第3話「ひとりだけの朝練」
試合で決定機を外してから三日が過ぎた。
表面上、翔太はいつも通りだった。
学校へ行き。
授業を受け。
放課後は部活をする。
だが心の中では、あのシュートが何度も再生されていた。
ゴールキーパーと一対一。
決めれば勝利。
そして――大きく外れたシュート。
夜ベッドに入っても思い出す。
授業中も思い出す。
部活中も思い出す。
忘れようとしても忘れられなかった。
そんなある朝。
翔太はいつもより早く目を覚ました。
時計を見る。
午前五時。
蓮との約束は六時だった。
だが、なぜか眠れなかった。
しばらく天井を見つめる。
そして起き上がった。
「行こう」
誰に言うでもなく呟く。
グラウンドに着いた時、まだ誰もいなかった。
朝霧が薄く漂っている。
静かだった。
校舎も眠っているように見える。
翔太はボールを置いた。
そしてシュートを打つ。
一本。
二本。
三本。
何十本。
何百本。
ただひたすら繰り返した。
気付けば汗だくだった。
その時。
「何してんだよ」
声がした。
振り返る。
蓮だった。
「早すぎるだろ」
「目が覚めた」
「嘘つけ」
蓮は苦笑する。
「気にしてるんだな」
図星だった。
翔太は何も言えなかった。
その日から。
翔太はさらに早く学校へ来るようになった。
五時。
誰もいないグラウンド。
ひとりでボールを蹴る。
パス練習。
トラップ。
ドリブル。
シュート。
毎日。
毎日。
毎日。
だが。
努力したからといって急に上手くなるわけではない。
一週間後。
練習試合。
翔太はまたミスを連発した。
ボールを奪われる。
パスがずれる。
判断が遅い。
終わった後。
蓮が言った。
「前より良くなってるぞ」
だが翔太は首を振った。
「なってない」
「なってる」
「なってない」
言い合いになった。
珍しかった。
二人がこんな風になるのは。
その時だった。
「お前らうるさい」
突然声が飛んできた。
振り向く。
二年生だった。
背が高い。
短髪。
鋭い目。
サッカー部の主力選手。
高瀬悠斗。
チームでも有名な存在だった。
「神谷だっけ」
高瀬は翔太を見る。
「はい」
「お前最近朝練してるやつだろ」
「はい」
「だったら落ち込む暇あるなら練習しろ」
あまりにも真っ直ぐだった。
翔太は固まる。
高瀬は続けた。
「努力して結果出ないやつなんか山ほどいる」
厳しい言葉だった。
だが。
なぜか嫌な感じはしなかった。
「それでも続けるやつだけが上手くなる」
そう言って去っていく。
帰り道。
翔太はその言葉を何度も思い出していた。
努力しても結果が出ない。
確かにそうだ。
でも。
だから何だ。
辞める理由にはならない。
翌朝。
翔太はまたグラウンドへ向かった。
誰もいない朝。
ボールを置く。
深呼吸。
そして走り出す。
以前よりも少しだけ前向きな気持ちで。
その頃。
遠くからそれを見ていた人物がいた。
高瀬だった。
彼は小さく笑う。
「少しは根性あるじゃねえか」
そう呟きながら。




