶叫が、ふっと嘘のように静まる。

 どす黒かった紫煙が青白い光へと浄化され、外部パイプへと逃げていく。

 ひどい耳鳴りのようだったマナと共に、急激に室内の温度が下がる。


「……しのい、だ…」


 ゲイルがその場にへたり込み、ハンスも壁に手をついて深く息を吐き出す。

 3人の息の合った連携が、かつての完璧なチームワーク。

 それが暴走を完全に収束させた。


「……やった!やったよ!!」


 ジルが煤だらけの顔で笑いかけた。

 限界まで頭脳と魔力を振り絞り、汗と油にまみれながらも、自らの力で多くの命を救い切った――その誇りに満ちた笑顔は、どんな宝石よりもまぶしく見えた。


 そして心の中でそっと呟く。


(やっぱり……オレの相棒は、世界一だ)


以上、『第4話 誇り高き魔導の光』をお送りしました。


設定にかなり苦心した回ですが……その分、技術者として誇りを貫くジルの姿が、皆さんの目に輝いて見えたなら嬉しいです。


さて、ようやく暴走を食い止めた二人。ですが余韻に浸る間もなく、物語はジルの「秘められた過去」へと踏み込んでいきます。


次話、本日一挙投稿のラスト。

あともう一話、ぜひこの世界観にお付き合いください。

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