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パンケーキではずみをつけて

「失礼な。何を想像しているんですか」

「だって……怒らせたかなって……」


お前の罪を挙げてみろと言われているような心持ちだ。今から死ぬその理由を自分で述べてみろと。

処刑台に登るような気持ちで告げると、エンジュは小さく肩を竦めた。


「このくらいで怒りませんよ。そこまで短気ではありませんし……」


ちょうどいい。この機会に言っておこう。

そう前置きしてエンジュが告げる。そんなに恐々とする必要はないのだと。


「貴女が想像しているようなことはあり得ません。私の性格としても、状況としても」


トウカはそう思い込んでいるようだが、不快だからとすぐ殺しにかかるような短気な性格ではない。大量殺人犯ではあるが、殺しには理由があって、それは気分によって行われたものではない。トウカの死ぬ殺される妄想は勘違いだ。

第一、仮にエンジュがトウカを殺しにかかろうとすればエンが止めるだろう。だからこちらの一挙一動に怯えないでほしい。ふとした瞬間に殺されるかもしれないなんて、まったくの杞憂なのだ。

そこをなくさないとこれから先、何の関係も築けない。


「ぅ……」


それは確かに、そうだけど。小さくトウカが唸った。

でも大量殺人犯だし。怖いものは怖い。エンという安全装置があるからといって、じゃぁ大丈夫かと無警戒でいられるほど図太くも単純でもない。こちらとら、殺しだ何だと無縁な平凡な人生を送ってきたのだ。いきなり大量殺人犯なんて物騒なものと一緒にされてみろ。

それをどう伝えたものか。言葉を選ぶトウカへ、エンジュが追撃する。


「私としても、好いている女性に怯えられるのは悲しいのですが」


この目で視て一目惚れした女性だ。監視役なんて4課の職員がやればいいことを、面倒臭い司法取引までしてわざわざ指名するくらいには。あらゆる手段を使って手元に置きたいと思うほどに。

それくらい執着している相手に怯えられたら思うところはある。傷つくほど繊細ではないが、落ち込みはする。惚れた云々はいったん置くにせよ、せめて対等な相手として接してほしい。


ほんの少し目を伏せて、しかし目は逸らさずに告げる。異能の目越しに視たトウカはやはり美しく輝く逸材だった。


「う…………ご、ごめん……」


そこまで言われてしまったら。気まずそうに謝罪を口にする。

確かに、変な妄想を膨らませすぎていたかもしれない。自分のことばかりで、エンジュの気持ちについてまったく考えていなかった。失礼も失礼だ。申し訳ない気持ちでいっぱいになり、思わず俯く。


「わかればいいんですよ。……では、詫びの気持ちがあるなら表明していただけますか?」

「な、何させるの……?」


まさか土下座とか。息を呑むトウカへ、エンジュがテーブルの上のパンケーキを指す。


「一口いただけますか? ホットケーキとどう違うのか確かめたいですし……それに、エンにあげて私にあげないなんて不公平ではありませんか?」


ねぇ、と。そう言うエンジュの声はどこか甘く、しかし嫉妬も滲ませて。

使い魔に対抗するなんて大人げないですよ、というテーブルの下からの視線は無視。いいですよね、と念押しする。


「じゃぁ……」


この一口でこれまでの態度の詫びになるなら。

一口切り分け、生クリームと一緒にフォークに乗せて差し出す。一瞬きょとんとしたエンジュは、次の瞬間上機嫌にフォークに食いついた。

あ、しまった。これ、『あーん』ってやつじゃん。トウカが遅れて気付く間にエンジュは口の中のパンケーキを咀嚼していた。やりとりの甘さに喜んでいた端正な顔はパンケーキの甘みに眉を寄せていく。


「……こんなに甘くする必要があるんですか?」


甘さはいっそ暴力的、上に乗る生クリームとジャムの量は馬鹿の一つ覚えのよう。散りばめられたブルーベリーとクランベリーとラズベリーは手元が狂って果物缶をひっくり返したのではないか。

まったく理解不能な食べ物だ。自分が守り人を務めている間に、こんなよくわからない糖分の塊が世に生まれていたなんて。


「ふ……っはは……」


エンジュのあまりにも率直な感想につい笑ってしまった。

総じて男性というものは甘いものが苦手というが、パンケーキをここまでこき下ろすなんて。こちらとら、このふわふわの5段重ねがないとやってられない時だってあるというのに。明日が雨で、一時間目から退屈な座学の日とか。


「これがいいのよ。わかる?」

「わかりませんね」


口直しなのだろう。エンジュがコーヒーを飲む。しかし口内の甘みがすべての味を上書きしているらしく、眉間の皺はさらに深くなった。

それがおかしくてまた吹き出す。店内に軽やかな笑い声が響いた。

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