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紙も思いも積み重なって

はい、案の定紙一枚におさまりませんでした。どうしてくれるんだ。

びりびりと裏表紙側から破ってもう5枚目だ。内容の重複だとか書き直しだとかでいくらか無駄な行はあるけど、それにしたって。

このままじゃノートの厚さが半分になる、というか課題を書き留めている側に追いついてしまう。


「新しいノート、おろそうかな……」


表紙の桜の絵がかわいいからと買って、使う機会のないまま夏になって使いどきを逃したノートがあったはず。

ノート一冊丸ごとエンジュに言いたいことで埋め尽くすつもりはないが、このまま課題用のノートを破るよりはいいだろう。

よいしょと立ち上がって、自分の部屋の机に取りに行く。その足元にエンがぴったりついてくる。


アンラの鳥もとい唐揚げは相変わらずだ。この5日の間に羽毛ひとつ動かさない。まるで置物のようだ。

エンもそうだが、使い魔は動物と違って餌を必要としない。排泄もしない。だから置物状態で問題があるわけではないのだが、もっとこう、愛嬌ひとつも欲しいと思うのはわがままだろうか。

視力によらない感覚を用いて家の周りを見張れという任務に忠実な性格はアンラの使い魔らしいといえばそうなのだが。それともエンが特別に人懐っこいのか。そういえば飼い主であるエンジュとトウカ以外に愛想を良くしている姿を見たことがない。


「もしや例外?」


もしかして使い魔というものは無愛想で愛嬌無しが当たり前で、エンの自分に対する態度だけが例外だったりするのか。

もしやと思い問いかければ、わんっと元気のいい返事がきた。そうですよ、と。


「まぁ、エンジュが飼い主だものね……」


一目惚れ云々を思い出して苦笑をひとつ。飼い主が『好き』と思っているからエンもまた『好き』と思っていてくれているのだろう。

愛嬌無しが思わず全力で懐くくらい『良い』のだとはつゆ知らず。そういうものなのかとトウカは呟いた。


そんなやり取りをしながら、桜柄の表紙のノートを持ってリビングへ。破り取った5枚の紙を表紙に挟んで、さらに文章をこねくり回す。

言いたいことはあらかた5枚の中に書き出した。あとは重複や無駄なことを切り落として整理してまとめればいい。

ひとつひとつ言うのも長くなるからこれを読めと顔面にノートを叩き付けてやろう。つまり読んで理解できるほど内容を整える。目標ができたところで改めて綴り直す。


「ひとつめ……心配をかけさせるな、っと……」


***


つらつらと書き綴り、見返しては書き直し。数回繰り返して、なんだこれと冷静になってノートを投げ出した。

書いているうちに、どの立場から物を言っているんだと冷静になったせいで。この口ぶり、まるで恋人か何かのようだと思ってしまったせいで。

そんなわけで、思わず筆を投げ出してしまった。気がつけばいい時間だ。こんなことをやっていないで寝よう。言いたいことをまとめるにしろ、いったん時間を置いて明日やろう。このままじゃ煮詰まってしまう。


ぽいと投げ出した紙面をエンが興味深そうに覗いている。使い魔とはいえ犬に文字が読めるのか、あのまとまらない文章を理解できるのか不思議だが。仮に理解できたところでエンジュに伝える手段はたぶんないので大丈夫だろう。もしも伝わることがあったとしても、心配のあまりあれこれ考えていましたよ、と丸めてくれるはず。書いた一言一句すべて伝わるわけがない。はず。


「エンもさぁ、言ってやってよ。私にこんなに心配かけさせて、悪い飼い主だなって」


わん。紙面の空いたところに判を押すように前足を置いたので、おそらくそれが同意のサインだろう。うんうん、エンもわかってくれて何より。

ふふん。エンはこっちの味方だぞ。やーいやーい味方なし。


「唐揚げちゃんもそう思うよね?」


しーん。話を向けたところでアンラの鳥もとい唐揚げは微動だにしない。話が聞こえているだろうアンラに届いて、彼女が味方してくれるならそれでよし。


話をまとめたところで寝る用意を始める。おやすみ唐揚げちゃん、と声をかけてリビングの明かりを落とし、部屋で寝間着に着替える。着替えの間はエンは外に出ているが、着替え終われば部屋に入ってくる。そしてベッドの脇で丸まるのだ。

使い魔は食事が必要ない。生物とは違うのだ。だからきっと睡眠も必要ないのだろう。それでも寝る姿勢を見せてくれる。その寄り添い方が嬉しい。

エンの黒い目は閉じられているがきっとすぐに開くのだろう。異常があれば対応できるように。最も間近で護衛するものとして。


おやすみ、とひと声かけてから部屋の明かりを落とした。

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