第4話「ライバルとの約束」
六月。
一年生大会のメンバー発表が行われた。
部室の空気は緊張に包まれていた。
一年生にとって最初の公式戦。
誰もが出場したかった。
顧問が紙を貼る。
みんなが集まる。
翔太も近付いた。
そして名前を探す。
上から順に見ていく。
蓮。
いる。
他のチームメイト。
いる。
そして――
神谷翔太。
あった。
補欠だった。
少しだけ安心した。
だが同時に悔しかった。
レギュラーではない。
試合に出られる保証はない。
現実だった。
その日の帰り。
翔太はひとりグラウンドに残った。
ボールを蹴る。
何度も。
何度も。
すると。
後ろから声がした。
「補欠だったな」
高瀬だった。
「はい」
翔太は苦笑する。
高瀬は隣に立った。
しばらく沈黙。
そして言う。
「悔しいか」
「悔しいです」
即答だった。
高瀬は頷く。
「いいな」
「え?」
「悔しいと思えるやつは伸びる」
意味が分からなかった。
だが高瀬は続ける。
「俺なんか一年の時ベンチにも入れなかった」
翔太は驚いた。
今の高瀬からは想像できない。
チームのエース候補。
誰よりも上手い先輩。
そんな人にもそんな時代があったのか。
「信じられません」
「よく言われる」
高瀬は笑った。
そしてボールを足元に置く。
「勝負するか」
「え?」
「一対一」
十分後。
結果は惨敗だった。
一本も抜けない。
ボールを触る前に奪われる。
スピードも技術も違いすぎた。
「強すぎる……」
翔太は地面に座り込む。
高瀬は水を飲みながら言った。
「今はな」
今は。
その言葉が引っ掛かった。
「今は?」
聞き返す。
高瀬は空を見上げた。
夕日が差している。
「一年後は分からない」
翔太は目を見開いた。
高瀬は真剣だった。
冗談ではない。
本気で言っている。
「神谷」
「はい」
「一年後」
風が吹く。
グラウンドのネットが揺れる。
「俺を抜け」
翔太は固まった。
無茶だ。
絶対無理だ。
そう思った。
だが。
なぜだろう。
胸が熱くなった。
「無理そうな顔するな」
高瀬が笑う。
「サッカーは面白いぞ」
そう言う。
「努力したやつが、たまに才能をひっくり返す」
翔太は立ち上がった。
夕日に照らされたグラウンドを見る。
遠い。
まだ遠い。
でも。
目標ができた。
「約束ですよ」
「おう」
高瀬は頷く。
「待ってる」
その日。
翔太は初めて思った。
ただ上手くなりたいだけじゃない。
勝ちたい。
追いつきたい。
超えたい。
努力の意味を探していた少年は。
初めて明確な目標を手に入れた。
そして。
一年生大会が近付いていた。
彼らの最初の戦いが。
もうすぐ始まろうとしていた。




