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悶々考えて向き合って

ごろりと寝返りを打つ。おやすみと言っておいてなんだが、さっぱり眠れない。

エンジュへの文句をノートに書き綴っているうちに、避けられない話にぶち当たってしまったせいだ。


一目惚れ、婚約者。そのあたりのことをいい加減自分も真面目に考えなければいけない。

平たく言えばエンジュの想いを受け入れるか否か。


まず現状確認から。エンジュは私に惚れている。魂の色を視るという能力で惚れ込んだ、いわゆる一目惚れだ。

どうしても手に入れたくて仕方なかったから、大量殺人犯の監視役なんて名目をわざわざ作ってまで手元に置こうとした。

大量殺人犯という身分が任務を円滑に進めることも兼ねた偽りだとわかっても、社会的な立場は婚約者のまま。守り人候補生に守り人が恋をした、うん、いい話だ。


で、だ。仮にここで私が嫌と言ったらどうなるだろう。答えは簡単。その余地はない、だ。

エンジュはとても綺麗に檻を作り上げた。もう逃げられない。これだけ私の処遇が手厚いのもエンジュが周到だから。もはや徴収というように、私の人生をまるっと引き取ったからだ。まな板の上に乗った魚はもう降りられないのと同じ。

外堀は埋め立てられ、それどころか道を舗装して赤い絨毯まで敷かれている。何なら左右に人が並びライスシャワーを撒き散らしているまである。


逃げられない、受け入れるしかない。そう表現するとまるで籠の中の鳥、悲劇のヒロインなことこの上ない。だけどあいにく、私はこの環境を悪くないと思ってしまっている。エンジュといっしょに暮らすのは案外心地良い。エンも可愛いし。

だからこのまま、婚約者という身分を受け入れてしまうのだろう。


じゃぁ、エンジュのことを好きかっていうと、うーん。考えはそこで止まってしまう。

エンジュはきっと私の心が手に入らなくても問題にはしないだろう。欲を言えば心も欲しいが、気持ちが向いてくれないならそれはそれで仕方ないと思うはず。身柄は手に入ったのだからそれでいいと。

仮面夫婦というほど冷たくもないが、距離感は『親しい異性の友人』だとか『親戚のお兄ちゃん』の扱い止まりでもいいと。貴女が心地良い距離で構いませんと言うだろう。というか実際、今がそうだし。


エンジュの態度はそう。あとは私が選ぶだけ。じゃぁ好きかっていうと、うーん。

そもそも人を好きになるってなんだっけというところから始まってしまう。ユキシロだって恋人だったし、まぁそれなりのことはしたけど、うーん。


少女漫画にありがちな、燃えるようで明確なわかりやすい感情だったらいいんだけど。そうでないから困る。

一緒にいて心地良い、気が楽、落ち着けるというのはただ気を抜いているだけでは。気を抜いてリラックスできる相手というのは、好きとか愛とかそういうものを向ける相手とはカテゴリが違うというか。

エンジュとキスしたいとかそういう欲求はあんまりないし。ユキシロにもあんまりなかったけど。うん、じゃぁなんで私はユキシロと付き合ってたんだ?


いなければ寂しいと思う。寂しいと思うのは、いて当然だと認識しているから。そう思うほど、エンジュという存在は私の中に食い込んでいる。

危険とわかっている仕事に行くと聞いて心配だし不安だ。安全に無事で帰ってきてほしいとも思う。だけどそれはエンジュに限ったことではないし、アンラさんだって怪我なく帰ってきてほしい。できれば4課のひとたちも。この気持ちは、親しい相手とその周りの人へ向けるものとして当然のものだし。心配だからイコール好きって話じゃない。みんなまとめて心配だし無事を祈りたい。


うーん。ますますわからない。恋ってなんだっけとか、人を好きになるってなんだっけとか、話が哲学的になってきた。

なんでこんなこと悩まなくちゃいけないんだ。あぁもう。この間に何度寝返りをうったことか。ごろごろと転がりすぎて落ち着かないことこの上ない。ベッド脇のエンはきっと、やかましいなぁって思っているはず。ごめんねエン、文句は飼い主に言って。


くそ、エンジュめ。寝不足は大敵だってのに。お前のせいで眠れない。おのれぇ、と小さく唸った。

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