表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無名の風鈴剣 ~消えかけの少年に、天才魔導技師と皇女が激重感情を向けてくる~  作者: 風紋
第一章 忘れられる少年と、忘れない二人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/31

第15話 あなたの感情は殺させない!

 私は泣きながら、クロードの頭を胸に抱きしめていた。


 最初は無我夢中だった。

 彼は、何も持っていない最悪の境遇の中で、限界の努力をしているのに。

 最初から恵まれた力を持っていて、ただそれだけの空っぽな私を羨んで泣くなんて。


 彼は持たざる者として、結局何者にもなれないのだと絶望して。

 私は彼の努力が決して虚しいものではないはずだと思いながら、彼の苦しみを全力で否定したくて、胸が詰まって一緒に泣いてしまった。


 ――しばらくするうちに、抱きしめた彼の頭のひんやりとした感触が心地よく、少し冷静になってきたところで、ふと気づいたのだ。

 胸の中の彼は、先ほどからピクリとも動かない。

 ……それどころか。


 ドッドッドッドッ!!


 (……どうしよう! いきなり離すのもおかしいけど、私の心拍数が――!!)


 密着した身体から、ものすごく大きな波となって、彼の顔に伝わっていそうだ!!

 私の顔が一気に真っ赤になっていく――。


 ……もう、限界……!!

 意を決して、そっと彼の頭から腕を離した。


 「ご、ごめんなさい。つい。」

 「……い、いや!俺の方こそ突然泣いちゃって、ごめん……」


 クロードは耳まで真っ赤にしながら、慌てて身を引いた。


 「何か、羨ましくなっちゃってさ。いや、決して自分が弱いと思ってるわけじゃないんだ。そこらの冒険者とか、エーテルを使ってる人とも、それなりにはやりあえると思ってはいるんだけど」


 彼は少し視線を落とし、ぽつりとこぼした。


 「ホラ、俺ってさ。自分でも自分の性質がよくわかんなくて。いつ死ぬかもわかんなくて。いろいろと頑張ってみても、人からあっさり忘れられちゃうし。……だから、何かを成し遂げた英雄、人の記憶にずっと残る英雄ってのに憧れるんだよね。どうやっても、俺にはそんな突拍子もない力なんて無いからさ」

 

 「だけどリンが、俺の剣をすごいって、憧れだって言ってくれて。……すごく嬉しくて」


 「それで、本当に俺の剣をそう思ってくれる人だけに伝えるってのも、良いなって思ったんだ。だって、これは僕のオリジナルだからね。エーテル無しだから、派手な強さはないけど」

 

 ちょっと悲しそうに、しかし心底嬉しそうに、彼は笑った。


 人々の記憶に残らないということが、彼にどれだけ大きな傷跡を残し、そして怯えさせることになっているのか。

 今更ながら、私自身が彼に助けられた記憶がないこと。そしてジルの『忘れたと伝えるな』という殺意に満ちた視線を思い出す。


 彼の孤独な境遇に、胸が押しつぶされそうになる。

 ――けど、その痛みに勝る強い炎が、胸を焦がし始めた。


 「――師匠の剣!! 絶対に……私が習得します!!」


 今までの人生で、こんなにも強い決意を持ったことはない。

 皇宮で流されるまま、やれと言われたことをこなして。ここ最近はエーテル供給装置のごとく、毎日魔力を絞り取られ。その地獄から抜け出そうと逃げ出したあの日も、こういう前向きな決意ではなかった。ただ「逃げる」と決めただけだった。


 (――今は、違う。師匠の剣を私が覚えて。そのすごさを、私が世間に知らしめる!!)


 初めて自分自身の奥底から生まれた、この熱い情熱は――!!


 「ピーーーーーーーッッ!!!!」


 バタンッ!と、ものすごい勢いで廃棄ボイラーの重い鉄扉が開き、血相を変えたジルが何かを片手に大慌てで飛び出してきた。

 よく見ると、彼女の手の中でけたたましく鳴り響いているのは、つい先ほど完成したばかりの『簡易マナ探知機』だった。

 

 「――って、あんたかーい!!!」

 「痛っ!」


 スパーン、と容赦なく私の頭がはたかれる。


 「ちょっと何やってんの!! 探知機がレッドアラートを叩き出したから、憲兵が来たかと思って寿命縮んだじゃないの!」

 「えッ……?」


 ――私の胸で燃え上がっていた情熱は、物理的な痛みと共に急速にしぼんでいった。



◇◇◇◇◇◇◇◇


 「エーテル操作を最優先で」


 室内に戻り、完全に冷めきった顔をしたジルが宣言する。


 「いや、でもさ、リンが俺の剣を学びたいって言ってくれて――」

 「だ・め・ぜ・っ・た・い!!!」


 クロードの援護射撃も、ジルの冷酷な一言で一蹴されてしまった。

 ……どうやら私の情熱の炎は、自らの手で地獄のフタを開けてしまったようだった。


 「すみません、私のエーテル操作が未熟なばっかりに」

 「んー、そうね。向き不向きはあると思うけど、感情の高ぶりでマナが爆発しちゃうようじゃ、いつ憲兵に見つかるかわからない。ここだけは、命に関わるから厳しくいくわよ」

 

 これは当然のことだ。ここに居させてもらえるための、最低条件と言っても過言ではないはずだ。


 「わかりました。厳しく、お願いします」

 「よし、じゃあ私が教えるね。もう見たと思うけど、エーテルの精密操作、すっごく得意だから」


 確かに、マナ探知機を作るときに、ジルの静かで細かいエーテル操作を見た。とても私にはできないと思ったけど……。


 「まずは、体内のエーテル操作というよりも『感情とエーテルの切り離し』ね」

 ジルは真剣な顔つきで指を立てる。


 「リン、今までうまくいかなかったのって、どうせ『心を無にするのじゃ』とか言われてたんじゃない?」

 「そんな感じです。あんまり感じないように、考えないようにと。でも、感情が内から沸き上がるのって、気にしないようにしようとしても無理で……」

 

 私の言葉に、ジルは「はぁ」と深いため息をついた。


 「そんなもんだと思ったけど……そんなの『技術屋』から言わせれば三流の教えよ。自然と湧き出てくる大切なものを、出ないようにしましょうだなんて、いつか絶対に破綻する。不完全なままのシステムを放置するのって、技術への冒涜よ」


 どういう流れなのか、私の魔術教師は悪人扱いになっていた。


 けれど、ジルの言う通りだ。

 無理やり感情を抑え込む方法を取ってきた私は、先日逃げ出した時や、先ほどの「クロードの存在を世間に知らしめたい」と強く願った時も、感情が高ぶって、巨大なエーテルが自然と高まってしまったのだから。

 何も感じずに無で受け流すというのは、とてもできそうにない。


 「ちょっと話は変わるけど、帝都の紡績工場の機械、動力元の巨大な魔導機関(動力)は、どんな時でも常に全力で回ってるのよ。じゃあ、どうやって手元の機械を止めたり動かしたりしてると思う? 動力を伝える『歯車』や『ベルト』を、意図的に『空回り』させてるのよ」

 「空回り、ですか?」

 「そう。リンのエーテルも同じ。感情ってのはボイラーの炎だから、無理に消しちゃダメ。燃やしたまま、全力で回したままでいいの。……でもね、そのエネルギーをそのまま出力に直結させちゃダメなの」


 ジルは私の頭をトントンと指先で叩く。


 「頭の中に『レバー』を作って。焦ったり怒ったりして感情が唸りを上げても、その力をエーテルに繋ぐ歯車を、ガコンッて外して『空回り』させるのよ!」


 「……? わかったような、わからないような……」


 「そうね」と言って、ジルは紙に簡単な図を描き始めた。


 まずは側面図。歯車が二つ、かみ合っている。

 左の歯車の中心は『感情』、右の歯車の中心は『エーテル』と書かれている。

 

 次に上面図。歯車を上から見たもので、一つは二つの歯車ががっちり嚙み合ってる図、もう一つは、二つの歯車がスライドしてズレている図だ。そこには「ガコン」と動かすレバーも描いてある。

 

 「――こういうこと。感情がいくら回ってもエーテルが回らないように、レバーを引いて歯車を外すの」


 「わかりやすいです!できるかどうかは別ですが、ジルはこの考えで、怒った時や悲しい時でも、身体の中でエーテルがぐるぐるにならないんですか?」


 「んー、そうね。正直なとこ、私は元々感情と直結してないタイプだから。だけど、魔導技師は非常に精密な操作が求められる、わずかなブレも許されない世界なの。魔導回路のズレや太さのブレが、それこそ大爆発に繋がるかもしれない」


 ジルはかつての苦労を思い出すように目を細めた。


 「その重圧の中の作業をこなすための、基本のスキルよ。私はこの理論で新人を指導して、みんなできるようになったわ」


 ものすごい納得感だ。


 「リンは、何も精密な魔導具を作ろうとしてるわけじゃない。魔導技師の10倍、100倍も簡単なレベルで良いんだから、気負わずに頑張りましょう」


 ジルはふっと笑った。

 けれどその瞳は、真剣だった。


 「あなたの感情を殺すという、あなたという人間を認めないやり方を……私は認めないわ」


 ッッ!!!


 この二人は。

 この『家』は。


 ――どうしてこんなにも温かいのか……。



 私はその言葉にまたもや感情を大爆発させてしまい、数日ぶりにクロードにマナを逃がしてもらう羽目になったのだった。

読んで頂きありがとうございます。


次回は4/27(月)更新予定です。

GW明けまで2日に1本ペースです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ