逆らえない存在
喧嘩に夢中になってしまったシオウと兎人族の男の子は、そのままヒノエと兵士達に捕まった。
まあ兎人族の男の子からしたら捕まったと言うより保護されたと言うほうが正しいのかもしれない。
今は兎人族の男の子のお父さんとお母さんが無事だったことに喜んでいるし。
「うぅ~、アイツ役立たず。連れてくるんじゃなかった」
「こらっシオウさん。まだ話は終わって無いのですから、よそ見をしてはいけませんよ」
「うぅ~~~」
そしてシオウは縄で簀巻き・・にはされていないが、ヒノエのモフモフ尻尾にグルグル巻きにされて捕まっていた。
逃げ出そうと思えば逃げ出せるけどそうしないのは、ヒノエのモフモフ尻尾を傷付けないためだろう。
というかいつもよりモフモフ具合があがっている気がする。
皆の髪の毛もどこかサラサラだし・・・何でだろう?(シオウは知りませんが毛がサラサラだったりモフモフだったりするのは温泉の効果です)
「母さま! もっとちゃんと叱ってやるのじゃ! そのアホウはおバカなのじゃからもっと強く叱らねば身に付かんのじゃ!」
「む、僕はアホでもバカでもないもんね。おいお前! お仕事だぞ! ちゃんと生贄役してよ! その為に連れて来たんだから!」
「・・・・あとで」
「後でじゃなくて今やってよ! 連れて来た意味ないだろ!」
「やだ」
ノア用の盾として連れて来たのに兎人族の男の子はママとパパに抱き付いて何もしてくれない。
役立たずにも程があるよ。
そして兎人族の男の子のママとパパがとても怖い目で睨みつけてくる・・・な、なんだ! やんのかこんにゃろう!
「シオウさん。なぜ生贄なんてそんなひどい言葉を使うのですか? そんな風に自分が言われたら面白くないでしょう?」
「・・・いいじゃん別に。そのために連れて来たのは本当なんだもん」
「シオウさん」
「・・・・ふんだ」
ダメでしょとしかりつけるように声をかけてくるヒノエに、シオウは面白くなさそうにそっぽを向いた。
言葉は・・ちょこっと悪いかも知れないけど、別に悪意なんてないんだからいいじゃん。
ヒノエさん達獣人達みたいに悪意も殺意も向けてないんだから。
「なんじゃその態度は! そんな悪い子は皆に嫌われるのじゃぞ!」
「!? ぼくは悪い子じゃない!」
「いいや、悪い子じゃ!」
「悪い子じゃない!」
シオウにとって聞き流せない言葉にシオウはノアに噛み付く。
がるるっと歯を剥き出しにするほどで、ヒノエのモフモフ尻尾にくるまれていなければノアに詰め寄っていたことだろう。
「貴方達喧嘩しないの。それとシオウさん。トウカさんを生贄呼ばわりしたのは謝らなきゃダメよ。悪意はなくてもその言葉は褒められる言葉では無いのですから」
「むぅ~・・・・う? とうか? とうかって誰?」
「だれってシオウさんが連れて来た兎人族の男の子のことですよ?」
「・・・おぉ!?」
「知らなかったのですね・・」
知らなかったよ。
知るつもりはなかったから。
というか、トウカってなんだか女の子みたいな名前だね。
アイツも・・トウカの見た目もとっても女の子っぽいし。
「のじゃ? 男の子とは誰の事なのじゃ? どこにもおらぬと思うのじゃが?」
「・・ぼくだよ」
「・・・・のじゃ?」
「・・ぼくがトウカだよ。男のトウカだよ」
「・・・男・・かや?」
「むい」
「う、うっそじゃ~~~!」
あまりに女の子っぽい容姿の兎人族の男の娘に、ノアは力いっぱい否定する。
その気持ちはわかると言いたげにヒノエさんも頷いているけど、僕からしたら何でコイツが男だってわからないのかが疑問だ。
「嘘じゃないよ。コイツちゃんとちんちんついてるもん。なっ!」
「むい。バッチシ」
「うえぇぇぇ、その顔でついておるのかや・・・・・・・なんかキモいのじゃ」
「むい!?」
「ノアッ!!」
「いじゃじゃじゃじゃっ!? お耳引っ張ってはダメなのじゃぁ~!」
男なんだからついてて当たり前なのに何でキモいなんて言うのかわからない。
なんでだろ?
「あっ、そうか! お前ちんちんがちっちゃいからキモいってバカにされたんだ!」
「・・・ちっちゃいから?」
「う! 絶対そうだ! やっぱデカくなきゃいけないんだ! パパもママもでっかいのが一番だって言ってたし!」
「むぃ~」
なるほどなぁ~と納得する兎人族のトウカ君。
その考えを改めさせるべきであり、現にトウカ君のご両親が修正しようと声をかけているが、なら小さい方がいいの? と問われればなんとも言えない顔をしながら、あやふやな回答をするだけだった。
「そ、そんなことよりもヒノエ殿。そこの人間をさっさと打ち首にいたせい。ソイツは我等の可愛い子を奪った人食い共の仲間ぞ」
「・・・・・・・」
「ぱぱ、違う。この人は―――」
「いいのよ。何も言わなくていいのよトウカ。わかってる。わかってるから」
「まま、絶対勘違いしてる」
親達はトウカの言葉を聞かず、ただ安心させるように抱きしめて撫でながらこちらに殺意を向けてくる。
ほらね。いつものだよ。
いつもの目付き。
代り映えしない視線。
獣人や亜人なんてこんなもんだ。
他人に人食いじゃないと否定するのももう面倒だし、さっさと離れよう。
ヒノエさん達を見つけられて、無事なのも確認できたことだし。
そう思いシオウは己の身体とモフモフ尻尾の間に手を入れて、ゆっくりと押しのけ始める。
それに気付いてヒノエは尻尾に力を込めるが、抵抗できるわけもない。
多分このまま自分達の視界の届かない場所で見守る気なのだろう。
できればそんなことしないで、傍にいていいのだが、シオウが受け入れる訳もないだろう。
「・・・あっ・・・・・・・・・」
そう受け入れる訳もなく、そのまままたいなくなると思っていたのだが、突然何かに気が付いたシオウは、ヒノエのモフモフ尻尾から逃げる事を中断し、真っ黒な水を生み出し全身を覆いだした。
何故そんな事をしたのか? と疑問が浮かぶもその答えはすぐに知ることとなる。
「お連れ様の確認が終わりましたので、お連れ致しました」
「・・・なるほど」
この城の女中がミラとシェミを連れて来た。
十中八九彼女達が来たことを察知し、隠れたのだろう。
ちなみにユクランはセンタロウに連れられて、共にこの城の炊事場にいる。
これだけ大きなお城の炊事場を見学できる機会はそうそうなく、興味が湧いたのだろう。
「お待たせしましたヒノエ様・・・・」
「おまたせしましたヒノエ様・・・・」
丁寧に頭を下げるミラに習い、シェミも頭を下げる。
ただヒノエのすぐ傍に大きな黒い水の塊があるため、二人共困惑していた。
「薄汚い人族を連れている話は誠であったか。気でも触れむ゛い!?」
失礼な言葉を吐くトウカの父。
その言葉を聞いてシオウは間髪入れずに黒い水の塊を顔面にぶつけた。
鼻に入ったのかおえおえやってるけど知らない。
「えっとシオウさん。その黒いのやめてもらえません? ヘンな匂いがして鼻が利かなくなります」
「ほえ? しおう?」
そしてせっかく姿を隠したのに一瞬にしてばらしてしまうヒノエ。
一瞬この変な匂いのお水をかけたくなったよ。
「・・・・・・・・・・・」
「シオウ・・・そこにいる?」
「シオウって、あのシオウ君?」
「あのシオウと言われてもどのシオウかわからぬが、人族の男の子ならばその臭くて黒い丸の中におるのじゃ!」
ノアがいらぬことを言う為、シェミとミラに多分ばれてしまった。
まだ姿を見せていないから確信していないだろうがそれでも多分・・・・バレたと思う。
トコトコとシェミはその真っ黒な球体に近づき、ミラもそんなシェミの後についてくる。
「ウエェッベ! ベッベッ! 何をしおるかこの人食む゛い!?」
途中トウカのお父さんが騒ぎ出したのでもう一度顔に黒い水をかけたのは言うまでもない。
なんかトウカとトウカのお母さんがお父さんから距離を取っているけど、それは知らない。
多分鼻の良い獣人からすると結構匂うんだと思う。
僕はこの匂いには慣れているけど、嗅ぎなれてないと仕方ないよね。
「ねぇシオウ? シオウいるの? いるなら出てきて」
そんな獣人達が嫌う独特な匂いを発する黒い水にシェミは躊躇することなくペタペタと触りながら呼びかける。
何度も何度も触れて、何度も何度も呼びかけてくる。
「・・・・ヒノエ様。尻尾の先にシオウがいるのですか?」
「ええ、いますよ」
「・・・引っ張ってもいいですか?」
「のじゃ? 引っ張るのかや? なら妾もやりたいのじゃ!」
「引っ張っても出てこないと思うからやめてほしいですね・・・・・ノア。引っ張ろうとしない」
流石に己の尻尾を綱引きの様にされたくはないので断る。
千切れるほど力を込められるわけではないだろうが、それでも乱暴に扱われると痛みは覚えるのだ。
「・・・・シオウ?・・・・・シオウ?・・・・・・・・・・・・・・えいっ!」
「ちょ!? シェミさん!」
「のじゃ!?」
「あらあら」
呼びかけても反応がない。
故に埒が明かないと思ったのか、大胆にもシェミは黒い水の塊に突っ込んだ。
そんなシェミの行動にヒノエとノアは驚きの声を上げるが、ミラだけはやんちゃねぇなどと頬に手を当てるだけであった。
「むむむむむむむ・・・ぷはっ! シオウ入れてっ!・・・すぅ・・ぷく・・・むむむむむむむむ」
拒否しているのか中に入ることができず、シェミは珍しくも怒った声を上げる。
表情は全く変わっていないと言うのにとっても不満そうに見える。
入ってこようとするシェミの姿をシオウはヒノエの尻尾を掴みながら見つめる。
入れたくない。
会いたくない。
会うのが・・・・・・怖い。
「・・・・・・・・」
嫌いではないし、むしろ大好きな人だ。
大好きだから会いたいけれど、大好きだから会うのが怖い。
だからとっても会いたくない人だ。
だから拒否をするのだが、あまりに必死に会おうとしてくれるから・・・その姿を見せられたから
「ぷわっ!?」
心が勝手にシェミを拒否することを止め、中に招き入れていた。
転がり込むように中に入ってくるシェミ。
そんなシェミをシオウはヒノエの尻尾で顔を隠しながら隙間から見つめる。
「・・・びっくり・・・・あっ、シオウ?」
「・・・・・・・・」
名を呼ばれて、視線を向けられた。
それが嬉しくて、恥ずかしくて・・・・とても怖い。
故に僅かに開いていた尻尾の隙間さえも隠し、シェミを見ないようにした。
ぐい・・ぐぐぐぐぐっ
だがそんな事したところでシェミが止まる訳もなく、遠慮することなくシオウに近づくとヒノエの尻尾をむんずと掴みこじ開けだした。
「・・??・・・・・・シオウいた」
「・・・・・・・・・・」
こじ開けた先には目を伏せながらそっぽを向いているシオウがいた。
「シオウ。久しぶり」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅ」
小さな声で辛うじて返事を返す。
さっきまでの勢いはどこに行ったのか、借りてきた猫のようにとても静かだ。
「シオウ。お外でよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ここくちゃいからお外でてお話しよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・とってもとってもお話したかった・・シオウにずっとずっと会いたかった・・助けてくれたお礼も言えてなかったからありがとうも言えなかった・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・だからくちゃくないお外でお話したい・・・ね、いこ」
「・・・・・・・・・・・・・」
うんともすんとも言わないシオウではあるが、そんな態度を前にしてもシェミは気にせず、シオウの手を探りあてると、優しく握り引っ張り出す。
一度引っ張ったくらいでシオウは動かない。
けれど何度も、何度も、呆れるくらい何度も引っ張っていると、最後は観念したかのように立ち上がり、シェミに付いて行く。
『・・いいの?』
『・・・・・・・・ぅ』
クーお姉さんから振り払わなくていいのか、逃げなくていいのかと意味合いが含まれた問いかけがくるも、シオウはただ力なく返事を返すだけだった。
心を許している相手にこうも態度が違くなるのはどうかと思うが、それだけ失いたくない存在であるのだろう。
何もできなくなってしまう程に。




