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待つだけの時間、5日目

私が何を考えても悩んでも何かが変わるわけじゃない。

無事に帰ってきますようにって祈ることで不思議パワーが発生して奇跡が起きるわけでもなし。そんな都合のいいことあるわけない。そんなこと祈られてもさすがの熊神も困惑するだろう。

エンジュは100年も長い間守り人をやってきた。相応の技術もノウハウもある。新人ならいざ知らず、ベテラン相手に私が何を祈ることがあるのか。

守り人未満の素人にできることは信じて待つことくらい。そう思ってはいるけれど。


「だからといって心配しないわけじゃないんだよなぁ~?」


ねぇエンそう思うでしょ。もふもふ。


エンの真っ黒な毛並みをもみくちゃにしつつ、トウカは溜息とともに本音を吐き出した。

心配したって仕方ないと前向きに思い直し、それでも心配なものはしょうがないと後ろ向きに思い返し、しかし心配したところでどうしようもないと結論を出す。そんな思考のループを続けてもう5日だ。

今日で5日目。しかも夕飯を終えた時刻だ。エンジュが提示した『10日間』の半分を超えて後半に回り始めた。ちなみにエンジュからの連絡はまだないし、緊急用の電話回線も静かだ。


家に引きこもっている間にやれと出された課題もちょうど半分。今日の分はもう終えてしまって、しかし明日の分に手を付けるには微妙な頃合いだ。今からやるとキリのいいところまで進めているうちに深夜どころか明け方になるし、そうやって前倒しに消化していくと後で暇になって困る。

というわけで今日はもう自由時間にしようと決め、さりとてやることもなくただ思考を遊ばせてループにハマって今に至る。


「はぁ……」


エンジュは大丈夫だろうか。守り人は熊神の加護によって人よりずっと丈夫でしぶといから滅多なことでは負傷しないというが。腹を思いっきり刺された昨日の今日で言われても信じがたい。

半不老不死だからよほどのことでは死なないなんて言っているが、それだって首を落とされたり細切れにされたらさすがに死ぬだろうし、そこまでいかなくても手足のひとつふたつもげたりするかもしれない。

そんな状態で帰ってきたらこっちはどんな顔をすればいいのか。腹を刺された時だって、こっちは生きた心地がしないほど動揺したというのに。


ぐるぐると考えるトウカの頬にエンが鼻先を寄せる。

わん。また悪い方向に変な想像してますね、とからかいつつも気遣う風情で前足をトウカの膝に乗せた。


「うぅ……エン……だってぇ……エンは心配じゃないの?」


わぅん。まぁあの飼い主なら大丈夫じゃないですか。

ぱたりとエンが尻尾を揺らす。他人事のようにそっけない返事は信頼のあらわれ。

自分もエンと同じようにどっしり構えていたいものだ。羨ましい。そんなことをトウカが考えていると、エンが前足で掘るようにしてテーブルの上を探る。今日の分の課題が終わって積み上げたノートと参考書を崩し、前足で器用にノートの裏表紙をめくる。


「何?」


わんわん。そんなに考えるなら、帰ってきたら言いたいことでもまとめておけばいいんじゃないですか。ほら、あるでしょう、色々と。

そう言いたげな視線が投げかけられる。


「むむ……確かに……ナイスアイデアかも」


確かに。このままエンジュが帰ってきたとことで、言いたいことがありすぎて上手く言葉にできない気がする。

いきなり10日間閉じ込めるなとか、手を回してあるから問題ないだろうと勝手なことを言うんじゃないとか、大丈夫かどうかで心配でたまらなかったとか、腹を刺されたという動揺も抜けてないのに次を持ってくるなとか、だいたいユキシロのことだってまだ整理がついてないのにとか。それでさらに怪我の一つでもしてみろ、言いたいことは倍に膨らむはずだ。

それらを適切に順番に言えるかどうか怪しい。というか無理だ。感情のままに、何もまとまらない状態でまくしたててしまうに違いない。それが発端で言い争いになるかもしれないし、言い争いが決定的な決別になってしまうかも。

そんなの絶対に良くない。というわけで、エンの勧めに従うことにした。びりっとノートを一枚破り取ってペンを走らせる。


「エンジュに言いたいことリスト……っと……」


紙一枚で足りなかったらどうしよう。

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