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『ゴールまで、あと一歩。』  作者: S.S


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2/10

第2話「最低の初試合」

翌朝。


午前五時四十分。


目覚まし時計が鳴る前に翔太は目を覚ました。


窓の外はまだ薄暗い。


眠い。


正直かなり眠い。


だが起きる。


昨日の約束があったからだ。


ベッドから飛び起き、急いで着替える。


母親が驚いた顔でリビングから顔を出した。


「どうしたの? 熱でもある?」


「なんでだよ」


「翔太が自分から早起きするなんて珍しいから」


ひどい言われようだった。


だが否定できない。


普段の自分なら休日にこんな時間に起きることはまずない。


朝食を急いで食べ、自転車で学校へ向かった。


グラウンドに着くと、すでに人影があった。


山田蓮だった。


ボールを蹴りながら待っている。


「お、来たな」


「早いな」


「五時半からいた」


「何でだよ」


「楽しみだったから」


そう言って笑う。


本当に変なやつだ。


でも。


その笑顔を見ていると不思議と元気になる。


「まずはトラップな」


蓮がボールを投げる。


翔太が受ける。


弾く。


転がる。


失敗。


「もう一回」


投げる。


受ける。


失敗。


また失敗。


また失敗。


何度やっても上手くいかない。


だが蓮は怒らなかった。


呆れもしない。


そのたびに言う。


「今のは足が固い」


「今度は目線」


「焦りすぎ」


「もっと力抜け」


一つ一つ丁寧だった。


一時間後。


翔太は汗だくだった。


足も重い。


息も上がる。


それでも少しだけ変化を感じていた。


昨日より。


ほんの少しだけ。


ボールが言うことを聞く。


そんな気がした。


「よし」


蓮が頷く。


「昨日よりマシ」


「その言い方ひどくない?」


「事実だからな」


二人で笑った。


それから毎朝の練習が始まった。


学校がある日も。


休みの日も。


朝六時。


グラウンド集合。


最初は辛かった。


眠いし。


疲れるし。


友達はまだ寝ている時間だ。


だが不思議なことに続いた。


サッカーが好きだったから。


そして。


蓮といるのが楽しかったから。


数週間後。


一年生だけの練習試合が組まれた。


相手は隣町の中学。


前回の失敗が頭をよぎる。


試合前。


翔太の手は汗で濡れていた。


心臓もうるさい。


また失敗したらどうしよう。


またみんなに迷惑をかけたらどうしよう。


不安ばかり浮かぶ。


「神谷」


蓮が声をかける。


「大丈夫か」


「いや全然」


正直だった。


蓮は笑う。


「まあそうだろうな」


「笑うなよ」


「でも前より上手くなってる」


翔太は黙った。


そんな実感はない。


だが。


蓮は続ける。


「少なくとも最初の日よりは全然な」


その言葉だけで少し気持ちが軽くなった。


試合開始。


前半。


翔太はベンチだった。


外から試合を見る。


みんな上手い。


同じ一年生とは思えない。


ボールを受ける。


判断する。


動く。


そのスピードについていけない。


本当に自分は試合に出ていいのだろうか。


そんなことを考えてしまう。


前半終了間際。


蓮が見事なドリブル突破からゴールを決めた。


歓声が上がる。


チームメイトが集まる。


蓮は笑っていた。


眩しかった。


同級生なのに。


別世界の選手みたいだった。


ハーフタイム。


顧問が言う。


「後半、神谷入れ」


胸が跳ねた。


まただ。


出番が来た。


後半開始。


翔太はピッチに立つ。


前回よりも少しだけ落ち着いていた。


朝練をやった。


努力した。


だから大丈夫。


そう自分に言い聞かせる。


しかし。


現実は甘くなかった。


開始十分。


味方からパスが来る。


トラップ。


成功。


そこまでは良かった。


だが次の瞬間。


相手が寄せてくる。


焦る。


慌てる。


適当に蹴る。


ボールは誰もいない場所へ飛んでいった。


観客席からため息が聞こえる。


顔が熱くなる。


その後もミスは続いた。


パスミス。


判断ミス。


ポジションミス。


自分だけが置いていかれる。


そんな感覚だった。


そして試合終了直前。


最悪の場面が訪れる。


同点。


残り一分。


味方がボールを奪う。


カウンター。


前線には翔太。


パスが出る。


完璧だった。


相手キーパーと一対一。


決めれば勝ち。


誰もがそう思った。


「打て!」


ベンチから声が飛ぶ。


翔太も打つつもりだった。


だが。


足が震えた。


緊張。


プレッシャー。


恐怖。


全部が一気に襲ってくる。


そして。


シュートは大きくゴールの上へ飛んでいった。


静寂。


数秒後。


試合終了の笛。


引き分けだった。


翔太はその場に立ち尽くした。


決められた。


絶対に決めなければいけない場面だった。


それなのに。


外した。


試合後。


チームメイトは誰も責めなかった。


「ドンマイ」


「次だ次」


そう言ってくれた。


でも。


それが逆に苦しかった。


夕方。


誰もいなくなったグラウンド。


翔太はゴール前に立っていた。


同じ場所。


同じ角度。


何度もシュートを打つ。


一本。


二本。


三本。


決まる。


でも。


試合の時とは違う。


こんなの意味がない。


そう思ってしまう。


「帰らないのか」


振り向く。


蓮だった。


翔太は俯いた。


「俺さ」


声が震える。


「向いてないのかな」


初めて口にした弱音だった。


蓮はしばらく黙っていた。


そして。


ゆっくり言った。


「じゃあ聞くけど」


「?」


「今日外したから辞めるのか?」


翔太は首を振る。


「辞めない」


「じゃあ明日も来るか」


「行く」


「朝練は?」


「やる」


蓮は笑った。


そして言った。


「だったらまだ終わってないだろ」


夕日が沈む。


オレンジ色の空が広がる。


翔太はゴールを見つめた。


遠い。


とても遠い。


でも。


少しだけ近づいた気もする。


そんな気がした。

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