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そして10日目

それきり何事もなく10日目。


本当に10日目だよねとカレンダーを確認する。ずっと家に引きこもりっぱなしの生活を続けたせいで日付感覚がいまいち怪しい。規則正しい生活は続けているので間違いはないだろうが、もしかしたら気が付かない間にずれているかもしれない。今日が9日目かもしれないし、11日目かもしれない。

9日目ならまだいい。11日目だったらどうしよう。エンジュが切った期限は10日だ。それ以上を過ぎたらイコール死んだものと捉えてくれと言っていた。もし今日が11日目だったら、その『もし』が実現してしまったことになる。

そうでありませんように。カレンダーを見て、ちゃんと今日が10日目だと確認する。その確認作業を朝から何回も続けていた。


5日目の夜に不穏な動きを見せた以外、エンはいつも通りだ。愛嬌のある馬鹿犬とばかりにトウカに寄り添っている。

そしてアンラの鳥もとい唐揚げもいつも通り。派遣されて以降、微動だにしないまま10日目を迎えた。相変わらず今朝も動かない。

ただただ、トウカの不安と心配が積み重なり、解き終えた課題のノートと一緒に『エンジュに言いたいことリスト』の紙が積み上がるだけ。


その生活も今日で終わるはずだ。エンジュが帰ってくるにしろ帰ってこないにしろ、どちらにしても状況が動くはず。

果たしてどちらになるか。カレンダーで日付を確認した後は玄関の方を見つめるばかりだ。


今日ばかりは何も手につかない。気を紛らわすためにエンの毛並みをもみくちゃにすることすらできない。

どうかどうか、あの玄関ドアが開きますように。ただいま戻りましたと何気ない顔でエンジュが顔を覗かせますように。


ただひたすら、じっと待つ。切望の時間は果てしなかった。


朝日が差し込む窓の明るさが徐々に変わっていく。日が昇り、昼へと移り変わっていく。ベランダの日当たりは非常に良好、洗濯日和だ。

わぅ、とエンに促されて、トウカはやっとそこで立ち上がった。時計を見てみれば3時間ほど、玄関ドアを見つめていたままだったらしい。自分でもさすがにそれはどうかと思うと苦笑して、昼飯を作りにかかる。少しでも気を紛らわすために昼飯には手間をかけることにした。いつもなら面倒がって簡単に時短で済ませがちな下ごしらえを丁寧にやり、できあがった炒飯にわざわざスープまでつけた。皿洗いも念入りに、ついでに冷蔵庫に作り置きした麦茶も交換して。

そうして一息ついて、しかしそこから何かをやる気にはならず。何かをしようとしても集中できず、些細な物音が聞こえるたびに玄関の方を振り返ってしまう。


そわそわと落ち着きのないまま時間を過ごしているうちに、ベランダに差し込む光はずいぶん傾いてきた。

それなのにまだエンジュは帰ってこない。玄関ドアは動かないままだ。もしかしたらという気持ちを押し殺し、まぁまだ『10日目』の最中だし、と気を持ち直す。日が落ちた後に帰ってきたって、まだ『今日』のうち。夜だろうが『10日目』は『10日目』。エンジュなら言いそうな理屈だ。日付が変わる前なら『10日目』の範疇でしょう、なんて言って。100年ほど守り人をしているせいでそのあたりの厳密さは緩くなっていそうだし。


そう、だからまだ大丈夫。死んだと決まったわけじゃない。

5日目の夜、エンが不穏な動きをしたのは飼い主の死を読み取ったからだとか、それを悟られないよう平然としたふりを続けているとか、そんな悪い想像はありえない。

常にそうだ、とトウカは自分に言い聞かせる。何でも悪い方向へと想像を膨らませてしまう。エンジュを大量殺人犯だと思っていた時も、些細な行動で殺されるとかどうとか恐々としていた。今思えばなんて滑稽だったんだろう。

そう、だからまだ大丈夫。この胸にある不安はただの思い過ごしで、過剰な悪い想像だ。杞憂のはず。


そうだよね、とエンを撫でる。もふもふの毛並みがひどく心に沁みた。思わずぎゅっと抱きしめる。


泣いてなんかない。


***


目を閉じて、開けて。部屋は照明の明るさに満ちていた。


「……うそ、寝てた?」


いつの間にかもう夜になっていた。その事実に愕然と呟く。

不安でたまらなくなって泣いて疲れて寝落ちたなんて、と現状を理解するよりも先にトウカはあたりを見回した。

室内は照明が照らしている。暗さを感知して自動で点けられたもので、誰かがスイッチを入れたわけではない。ましてやエンジュが帰ってきて点けたわけでは。


室内も家の中も、人の気配は一切ない。しんと静まり返っている。

その事実がトウカの心を波立たせる。ばっと壁掛け時計を見上げれば、時刻はもう23時を回っていた。


『10日目』が終わろうとしている。そんな、まさか。



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