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『ゴールまで、あと一歩。』  作者: S.S


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6/10

第6話「折れた心と親友」

一年生大会一回戦を突破した翌日。


学校中がいつもより明るく見えた。


もちろん大会で優勝したわけではない。


たった一勝だ。


それでも翔太にとっては大きかった。


自分のパスからゴールが生まれた。


チームの勝利に貢献できた。


初めての経験だった。


昼休み。


教室でも少し話題になった。


「神谷、試合出てたんだろ?」


「見に行ったぞ」


「アシストしたって聞いた」


友達が話しかけてくる。


翔太は照れながら答えた。


「たまたまだよ」


すると隣の席の男子が笑った。


「それでもすごいじゃん」


以前なら信じられない光景だった。


サッカー部で目立たない存在だった自分が、少しだけ認められた気がした。


放課後。


部活が始まる。


しかし顧問の表情は厳しかった。


「喜ぶのは昨日までだ」


部員たちが静かになる。


「次の相手は優勝候補だ」


空気が変わる。


みんな知っていた。


次の相手は市内最強と言われるチームだった。


無敗。


大量得点。


一年生にも有名選手がいる。


まさに強敵だった。


練習にも自然と力が入る。


だが。


その中で翔太は少し浮かれていた。


自分では気付いていなかった。


一回戦で活躍できた。


少しだけ自信がついた。


それ自体は悪いことではない。


しかし。


いつの間にか基本をおろそかにしていた。


二回戦当日。


空は快晴だった。


観客席には保護者や生徒たちが集まっている。


試合前。


蓮がボールを蹴りながら言った。


「楽しみだな」


「相変わらずだな」


「強い相手の方が燃えるだろ」


翔太は苦笑する。


そのメンタルが少し羨ましかった。


試合開始。


開始五分。


翔太は現実を思い知る。


強い。


とにかく強い。


相手は一年生とは思えなかった。


ボールを奪えない。


パスが速い。


動き出しも鋭い。


まるで一つの生き物みたいだった。


前半十分。


失点。


前半二十分。


追加点。


0対2。


チームは押し込まれ続けた。


それでも蓮は諦めなかった。


何度も走る。


何度も声を出す。


ボールを追う。


その姿を見て翔太も必死についていく。


前半終了間際。


チャンスが訪れる。


中盤でボールを奪う。


味方がつなぐ。


そして翔太へ。


目の前にはスペース。


蓮も走り出している。


絶好機だった。


だが。


翔太は焦った。


活躍しなければ。


結果を出さなければ。


そんな気持ちが頭を支配する。


そして無理なドリブルを選択した。


奪われた。


一瞬だった。


相手はそのままカウンター。


失点。


0対3。


前半終了の笛。


翔太は俯いた。


完全に自分のミスだった。


ハーフタイム。


顧問は冷静だった。


怒鳴らない。


ただ一言。


「自分のプレーをしろ」


それだけだった。


だが。


その言葉が刺さった。


後半。


翔太は挽回しようとした。


だが空回りする。


焦れば焦るほど上手くいかない。


パスミス。


判断ミス。


トラップミス。


すべてが悪循環だった。


試合終了。


0対5。


完敗だった。


握手を終えた後。


翔太は誰よりも長くピッチに立ち尽くしていた。


悔しい。


情けない。


苦しい。


胸の中がぐちゃぐちゃだった。


帰りのバス。


誰も騒がなかった。


大会が終わったからではない。


みんな自分の力不足を感じていたからだ。


翔太は窓の外を見ていた。


流れていく景色。


だが何も頭に入らない。


あのミスばかり思い出す。


翌日。


朝練の時間。


翔太は学校へ行かなかった。


目が覚めても起き上がれない。


身体は元気だった。


でも心が動かなかった。


努力した。


朝練もした。


走った。


練習した。


それなのに。


強い相手には何もできなかった。


「才能ないのかな」


思わず呟く。


誰もいない部屋に言葉が消える。


その日の放課後。


部活にも行かなかった。


顧問には体調不良と連絡した。


嘘だった。


ただ行く勇気がなかった。


夕方。


インターホンが鳴る。


母親が玄関へ向かう。


しばらくして声が聞こえた。


「翔太ー」


部屋のドアが開く。


入ってきたのは蓮だった。


「何してんだよ」


第一声がそれだった。


翔太は顔を逸らす。


「別に」


「別にじゃないだろ」


蓮は部屋の床に座った。


沈黙。


数秒。


そして蓮が言った。


「サボりか」


「……」


「サボりだな」


否定できなかった。


蓮は怒らなかった。


説教もしない。


ただ静かに言った。


「悔しかったよな」


その一言で。


何かが崩れた。


「悔しいに決まってるだろ」


気付けば声が大きくなっていた。


「頑張ったのに」


「うん」


「全然通用しなかった」


「うん」


「俺だけ足引っ張った」


言葉が止まらない。


胸の奥に溜まっていたものがあふれ出す。


蓮は最後まで聞いていた。


一度も遮らなかった。


全部話し終えた後。


蓮はゆっくり言った。


「じゃあさ」


「?」


「辞めるのか?」


またその質問だった。


以前も聞かれた。


翔太は黙る。


考える。


そして。


首を横に振った。


「辞めない」


蓮が笑った。


「だろうな」


「悔しいなら続けろ」


そう言う。


「俺だって悔しい」


翔太は驚いた。


蓮はいつも前向きだったから。


悩まない人だと思っていた。


だが違った。


「俺もあの試合何もできなかった」


蓮は拳を握る。


「もっと上手くなりたい」


その顔は真剣だった。


天才に見える蓮も。


悩んでいた。


苦しんでいた。


それでも前を向いていた。


「明日」


蓮が立ち上がる。


「朝六時」


翔太は少し笑う。


「行くよ」


「遅れるなよ」


そう言って帰っていった。


翌朝。


午前五時五十分。


翔太はグラウンドへ向かっていた。


空はまだ薄暗い。


風は少し冷たい。


だが足取りは軽かった。


遠くに見えるグラウンド。


そこにはすでに蓮がいた。


ボールを蹴りながら待っている。


翔太は走った。


負けた。


悔しかった。


心も折れた。


それでも。


隣には親友がいる。


だからもう一度立ち上がれる。


少年たちの物語は。


まだ終わらない。

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